第8話 三者と三様
「あとこの国をぶっ壊す手伝いをしてくれる人がいれば嬉しいです」
クリアがそう言った後、その場を静寂が包んだ。
その場にいる大抵の人間の視線は奇人を見るような不躾なもの。
まあ、それも当然だろう。
彼らは魔法を学びに来たのであって、テロリストに志願しに来たわけではない。
それでも、そのぐらいのぶっ飛んだ発言に付いてこれないようではクリアの弟子が務まるわけがない。
なので、クリアとしては、ドン引くなら好きなだけドン引けという気持ちだ。
「お前、何言ってんだよ……。七大企業の支配するこの国で、そんなことできるわけないだろ……」
「……はあ」
一番近くにいた三十代くらいの男性が半ば諭すように言ってきて、クリアはため息を吐く。
あまりにも常識的な反応すぎて、何の面白みもない。
できないと思うのは勝手だが、そんな固定観念をクリアに押し付けないでほしい。
勝手に連れてきたのはクリアだし、そこで唐突にテロリストみたいなことを言い始めたのもクリアなので、相手を責めるべきではないというのは分かっているのだが、それでもやはりうんざりはする。
その男性を皮切りに、そんなつもりで参加したんじゃないだの、七大企業に目を付けられたくないだのと不満意見が噴出する。
次第に大きくなっていく声にクリアは呆れ、そして、もう一度注目を集めるために、ぱんぱんと手を叩いた。
不満の声が収まり、注目が集まったのを確認すると、また口を開いた。
「分かった分かった。ごめんごめん。そうだよねー、みんな危ないことには巻き込まれたくないよねー。はいはい分かりました。ちょっと急すぎちゃったかな。じゃあ、もういいよ。帰りたい人手挙げてー」
その気のない人間に無理強いする気もクリアはないので、その場にいる人間を見渡してそう告げる。
当惑していた参加者たちだったが、クリアに最初に話しかけた男性がまず手を挙げると、それに釣られるようにしてぽつぽつと手が挙がっていく。
「はーい、みんな、さよならー。無理強いしちゃってごめんねー。助けが必要なときは魔法少女カレンをどうぞよろしく」
半ば投げやりのようにそう言って、クリアは順々に手を挙げた者たちをポイント・リライトで元の体育館に送り返していく。
無駄な往復で完全に魔力の無駄遣いだが、こればっかりは仕方がないだろう。
意思のない者に強制するわけにもいかない。
送り返した彼らのことはカレンが上手く処理してくれるだろう。
そうして参加者を次々と消していったクリアだったが、それでも、最後には残る者もいた。
「……三人ね」
最後まで手を挙げなかったのは三人。
そのうち一人はメリアルリド、残りの二人は男女一人ずつで、どちらも学生に見える。
クリアの話す内容の突飛さから考えても、むしろ若者の方が残るのは当然かもしれない。
「君たちはボクに協力してくれるの?」
クリアはあえて試すようなつもりでそう聞いた。
文脈的にはクリアがこの国をぶっ壊すのに協力してくれるのかと相手には聞こえるだろう。
残った三人はお互いを伺うように視線を交換していたが、まず最初に、高校生くらいの赤髪の少年が前に出る。
「正直、俺はそういう危険な行為に協力したいとは思えません。ただ、ここで帰るのもちょっと判断が早すぎるかなって」
「へー、そう。君、名前は?」
「トメイト・クタビレアです」
「トメイト君ね。じゃあ、トマトって呼んでいい?」
「……嫌です」
「じゃあ、決定ね。今日は君からトマト君だ」
「あの、やっぱり帰してもらっていいですか?」
「じゃあ、君はどう?」
今度はメリア以外のもう一人の女子、どちらかというと、大学生っぽく見える黒髪の少女に話を向ける。
カレンに系統が近いクール系の美人はクリアの質問にわずかに首を傾げた。
「やっぱりそれって、魔法を教えてもらうには君のテロ行為に加担しなくちゃいけないってことなのかしら」
「ううん。違うよ」
