第17話 クリアとクリア
クリアが意識を取り戻すと、そこは小さな木製の小屋だった。
すぐそばにカレンの姿もカイモスの姿もある。
二人とも意識を失っている様子で、最初に目覚めたのがクリアのようだ。
「……何があったんだっけ」
ミミへのリベンジを果たし、カレンと後始末をどうするか相談していたところまでは覚えている。
しかし、その先の記憶がまるで白塗りされたように思い出すことができない。
「保険は発動したみたいだけど」
クリアが意識を失った時点で、クリア、カレン、カイモスの三人をアイアンガーデンのこの小屋の中に移動させる。
それはそういうカルマ・クラフトで、そのために特別に魔力を込めたクリアボックスを二人には携帯してもらっていた。
条件発動型の遅延式因果干渉、いわば、カルマ・ディレイドとでも言うべきもの。
それが発動したということはクリアが意識を失ったということであり、外的要因によるものなのは間違いない。
覚えていないのは異常だが、そうした異常が生じる時点で、まず間違いなくブラックボックスの力によるものなのは間違いないだろう。
「えーっと、変な魔力は……っと」
自分の体内の魔力を点検してみて、ブラックボックス由来の歪な魔力の痕跡をたどる。
普通にしている分にはほとんど違和感を感じないので、かなり微弱な魔力なのは間違いない。
数分探ってみたところで、脳内にその痕跡を見つけた。
「よーし、はいはい。カルマ・ディバイド~」
因果の断絶を発動させると、黒い魔力はクリアの頭の中から取り払われ、明瞭な記憶が戻ってきた。
「白白ね……」
思い出したのは白づくめの格好をした女の姿。
語られた『白』の上書きなどという意味不明な力。
カレンもクリアもなすすべなく戦闘不能に追い込まれた。
「まあ、タネは分かったから次対策していけばいいや。ぺらぺらといろいろ教えてくれたことだし」
土台ブラックボックスというものは反則的すぎて、初見で対応しようというのがまず難しい。
それでも、ある程度の仕組みさえ分かれば、対応の仕方はいくらでもある。
とりあえず今はミミへのリベンジを果たしたことを喜びたいところだった。
「それにしても……結構、魔力使ったかな」
小屋の中に並べてあるクリアボックスを見て、その魔力の残量を確認すると、大体1万MPぐらいまでは減っている。(1MP=一般人1人当たりの魔力量)
保険の『位置』の上書きを使うために、大体1人当たり3000MPは使っているので、それも致し方なしといったところだ。
実際、使うことになったのだから、備えは有効に働いた。
クリアの魔力はいくらでも湧いてくるのだから、また溜めればいい。
使わずに取り返しのつかない事態になる方が問題だ。
「あーそうだ。二人にもカルマ・ディバイド~」
未だ意識を失った状態にあるカレンとカイモスにもカルマ・ディバイドを施す。
その脳内の歪な魔力はこれで取り払われた。
じき目を覚ますはずだ。
「割と自分勝手な襲撃だったけど……」
付き合ってくれたカレンとカイモスに何事もなくてよかったとクリアは軽く胸を撫で下ろした。
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ミミが目を覚ますと、まるで頭の中に鉛でも流し込まれたかのような頭痛に思わず顔をしかめた。
額を手で押さえ、寝かされていたらしい白いソファから何とか体を起こすと、向かいのソファに座っていた白白が顔を上げた。
「お目覚めになりましたか?」
「……ここはどこ?」
一面、白尽くしで統一された部屋の中を見回し、何となく答えが分かっていながらもミミはそう聞く。
「無垢の棟のわたしの自室です」
「そう……ミミはどうなったの?」
「あなたは敵の攻撃によって意識を失いましたが、何とかわたしの援護が間に合ったおかげで命を失うには至りませんでした。保管庫の方も無事です。ただし相手には逃げられてしまいましたが」
「……そう」
一等級サイボーグが二人もいて情けないものだとミミは思ったが、下手なことは言わない。
負けたのはミミであり、それを責められる立場にはないのだ。
それでも、少しばかりの愚痴は言わせてもらいたい気持ちだった。
「あいつらは何なの? ていうか、最初はカイモスだけに警戒しろって話だったよね。あんなわけわかんないことになるなんて聞いてないんだけど」
「まあ、わたしも知りませんでしたからね。脱走兵とアウトサイダーが手を組むのは想定外です」
「アウトサイダー?」
「説明がとても難しいんですが、言ってしまえば並行世界の人間というところでしょうか」
「はあ?」
