幽霊
何度やったって同じことだ。惨めに足掻こうが暴れ散らかそうが、頭にお札を貼り付けようが、関係ない。結局この場面に帰着するのだ。デジャブ。何度だって見た。何度も何度も。こうなることは予め決められていたのか? 因縁の邂逅。そんなはずはない。そんなはずあるわけないだろう。同じ花が我々を同じように出迎える。同じような色合い。同じような風景。同じような香気。あの匂いは我々をどこかへ連れていく。懐かしいあの場所へ。日の光を柔らかく反射して白く輝く湖。暗闇の中で所々オレンジ色に照らされたトンネル。高台にある見晴らしの良い草原。匂いは旅する幽霊。一期一会。同じものと同じようなもの。同一性を保証するのは? 弱さだ。そうだろ? 愚鈍な弱虫。……それが何か? 極上の羽虫。弱さは誰にでも訪れる。そして同じ弱さには二度と出会わない。同じような弱さに塗れて、足のつく浜辺で溺れてしまう日々。常々口酸っぱく言っているだろう。差異とは我々の御し難い同一性の裏返しだと。そうでなければすぐに薄れていってしまうだろう。我々がつかみ掛けているほんの僅かな記憶でさえも。だから我々は何度でも空目するのだ。沈みゆく幽霊船に自らの虚栄を重ね合わせて。ヨークタウン。ラズベリー。エッフェル塔。魔王。ひしゃげた折り鶴。千切れた茎。耳鳴り。幻影とは私の実直な影ではない。あり得たはずの、あり得なかったはずの無数の、そして一つだけしかない幽霊なのだ。だから、だから、だから、……。全ての鏡とは私自身であり、そうでなかったとは誰にも言えるはずがないのだ。
いずくんぞ誰ぞここを通らんや。