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第14話

 ——夜。


 サリアさんに負けた日から、私は女子寮をぬけだし、訓練場に行くようになっていた。


 実践のような、身体をうごかしながらの魔法をつかう訓練がたりてなかった。


 月明りのしたで、ひたすら魔法をつかう。


 はげしく動きまわりながら、土壁をつくり破壊する。


 魔力をねりづらい状況をつくるのと同時に、より魔力をねらなければ破壊できない土壁。


 私に足りないことを、満たしてくれた気がした。


 ——私は、あまかった。


 ガイルに偉そうなことをいって、私が手を抜いているではないか。


 それこそガイルやグレゴリーが言ってたとおり、無詠唱という才能にたよっていたのだ。


 そんなおもいを胸に訓練をしていた、ある日の夜だった。


「毎日毎日、あきずに精がでるな」


 グレゴリーが訓練場にやってきたのだ。


「なんの用ですか」

「ふん。キミにとって、私の訓練の意味がうすいことは知っている」


 答えになっていない。


 私をイラつかせに来たのだろうか。


 そもそも、なんで私に無詠唱をつかわせてくれないのだ。グレゴリーを睨みつける。


「自分がみとめてもらえない悔しさを、私にぶつけて楽しいですか?」


 嫌味をいってやったつもりだったが、グレゴリーは表情をくずさなかった。


 キリっとした眉のしたにある冷淡な、こげ茶の目をかわらず私に向けている。


詮索せんさくずきのようだな。まったく女という生き物は」

「私はレオナルドさんとルーカスさんに聞いただけです。それと女だから詮索せんさくずきというのは偏見です」


 ぴしゃりと言いきると、グレゴリーはつよく舌うちをした。


「よくまわる口だ。レオナルドとルーカス……まったく困ったものだな」

「それで、なんの用でしょうか。邪魔なので消えてもらえますか?」


 月明かりがてらすなか、めずしく降ろされたグレゴリーの黒髪がゆれる。


「……たいした話ではない。キミも強くなりたい、と思っているようだからな。すこし教官らしいことをしにきたのだ」

「……教官らしいこと、ですか?」


 そうだ、とグレゴリーがうなずいた。


「私がまだ学院にいたころに、すこし知識として学んだことがある。現代魔法と、古代魔法について、だ」

「……なんですか、それは」

「口をはさむな。今から説明してやると言っているのだ。いいか、古代魔法とは、現代魔法が栄えるよりも前にあったものだ。現在ではほとんど見なくなっているというが……リア、君の魔法はこれに当たるのかもしれない、と思ったのだよ」


 私の魔法が……?


 どういうことだろうか。


 少し冷えた風が、私とグレゴリーの間をぬける。


「現代魔法はむかし、精霊魔法と呼ばれていたらしい。精霊と契約し、精霊が力をかす。そうすることで魔法がつかえたのだ。いっぽうの古代魔法は、その人自身がもつ魔力をつかう。そしてその古代魔法を使う一部の者は――無詠唱だった、という文献が残されている」


 初めてしった。


 つまり私が詠唱をおこなう魔法が使えないのは、精霊と契約ができていないから……?


「キミが精霊魔法を使えない理由が、契約していないから、とでも思ったか? 残念だがちがう。いまの時代、精霊と契約して魔法を使うことはない。そもそも契約する方法を、だれも知らないのだよ。それくらい今の魔法は普及している」


 じゃあ私が詠唱魔法――つまり精霊魔法を使えないのはなんでなんだ。


 こげ茶の目が、私を射ぬくように細くなる。


「キミは普通の人とちがう何か、を持っているのではないのかな?」


 目を見開いた。


「やはり心当たりはあるようだな」


 そうだ、心当たりはある。


 私は転生者だ。


 前世の知識をもっている。


 この世界の住人とは、すこし違う存在なのはわかっていた。


 私は自分の魔法について正しく理解していない。


 火がつく理由も、精霊という曖昧あいまいなものじゃないことを知っている。


 グレゴリーが答えを待つかのように、じっと私を見つづけた。


「たしかに、私は普通の人と違うかもしれません……でもなんで精霊魔法は使えないんでしょうか」

「そんなものは知らん。古代ならいざ知らず、現代でキミのような稀有けうな人間は、ほかにいないからな」


 そう言うとグレゴリーは、私に背をむけた。


「さて、私はそろそろ行くとしよう」

「……私がどう普通の人と、どうちがうのか興味はないのでしょうか」

「キミの? バカをいえ、私は才能のあるものが嫌いだ。だれがこのんで才能があるキミの話を聞くのだ。だがまあ……もしも精霊とはなしができれば精霊魔法が使えない理由はわかるかもしれんがな」

「どういうことですか? 精霊と話す方法があるんですか?」

「精霊とはなす方法などしらん。太古の昔に消えさったのだろう。話は以上だ。あとは勝手に一人で悩みたまえ……これでもキミは私の教え子だ。知識がたりずに死んでしまっては寝ざめが悪いのだよ……」


 それだけ残して。グレゴリーは訓練場からさっていった。


 精霊は私を嫌っているかもしれない?


 なんで?


 どうして?


 疑問がつきなかった。


 同時に自分の能力の限界をきめられたようで、ふらふらとへたり込んでしまった。


 精霊と話をしたかった。


 でもその手段が分からない。


 どうしようもなかった。


 ゆさぶられた心を必死に落ちつかせる。


 月明かりが先ほどより、ずっと暗くかんじた。


 ……結局、私は精霊魔法が使えない。


 その事実だけを突きつけられただけ。


 なら、やるべきことは一つだけだ。


 私は、私の魔法をきわめるしかない。


 ふらふらと立ち上がって、グレゴリーがさった訓練場でまた、汗をながし始めた。


 ゆさぶられた心にフタをして。





 そうして月日はながれ――実践訓練の日がやってきた。

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