寝耳に水とはこのことだった。
いきなり並行世界などというワードを聞かされて、ミミはこいつ大丈夫かという目で白白を見返した。
「わたしの正気を疑われても困りますよ。事実なのですから、しょうがないです。それに既にブラックボックスという常識外を知っているあなたが今更、並行世界ごときで驚かれても困るというものですよ」
「それはさ……でも、並行世界はちょっと……」
「突拍子もないのは分かりますよ。ですが、事実です」
「どうしてあんたにそんなことが分かるわけ?」
そもそもそんなことがあり得るとしても、相手が並行世界人であることを知っているというのは不自然なように思える。
「外の世界の人間だからこそ、この世界の因果に干渉できるんですよ。この世界で生まれ育ったはずの人間には不可能な因果干渉を行ったということは、相手が外界から来た証拠です」
「だから、あいつはミミの触手を消したりなんかもしたってわけ?」
「恐らくそうでしょうね」
簡単に肯定されて、ミミとしても納得はいかない。
いきなり因果干渉などと言われて、はいそうですかと受け入れられるほどぶっとんだ人間性はしていない。
それでも、白白が大真面目に語っている以上はそういうものだと理解するしかない。
「それで、あんたはどうやってそのことを知ったっていうの?」
並行世界だ、因果干渉だ、そんな超自然的なことを普通に生きていて知れるとは思わない。
ミミの抱いた疑問は至極当然のもの。
「わたしもアウトサイダーですからね」
「はあ?」
さらりと白白に告げられて、ミミは再びこいつ大丈夫かという目を向けるしかなかった。
「自分が外から来た人間だから、同じように外から来た人間が分かると、それだけのことですよ」
「それだけって……」
淡々と言われても反応に困るというものだ。
「……あんたが何を言ってんのか理解する気も起きないんだけどさ、あんたの言うアウトサイダーってのはそんなぽんぽんやって来るもんなの?」
「普通はほとんどないんじゃないでしょうか。ただわたしは呼ばれたので」
「呼ばれた? 誰に?」
「……」
ミミが聞くと、白白は仮面の口元にそっとその白い指を立てた。
「……はあ」
ため息を吐き、ミミもまた押し黙る。
それ以上聞くなと言っているのは明らかだ。
「だったら、最初から余計な話をしないでほしいもんだけど」
「聞かれましたので。それに今回の相手が特殊でしたから」
ホワイトクロスが七大企業の中でも特殊な立ち位置にいることは分かっていた。
七大企業のブラックボックスは全てホワイトクロスから流れてくるものであり、ブラックエネルギーもまたホワイトクロスから供給されるものだ。
それがどうやって生み出されるものなのか、その他の企業はあの手この手で探ろうとしてきたが、その真実が分かったという話は聞いたことがない。
これはその真実に通ずるような話だと、そういうことなのだろう。
何にしろ、ミミには興味もなければ、知りたくもない話だ。
「それで、アウトサイダーさん? お仲間がどこにいるのかは分かってんの?」
「分かりませんが、カイモスと手を組んだというのなら、またいずれ会うこともあるんじゃないでしょうか」
「随分、投げやりじゃん。そんなんでいいの?」
「わたし自身は与えられた役割をこなすだけですから」
「ふーん。ま、そんなもんか」
一等級サイボーグの中では、ことあるごとに面倒ごとを押し付けられるミミではあったが、意外と白白も同じようなものなのかもしれないとそんな雰囲気を感じた。
ミミは収まってきた頭痛に軽く頭を振り、席を立つ。
「もう帰ってもいいんでしょ」
「構いませんよ。後遺症等が見受けられないようで何よりです」
「どーも」
「帰りはプラムに案内してもらってください」
「そうだった。ここの構造、面倒くさいんだった」
またため息を吐きながら外へ向かい、それから、廊下へ出る寸前、ふと魔が差して聞いた。
「そういえばあんたの本名何ていうの?」
仮面のままこちらに顔を向けた白白がどこか悩む仕草をして、それから言う。
「ここまでお話ししたのですから、それくらいは別に教えてもいいでしょう。わたしの名前は――」
そこでなぜか言葉を区切った白白はおどけたように小さな笑い声を上げ、それから口にする。
「――ボクの名前はクリアホワイト・ヴァイスだよ」
その声音と態度はなぜかあの魔法少女と重なって見えた。
頭を振り、ミミはそんな幻想を振り払う。
「……言いにくい名前」
かろうじてそれだけを口にして、ミミはその白い部屋を後にした。
連絡事項:別で書きたい話があるため、しばらく更新頻度が低下します。ご容赦ください。




