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第9話 捜索と端緒

 魔法塾と題して人を集めた日から数日経って、クリアが部屋で寝ているとインターホンが鳴った。

 無視して二度寝を続けようとしたクリアだったが、一向に鳴りやまない。

 あまりにも何度も鳴るので、部屋のモニターで訪問者を確認すると、中年の男が二人立っていた。

 何となく営業販売の類いにも見えない。

 応答するのがさらに億劫になったクリアは居留守を決め込むことにする。

 しばらくして、インターホンはやんだ。

 二度寝に戻ったクリアだが、十数分経つと、今度は玄関の方が騒がしい。

 ガチャガチャと音がしたかと思うと、施錠されていたはずの扉が開いた。


「治安管理局です! この部屋にお住まいの方いらっしゃいませんか! このマンションに爆弾が仕掛けられたという通報がありました! いらっしゃる場合はすぐに避難してください。どなたかいらっしゃいませんか!」


 大声で室内に呼びかけがあり、クリアはむくりと体を起こす。

 寝ぼけた頭で透明の上書き(クリア・リライト)を発動させた。

 クリアの姿が誰の目にも映らなくなる。


「睡眠妨害許せない」


 そして、不意の侵入者への殺意を声に滲ませた。

 治安管理局というのは、治安維持の名目でテロリストや不穏分子の排除を主に行っている機関だ。

 たまにニュースやネットでも出てくる上に悪名高いので、クリアもその存在を認識している。

 治安維持とは言いつつも、実態はただ七大企業への反逆者を様々な名目で逮捕しているだけの秘密警察に過ぎない。

 現にバルクセス達アイアンガーデンの元囚人たちもそのほとんどが治安管理局によって捕らえられたという話だった。

 それが今この部屋にやってきたのは恐らくこの前の魔法塾でのカレンの行動が原因なのだろう。

 依頼されただけという体ではあったが、魔法少女に関係している可能性があるということで調べられてもおかしくはない。

 実際、本人がここにいるのだから、それも間違いではないわけだが。

 爆弾が仕掛けられたなどという話は単なる口実だろう。

 そう言われてしまえば、マンションを管理する側も断ることは難しい。

 それでこの部屋の鍵を提供したのだろう。


「証拠隠滅ポイント・リライト」


 クリアはとりあえず魔法少女に関連していそうなものを軒並みアイアンガーデンに送った。

 魔法少女の衣装とかステッキとかそんなもの。

 調べられても問題がないように。

 ずかずかと室内に踏み入ってくる音がして、男たちの話し声が聞こえた。


「誰もいないみたいだぞ。確かどっかから引き取ってきたガキを養ってるって話じゃなかったか?」

「そのはずだが」

「出かけてんのか。それとも、学校か?」

「学校に通ってるって情報はなかったが。それに街路カメラの記録でもそれらしい姿は移ってないはずだ」

「まあいい。さっさと済ませるぞ」


 男たちはまずリビングの方を調べ始めたようだった。

 クリアは自身をポイント・リライトでリビングに移動させる。

 身なりだけはきちんとした男たちがどこか表情に嫌なものを宿しながら室内を漁っている。


「……」


 その光景を見ていると、睡眠を妨害されたクリアの怒りがさらに燃え上がっていく。

 この二人が襲撃されるなりすれば、それはカレンとクリアに何かあると言っているようなものだ。安易に介入することはできない。

 調べられて困るようなものは全て移動させたので、別に問題はないはずだが、それでも、感情面は別物だ。

 自分のプライベートな空間にずかずかと侵入してきているという事実そのものがどうしても許しがたいものに思える。

 キレかけた透明なクリアがそれを見ているともつゆ知らず、男たちは淡々と作業を続ける。

 リビングに大したものがないと分かると、今度は別の部屋へと。


「……あー、無理」


 クリアの部屋のドアノブに手が掛かったところで反射的に雷球を放っていた。


「がっ!?」


 ちょっとしたうめき声を発し、二人が倒れる。

 音の消えた室内に倒れた中年男性が二人。

 それを見下ろす冷たい表情のクリアが一人。


「はあ……」


 やりきれない感情を抱えて、クリアはため息を吐いた。


「だって、部屋に入られるのは無理だよ」


 誰に言うでもなく言い訳をして、後処理を始める。


記憶の上書き(メモリー・リライト)ってね」


 この男たち二人の記憶を上書きして、何事もなく調査が終わったことにして帰ってもらう。

 ただそのためだけのカルマ・リライトだ。

 もっと複雑な記憶の上書きになると、整合性が取れなくなるし、何やかんやで難しいだろうが、これくらいのことならクリアでもできる。