「ええ!? 違うんすか!」
クリアがあっさりと否定すると、少女ではなく、なぜかトメイトの方が大げさに驚いた。
「俺はてっきりそれが交換条件とばかり……じゃあ、なんであんな質問の仕方したんすか!」
「うん。トマト君、一回黙って」
「あ、すいません」
「ところで、君の名前は?」
「浅野マミよ」
「マミさんね。ボクに協力しなくちゃならないってなったら、やっぱり困る?」
「別にどっちでもいいわ。ただ対価は軽い方がいいかなってそれくらいの理由で聞いただけ」
「なるほどねー。どうしてもって言ったら協力してくれるって理解でいい?」
「それでかまわないわ」
「りょうかい。じゃあ、最後メリアは?」
残った一人のメリアに目を向けると、彼女は真剣な表情でこちらに歩み寄ってきた。
そのままクリアの手をがっしりと掴む。
「カレンさんの言うことなら何でも聞きます!」
「……えぇ」
「この日をずっと待ち望んでたんです。わたしはカレンさんに救われたから。あの日自暴自棄になってたわたしの元にカレンさんが来てくれて、助けてくれて、ステッキに乗せてくれて、すごくうれしかった。わたしの人生はカレンさんに救われたんです。口うるさいお母さんの言葉もあの日から全然気にならなくなりました。あの日から人生がばら色に変わったんです。本当はもっと早くに会いたかったんですけど、やっぱりカレンさんは正義の魔法少女だから。わたしが自分勝手な理由で呼び出しちゃいけないって我慢してました。けど、こうやってあなたに会える機会を作ってくれて本当にうれしい。会えて最高に幸せです。わたしにとってカレンさんこそが正義なんです。カレンさんの言うことなら何でも聞きます。好きです。大好きです。どうかわたしをカレンさんの下僕にしてください。カレンさんが正義の魔法少女であることを世界中に知らしめたいと思います」
「……あー、ちょっと一旦落ち着こうか」
矢継ぎ早にまくし立てられて、さしものクリアも困惑した。
クリアのことを覚えているだろうとは思っていたが、まさかそれほどの熱量で思っているとは想像もしていなかった。
「ま、まあ、とにかく協力はしてくれるってことだよね……?」
「はい! 何でもします! 靴でも足の裏でも舐めます!」
「何も舐めないで、お願いだから」
協力者がいればありがたいとは思っていたが、そこまで言われると逆に怖い。
「じゃあ、三人は魔法塾入塾を認めまーす。わーぱちぱちぱち!」
クリアが言うと、メリアが全力で拍手を送ってくる。
トメイトは「え、俺もう入ることに決まったんすか」とつぶやき、マミは当然のように頷いている。
「とりあえず今日は参加者を見積もることだけが目的だったからさ、すぐに指導を始めたりはしないんだけど。あ、三人とも連絡先教えてくれる?」
「あの、俺もう入ること決定なんすか……?」
「これからよろしくね、カレンさん」
「マミさん、よろしく」
「よろしくお願いします!」
「はい、メリアもよろしく。トマトもよろしくね」
「……あのー、話聞いてます?」
「え、なに、嫌なの? 嫌なら別に無理強いはしないよ? ほんとに」
「嫌じゃないですけど!」
「なら、入るってことで決まりね」
「なんか釈然としねえ!」
三人から連絡先をもらうと、クリアは「初回の塾は追って連絡するね。あ、ボクの弟子になったことは一応、秘密にしといて」と伝達し、ポイント・リライトで彼らを元の体育館に戻した。
誰もいなくなった雑居ビルの中で、クリアは安堵の吐息を吐く。
「ふー、弟子ゲットだ」
アイアンガーデンの囚人たちを既に弟子にしているとはいえ、大っぴらに塾と銘打って指導すると考えると、それなりに感慨も覚える。
これを皮切りに弟子を増やしていったっていいし、別に少数精鋭でいったっていい。
今は小さい一歩だが、これがこの国の体制破壊のために必要な一歩でもある。
ということで魔法塾が始まった。




