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第10話 農地改革

「ロエナです。よろしくお願いします」


そう言ってローザマリアに頭を下げたのは、ローランド商会から紹介されてやって来た、新しい侍女であった。髪を後ろできっちりと結い上げ、真面目そうな目をしたロエナは、完璧な角度でお辞儀をした。


「ええ、よろしくお願いね。急な話だったけれど、大丈夫だったかしら?ここは王都からも遠いけれど…」

「大丈夫です。元々、王都は華やかすぎて苦手で…。お仕えしていたお嬢様が結婚されることになり、職を失うところでしたので、むしろありがたいお話でした。これから一生懸命お仕えいたします」

「ありがとう。これでラーラも、少しは楽になるかしら?今まで色々と任せてばかりでごめんなさいね」


ロエナの隣に立つラーラに声をかけると、ラーラは暗い顔で俯いてしまっていた。


「ラーラ?どうかしたの?」

「わ、わたしは、もう用無しですか…?」

「えっ?」

「もう、わたしは追い出されてしまうんですか!?確かに、侍女としての経験は不足していますけど…それでも、ローザマリア様のお役に立てるよう、頑張りますから…!!どうか…」

「ラーラ!?落ち着いて!」


わっと泣き出してしまったラーラに寄り添い、ローザマリアは必死に慰めた。


「誤解よ。ラーラを追い出すだなんて…そんなこと、するわけがないでしょう?」

「ほ、本当ですか…?」

「もちろんよ。それに、ロエナにはリタとのやり取りをお願いしようと思っているの。だからこれからも、私の世話はラーラにお願いしたいの。それでも構わないかしら…?」

「も、もちろんです!精一杯やらせていただきます!!」

「頼もしいわ!これからもよろしくね」

「はい!取り乱してごめんなさい…。ロエナさんも、これから色々と教えてください」


そう言って、ラーラはロエナに頭を下げた。


「こちらこそ。辺境に来たのは初めてだから、色々と教えてくれると助かるわ。これからよろしくね」

「はい!よろしくお願いします!」


ラーラとロエナも、相性は悪くなさそうである。なんとか落ち着いて、ローザマリアはほっと息を吐いたのであった。



午後からは早速、ロエナを引き連れて、リタが待っている応接間に向かった。


部屋に到着すると、そこにはリタと数名の男たちが待っていた。


彼らは、オーウェンの紹介で来た、辺境で職を探していた人、または辺境以外の地からリタの紹介で集まった人たちだった。


「ファーウェル辺境伯と婚約した、ローザマリア・アーヴァインよ。集まってくれてありがとう」


貴族の女性が珍しいのか、男たちはジロジロとローザマリアを観察する。それに臆することなく、ローザマリアは計画を話し出した。


「今日集まってもらったのは、一つ任せたい仕事があったからよ。話を聞いて、無理だと思ったら、断ってくれても構わないわ。断ったからといって、何かしら不利益を被るようなことはしないから、安心してちょうだい」


それを聞いて安心したのか、男たちは、互いをチラチラと気にしながらも、少し気を緩めたようだった。


「あなたたちには、辺境領の農地を貸し与えます。農業に必要な道具も家も、全てこちらで用意するわ。作物が育つまでは、生活費も出す。その代わり、こちらが定めたもののみを育てること。少なくとも3年間はね。収穫したものは、6割を正規の値段で買い取るわ。残りの4割は、自分で食べるなり、売るなり好きにして構わない。どうかしら、悪い話ではないでしょう?」


一気に動揺が広がった。男たちにとっては、確かに悪い話ではない。土地と道具だけでなく、当面の生活費までもらえるのだ。職と家、それに作物を育てたら、その収入も手に入る。良いこと尽くしすぎて、逆に裏があるのではと怖くなるくらい、良い話だった。


これは、事前にオーウェンともちろん辺境伯にも話を通してある。領内の農地は、ほとんどが放置され、元々住んでいた人が誰かも分からない。そのため、田畑を整備する前に、まず人が必要なのだ。


「あ、あの…」


一人の男が手を上げた。それをローザマリアは、優しく促した。


「どうぞ。皆んなも、質問があれば、順に言ってちょうだい」

「…この土地は、みんな痩せてて立派な作物は育たない…です。収穫すらできないかもしれない。その場合はどうなるんだ…ですか?」


不慣れな敬語を使いながらも、男は質問した。周りの人たちも、そうだそうだと頷きながら、ローザマリアの返答を待っている。


「皆んなに育ててもらうのは、これよ」


リタに目配せし、持ってきてもらった袋を受け取る。3つの袋には、それぞれ作物の種が入っていた。


「豆ととうもろこし、それに芋よ。これらであれば、荒れた土地でも育つはずよ。それに品種改良もされてるから、病気にも強いわ。万が一、収穫できなかったとしても、全員の生活は保証するわ」

「む、麦がない…ですが、麦は育てないのか…ですか?」

「ええ。この土地で麦を育てるのは難しいから、今回は育てないわ。これから豆を育てていけば、少しずつ土壌が改良されると思うから、麦を育てるのはその後になる予定よ」


豆を育てると、その土壌に栄養が蓄えられ、作物がよく育つようになるというのは、最近の研究で分かったことである。領地経営をしているものであれば、必ず押さえている知識であるが、平民である彼らにはあまりピンときてはいないようであった。しかし、それでも全く問題はなかった。彼らはただ、言われたものを言われた通りに作ってもらうことが重要だからである。


まずは、冬を越えられるだけの食料を、領内に備蓄する必要がある。国からの支給だけでしのげない可能性も考え、なんとか冬までに見通しを立てなければならない。


これが成功さえすれば、今後数年は農地からの収入が入る。安定的に穫れさえすれば、備蓄もでき、次のステップに進めるであろう。


「他に質問はあるかしら?」


皆、不安そうではあるが、特に質問も、反論もなさそうであった。


「これから、徐々に人を集める予定だから、今後仲間も増えると思うわ。協力しながらやってちょうだい。もちろん、何かあったら、すぐに言ってちょうだいね」


こうして、辺境の農地改革が進み始めたのであった。


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