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第11話

 グレゴリーたちと別れ、訓練場へと4人で移動した。


 サリアさんは養成所を熟知しているらしく、だれも知らないような野外の訓練場に案内された。


 少しさびれていて、あまり使われていないのがすぐわかる。


 普通の訓練場なら、いろいろな種類の木の武器がおいてある。


 しかし、ここにあるのは木刀だけだった。


「そう言えばリア、髪はまだ切っていないんだね」


「そうですね。忘れていました」


 ポニーテールにまとめた肩よりすこし長い髪を、指ですいた。


 朝に結んでしまえばあまり気にならないので、本当に忘れていた。


 でもこれだけ気にならないなら、切らなくても良いのかもしれない。


「え、リアちゃん、髪を切る予定だったの!?」


「養成所に入った初日にそう言っていたんだよ。ヴィオラ、君からも止めてもらえないか?」


「そ、そうですねっ! もったいない、もったいないです! 絶対に私が切らせません!」


 なんでヴィオラとサリアさんが私の髪で結託けったくしているんだろう。


 そう言われると切りたくなる。


「……やはり切るべきなんでしょうか」


「ど、どうしてリアちゃんはこんなにも容姿に無頓着むとんちゃくなんでしょう……」


「君もそう思うか……元が良いだけにもったいない……」


 二人がなぜそうなる、という顔をしている。


 聞こえているよ。


 私はセリナの目を覚ますために頑張っている。


 だから私が可愛いとか、そういうのはいらない。


 いざというとき髪が邪魔だったら後悔する。


 そもそも私は前世が男だからお洒落しゃれなんてわからないし。


「おい、まだ始めないのか!?」


 待ちきれないガイルが、怒鳴るように割って入る。


 元男としては、いまのガイルの気持ちが痛いほどよくわかった。


 髪の話なんて退屈なだけだからね。


 サリアさんはヴィオラとの会話を切りあげて私たちを見渡した。


「待たせて悪かったね、ガイル。さて、誰から始める?」


 ヴィオラは淡い緑の瞳をすこしうるませて「私もやるのかな、無理だよ……」と呟いている。


 不安気なヴィオラを押しのけて、ひくい声が響いた。


「俺だ!」


 待っていました、とばかりにガイルが手をあげる。


 燃えるような赤い髪が元気にゆれた。


 サリアさんはガイルを一瞥いちべつする。


 木刀を手に取って、ガイルに1本だけ手渡す。


 そしてサリアさん自身でも1本持った。


「剣は一つでいいのかな?」


「おう」


「そうか、良いだろう。では――リア、開始の合図をお願いできるかい?」


 私がうなずくと、二人は木刀をかまえ対峙する。


 そして――


「はじめ」


 私の合図で、ガイルが駆けだす。


 魔物との戦いでも思っていたが、いま確信した。


 ガイルは魔法よりも、体術や剣術のほうが得意だ。


 一気に近づいて、木刀をふるう。


 魔法使いは接近戦によわい。


 ガイルの戦法は理にかなっていた。


 でもそれは並みの魔法使いだったら、の場合だ。


 サリアさんは剣術の心得ている。


 私はサリアさんの剣術に何度も打ちのめされている。


 一度、どうしてそんなに剣もあつかえるのか聞いたことがあった。


 そのときはある人から剣を教わったと言っていた。


 私もその人に剣を教えてもらいたいと思ったのだが、どうやら今はかなり疎遠らしい。


 なので私は諦めてサリアさんの剣術を教わっていた。


 もっとも私には剣の才能があまりなかったようだけど。


「うおおおおおおお!!!」


 ガイルの雄たけびが訓練場に広がった。


 振り下ろした木刀はサリアさんに向かう。


 しかしサリアさんは冷静にうけながした。


 ガイルの真っ赤な瞳が大きくなる。


「く、っそおおおおお!」


 ガイルには戦いの勘というのが備わっている気がした。


 打ち込みの一つ一つが、サリアさんの急所を捕えている。


 でもサリアさんはそのはるか上を行っていた。


 ガイルが打ち込むすべてが受け流される。


 外から見ていると、ガイルに稽古けいこをつけているようにすら見えた。


 サリアさんの未来が見えているような剣さばきには、本当に驚かされる。


 それくらい圧倒的な差があった。


「なんで、なんでだ!? クソ、クソッ、クソッ!!! そんなはずないんだ。俺は強い、俺は強いんだ……!」


 最初は自信のある表情を見せていたガイルも、だんだんと焦りに変わっていく。


 ガイルは詠唱で火炎の矢を飛ばすが、サリアさんの透き通るような青い瞳は見透かしていた。


 サリアさんが火矢をよけて、ガイルの足を払った。


 反撃が来るとは思っていなかったガイルは簡単に態勢たいせいをくずした。


 そしてすぐにサリアさんが木刀の切っ先を、ガイルへと向ける。


「勝負あり、かな」


 燃えるようなまっ赤な髪が、れたような気がした。


「クソ……そんなはず……そんなはずないんだ」

「なぜそう思うんだい?」

「俺はッ! 俺はッ! 貧民街でも敵なんていなかった! 誰も俺に勝てるやつなんていなかったんだ! こんな、こんな赤子みたいに扱われるはずがないんだ!」

「貧民街ではそうだったとしても世界は広い……君はリアの足元にも及ばないよ」


 なんで私を引き合いに出すんだ。


 サリアさんを半眼でにらむ。


 私は恨みを買いたくない。


 ガイルが真っ赤な瞳で私をにらむ。


 完全にとばっちりだ。ヴィオラも横で怖がってるし。


「黙れ! こんなチビ俺ならすぐにやれる!」

「そうかな? じゃあ今度は君とリアでやってみたらどうかな」

「サリアさん、私を巻き込まないで欲しいのですが」

「いいだろう? リアも周囲の実力をしっかりと図れる。ガイルもリアとの差を事実として理解できる。良いことしかないんじゃないかな?」


 説明されたらそうだけどね。


 でも私はそのあともガイルと付き合いがあるんだよ?


 ちょっと気まずくならないかな?


「来い! チビ! 俺が叩きのめしてやるッ!」


 ガイルが木刀の先を地面にたたきつける。


 すごいやる気だ。


「私はあんまりやる気がないんだけど……」

「うるせぇ! さっきのアイスストームで良い気になってるんじゃねぇぞ! 俺がお前に勝って、俺の強さを証明するんだ!」


 引く気はないらしい。


 サリアさんも楽しそうに、にこにこ笑っている。


 戦う以外の選択肢はない、か。


「あの、私が勝っても恨まないでくださいよ?」

「だまれ! てめぇを超えて俺は認められるんだっ!」


 ……会話になってない。


 私は渋々、サリアさんから木刀を借り受けて、ガイルと相対した。


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