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第17話

 草原をひたすら駆けぬける。


 ラグナルとレヴィは前衛として訓練されているんだろう。


 私とヴィオラは、2人についていくので精いっぱいだった。


 養成所で走りこみをしていなければ、私はついていくことも出来なかった。


 狼煙のろしに近づくにつれて、魔物の死骸しがいすすけた血のにおいが濃く充満した。


「おい、リア、ヴィオラ! おせぇぞ!! 早く来い!」

「はぁ……本当に使えねぇな、コイツら」


 ラグナルとレヴィから罵倒ばとうを受ける。


 しかし2人に、言葉をかえす余裕はなかった。


 と、緩やかな丘の頂上でようやく2人の足がとまった。


「おーし、こっからが本番のようだなぁ」


 肩で息をしてようやくラグナルとレヴィに追いつく。


 気づいたらネビュロスが目の前にいた。


 まるで空を泳いでいるようだった。


 ときおり、鬱陶うっとうしそうに人を追い払っていた。


 一撃が致命傷だ。


 しかし、あまりにも大きいからか、動きはやや遅かった。


 緩慢かんまんな動き、気持ち悪い巨大な体躯たいく


 私の中が、憎悪ぞうおで塗りつぶされていった。


 虫型の魔物――無数のヴェントラがラグナルに襲いかかる。


 しかしラグナルに届くまえに、レヴィが笑いながらまえに出た。


「アハハハハハ! いいねぇ! 魔物は本当にいいよ! 技量が分かってない! アタシに斬られにやってきてるんだからさぁ!!」


 緑色の血があたりに飛び散る。


 前はこの血で魔物が呼びよせられてきた。


 でも今は戦場だ。


 気にする必要はなかった。


 どこも血にまみれ。


 すでに無数の魔物がいる。


 人と魔物の戦争にすらみえた。


 ヴィオラが私の裾をぎゅっと握ってくる。


 しかし私はヴィオラを心配する余裕がなかった。


 なにしろセリナを精霊化させた魔物ネビュロスが目のまえにいるのだ。


 こぶしを強くにぎり、気づけば下唇を噛んでいた。


「ハハハ、良い目だなぁ! おい! 死ぬヤツの目だぜ!」

「……早く行かないのですか?」


 ラグナルの鋭く光った漆黒の瞳を睨みつける。


「もちろん行くぜ。狼煙のろしもちけぇ。ちゃんとついてこいよ!」

「当然です」

「は、はい……」


 私とヴィオラが返事をすると、ラグナルが小さな丘を下りはじめる。


 レヴィを含めた私たち3人がつづく。


 下りはじめてからすぐ、無数の魔物が私たちに襲いかかってきた。


「ヴィオラ、防御魔法をお願い」

「う、うん」


 短いやりとりで、ヴィオラは私をふくめた4人に防御魔法をほどこす。


 うっすらと光を発したことでレヴィがすこし驚いていた。


 ラグナルは驚いていない。


 たぶん防御魔法というものを知っているんだろう。


 虫型の魔物――ヴェントラが大群で押しよせる。


 レヴィは嬉しそうに笑っているが、剣で倒すには遠い。

 

 余計な体力を使わないためにも、土と風の複合魔法をはなった。


 荒れくるう暴風の中で、ちいさな石をつくる。


 暴風と石が、ヴェントラの大群をすりつぶす。


 ギーギーという悲鳴のような声が聞こえる。


 でも手を緩めるつもりはない。


 あれは私たちの敵。うつべき魔物。


 セリナが助かるための第一歩だ。


「オイ! アタシの出番ねぇぞ! リア! 止めろ! アタシにやらせろ!」


 レヴィが剣を地面にたたきつける。


 そんなとき、複合魔法を一匹のヴェントラが抜けてきた。


「レヴィさん、うち漏らしが来ました。お願いできますか?」


 指さすとレヴィは「一匹かよ」と文句を言いながら、瞬時に両断する。


 ガイルよりも何十倍も荒くとぎ澄まされた剣だ。


 これだけの技術があってもなお、レヴィはラグナルから剣を教わっている。


 背筋に冷たい感覚がはしる。


 ラグナルはまだ、剣を抜いていない。


 自分に届かない、と分かっているんだろう。


 だから剣を抜かない。


 抜く必要がないのだ。


 余裕のある立ち振る舞い。


 実際に戦うところが想像できなかった。


「……ッチ、想像以上じゃねぇか。チビの魔法がここまでたぁな……」


 ラグナルのぼやきが、風に乗って聞こえてきた。


 風が吹きあれ、草原の草を巻きあげる。


 私はネビュロスを指さした。


 目の前にいるのに無数の魔物のせいでまだ遠い。


 セリナと木のくぼみに隠れて、必死に声を押し殺したあのときを思いだす。


 あんな思いはもう十分だ。


「ラグナルさん、早く行きましょう。赤い狼煙は緊急なはずですから」

「焦んじゃねぇよ。それよりもその魔法、どれくらい持つんだ? てめぇが見てねぇと、すぐに消えるんじゃねぇのか?」


 そんなわけはない。


 すくなくとも私の魔法は、勝手に持続する。


 それに、長く持続させておくことも出来る。


「私の魔法はそう簡単にきえません。魔力を込めれば勝手につづきますから。どれだけ残しておきますか?」


 ラグナルが驚いたように眉をあげた。


 そんなに珍しいことを言っただろうか。


「……ならしばらく置いとけ。そうだな30分は持続させろ。ヴェントラの血に集まって魔物をひきつけれるかもしれねぇ。レヴィ、行くぞ。もっと暴れてぇなら先に行きゃできる」

「やったぜ! じゃ、アタシは先に行くぜ!」


 レヴィは丘を勢いよく下っていった。

 

 なにも話を聞いていない。


 ラグナルが「なんで生きているか分からない」と言った意味が、すこし分かった気がした。


 それにレヴィの服が傷だらけだったのも納得した。


「あんのバカが。おら、てめぇらも早く行くぞ」


 ラグナルも丘を走っておりていく。


 おいていかれてはまずい。


 ヴィオラに「早く行こう」と声をかけ、私たちも丘を駆けおりていった。

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