 実際にリビングの調査はしているのだし、他の部屋も同様に何もなかったということにして帰ってもらうだけのことだ。

 記憶の上書きというよりは認識を誤認させる程度のものに過ぎない。


「よいしょっと」


 魔力で男たちの体を操作し、玄関まで運ぶ。

 無理やりそこに立たせ、頭をはたいた。

 雷球に大した魔力は込めていないので、これくらいでもすぐに目覚めるはずだ。


「さっさとおきろごみ」


 暴言を吐きながらクリアが頭をはたいていると、やがて男たちは意識を取り戻す。


「……ん?」

「あれ?」


 間の抜けた表情の二人が顔を見合わせる。


「全部屋調べたよな?」

「……ああ、そのはずだ」

「特に何もなかったよな?」

「目立ったものはな。さっさと次行くぞ。後がつかえてんだ」


 どこか腑に落ちない顔をしつつも男たちは部屋を後にする。


「にどとくんなごみ」


 そして、クリアはしばらく機嫌を悪くしたままだった。


 ※


 ※


 ※


 「っていうことがあったんだけどさ、みんなはどうだった?」


 その翌日、クリアはトメイトとマミとメリアに連絡を入れ、駅前に集まってもらった。

 クリアは髪色を変えて変装した普通の格好をしているので、傍目には学生の集まりにしか見えない。

 最初にクリアが姿を現したときは(主にトメイトが)驚いていたが、魔法少女カレンだと分かる格好するわけないじゃんと答えると、すぐに納得した様子になった。


「俺は特に何もなかったっすね。みんなと同じで、体育館に戻された後に質問攻めに遭いましたけど、魔法少女に送り返されたって言ったら、それ以降は特に何も」

「私もないわ」

「メリアは?」

「実は……気のせいかもしれないんですけど、最近、誰かにずっと見られてる気がしてて……」


 メリアが少し怯えた様子で言う。

 その内容にクリアも眉をひそめた。

 三人を弟子にしたあの日、メリアは変装したクリアを魔法少女だと認識していた様子だった。その感覚の鋭さからすると、ただの気のせいでは片付かないかもしれない。


「それって今も感じるの?」

「今は人が多すぎて分かんないです。だけど、塾の帰りとか一人で歩いてると、誰かに見られてる気がして」

「……なるほどね」


 魔法少女との関係を疑われているという点では、あの日体育館から雑居ビルへ転移した人間全員に監視の目が光っていてもおかしくないのかもしれない。

 よっぽどクリアを狙ってるんだなと思う反面、こうして不用意に接触するのもまずかったかなと思うところもある。

 一方で、それぐらいのことに怯えていては何も行動に移せないという面もある。


「とりあえず行こっか。魔法教えるから」

「やっと教えてくれるんすか! ここ数日いつ連絡来るいつ連絡来るって悶々としてたんすよ」

「なんか渋ってた割にはトマト君が一番やる気あるよね」

「いいじゃないすか別に! 魔法は誰でも興味ありますって!」

「ま、それもそうか」


 それから三人を連れて徒歩で移動する。

 やってきたのは室内スポーツやカラオケなんかができる複合レジャー施設。

 三人とも怪訝な顔をしていた。


「……えっと、遊びに来たんじゃないんすよね?」

「もちろん違うよ。だけど、普通に遊びに来た学生集団の振りしてた方がいいのはあるじゃん」

「あー、そういう……。でも、ここで魔法使えるんすか? あの火の球のやつとか、危なくないすか」

「最初は体の中の魔力をどうこうするだけだから、むしろ室内でいいんだよ」


 最悪誰かの魔力が暴走して施設を損壊させたとしても、カルマ・ディバイドで跡は消せる。

 納得した三人を連れて、そのまま中に入る。

 とりあえずカラオケを選択した。

 個室に籠れる上に、誰かが中を窺っていれば簡単に分かるという点で都合がいい。


「とりあえずトマト君はカモフラージュのために何曲かソロで歌っといて。ボクはその間にマミさんとメリアと仲を深めておくから」

「ええっ!? なんで俺だけそんな扱い!?」

「カモフラージュのためだよ。だめ?」


 クリアが小首を傾げてみせると、トメイトは軽く葛藤した後、投げやりに頷いた。


「……やりますよ。やればいいんでしょ!」

「ありがとね。いやー、トマト君は頼りになるなー」

「棒読み!」


 やけくそ気味に歌い始めたトメイトを尻目に、まずはマミとメリアに魔力の手ほどきをする。


「二人とも手出して」


 言われた通りに手を出してきた二人の手を握る。

 

「今から二人の手に魔力を流していくから、感じ取れたら教えてね」

「分かったわ」

「はい!」


 そんなふうに記念すべき魔法塾第1回は開始された。

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