第13話 『破裂』と持久戦
二等級サイボーグ、ティアラ・アリティアの有するブラックボックスに付属する力は『破裂』の上書きだ。
彼女のブラックボックスから流れ出るブラックエネルギーに触れた物体は、生命・非生命、無機物・有機物を問わず、全て等しく『破裂』する。
どんな硬度であろうと、どんな堅牢な建材であろうと、どんな屈強な生き物であろうと、『破裂』の前では意味をなさない。
唯一その例外となるのは彼女自身の肉体だけ。
どれだけブラックエネルギーをまき散らそうと、彼女自身がその『破裂』に巻き込まれることはない。
ただし、破裂した結果の破片などは当然受けるので、あまり近い位置でその力を使えば、自身の体に傷をつけることもあるのが玉に瑕。
それでも、ただ敵を排除すればいいのならば、これ以上に分かりやすい力はない。
「『炎』も『圧力』も『鎖』も『打撃』も一瞬でのされるなんて情けない限りよね」
がれきの中のどこかに倒れているであろう四人の三等級サイボーグに向かって吐き捨て、それから、ティアラは目前の侵入者に目を向けた。
一人はどこかの企業のサイボーグらしい女と、一人はフリルの付いたかわいらしい服を着た少女、しかも、空中に立っている。
どちらも顔全体を覆う仮面をつけており、表情は見えない。
「まさかこうなるなんて想定外過ぎて意味が分からないんだけど、あなたたちは何者?」
どちらに向けてでもなく問うと、空中に立つ少女の方が自信満々に言った。
「正義を愛する魔法少女だよ」
そのふざけた返答に眉を顰める。
「まじめに答える気がないのなら、さっさと死んでくれるかしら」
ティアラは足元の瓦礫を無造作に蹴り上げる。
ちょうど女サイボーグと少女の中間地点に至ったところで、その瓦礫は『破裂』した。
無数の細かな刃となった瓦礫の破片が侵入者を襲う。
少女の方はともかく、一見してサイボーグには効果のなさそうな攻撃に見えるが、実態は違う。
ティアラの『破裂』のもっとも厄介な点は『二次破裂』にあるからだ。
単にブラックエネルギーを流した物体が破裂する現象を『一次破裂』とすると、『二次破裂』は『一次破裂』によってばらばらに飛び散った破片が起こす『破裂』だ。
例えば、ガラスに触れてそのガラスを『破裂』させたとすると、飛び散ったガラス片に触れた壁や地面でも『破裂』が起こる。
言わば誘爆のような攻撃で、初撃をかわしたと油断した相手ほどこれに引っかかる。
さすがに『三次破裂」までは起こせないが、それでも、『一次破裂』で破片が広範囲に飛び散るがゆえに、結果的に甚大な範囲を攻撃範囲とすることができる。
「……何をしたの?」
そのはずだったが、少女も女サイボーグも両方とも無傷だった。
ティアラの錯覚でなければ、破片は全て彼女らの体に届く一歩手前で静止したように見えた。
そのまま何も『破裂』させることなく、地面にぱらぱらと落ちる。
直接地面に飛んだ破片には『破裂』が起こっているが、単に地面が弾けて泥が飛び散った程度では、赤ん坊ですら殺せないだろう。
施設の『破裂』から生き残った時点で薄々嫌な予感はしていたが、彼女らには特殊な防御技術か何かがあるらしい。
「今度はこっちの番だよ」
空中の少女が意気込むと、彼女の目の前に十発ほどの火の玉が生成される。
監視カメラやドローンの映像で先ほどの戦闘を見ていたから驚きはないが、実際自分の目で目撃すると、空中にいくつもの火の玉が浮かぶ様はある種壮観ではある。
そんな感慨に浸るまでもなく、正面からは女サイボーグが突っ込んできた。
その突撃に表面上は焦ったような態度を見せながらも、ティアラは内心ほくそ笑む。
相手の方から向かってきてくれるのならどうやって防がれたのかなど考える必要がない。
打撃にしろ何にしろ相手の体に触れるだけで『破裂』は発動できる。
そして、相手の体に『一次破裂』を起こした場合、『二次破裂』で確実に体の内部まで損傷させることができるはずだ。そうなれば確実に相手は死ぬ。
振りかざされる拳を受け止めた瞬間、目前のサイボーグが内側から弾け飛ぶさまを幻視したティアラだったが、現実はそうならなかった。
「どうして!?」
「どうしてでしょうね!」
『破裂』が発動しなかったことによる隙を突かれ、腹部に重たい一撃を食らう。
派手に後ろに吹っ飛んだティアラに火球が殺到した。
「っ……!」
辛うじて手の届いた瓦礫に触れると、それらは一斉に弾け飛ぶ。
さらにその破片が触れた瓦礫までもが破裂し、その破片の盾によって火球の殺到を防ぐ。
何発か抜けてきた火の玉も身をよじってかわした。
崩れた体勢のまま警戒するように鋭い視線を送るティアラを侵入者二人は様子を窺うように見つめていた。
「三等級が瞬殺されたのも分かるわね、これは」
正直旗色は良くないと感じた。
相手が一人ならまだ何とかなったかもしれないが、『破裂』を防ぐ手段を持っている相手が二人はまずい。
何で防いでいるかも分からないのに連携して攻撃を受ければ、その正体を探る隙すらない。
直接相手の体に触れられればどうにかなるとは思うが、どうやれば触れられるかのも分からない。
それでも、施設に襲撃があった時点で既にパープルマスクの方に通知はいっているはずだ。
ティアラはただ一等級サイボーグが来るまで時間を稼ぐだけでいい。
一等級サイボーグが到着すれば、数の上では互角。
そして、その圧倒的な力をもってすればどんな防御手段を持っていようと刈り取るのは容易なはずだ。
「はあ……完全に厄日だわ。帰ってお風呂入りたい」
ぼやきながらもティアラは腹を決める。
這いずってでも時間を稼ぎ、一等級の到着を待つと。
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クリアは空からカレンと二等級との戦いを俯瞰しながら、少し控えめに援護を行っていた。
もともとの目的はミミの方であり、二等級との戦いはクリアにとってはまだ前座だ。
カレンが露払いを引き受けてくれたのもあり、そこまで全力で消耗するつもりもない。
幸い相手との相性はそこまで悪くないように見えるので、カレンだけでも問題はない気がした。
「触れたものを爆発させるかなにかしてるんだろうけど……」
障壁との相性はすこぶるいい。
飛散した破片に触れることすら危ないようだが、障壁で防いでしまえばそれ以上の被害は出ない。
物体に触れれば爆発させられるにしても、障壁は物体ではなく魔力そのものだ。
ブラックボックスによるカルマ・リライトも魔力そのものには干渉できない。
そもそも魔力を使って起こしている因果干渉なのだから、魔力そのものに影響を与えられないのはある意味当然だが。
飛び散る破片自体はクリアがまともに食らえば確実に死に至る速度で飛んでくるが、障壁を破るほどの威力はない。
いつだったかのカレンの突撃と比べれば雲泥の差だ。
「がんばれー、カレン。ふぁいとー」
適当に火球と雷球と氷球を乱れ撃ちしながら、上空から応援する。
障壁の相性がいいと彼女も気付いているらしく、果敢に攻めるカレンだったが、明らかに向こうは引き気味に戦っており、決定打に欠ける状況だ。
引きながら手当たり次第にカルマ・リライトを発動させているらしく、尋常ではない勢いで周囲の瓦礫が爆散しており、それを防ぐだけでカレンも結構神経を使っている様子。
相手は恐らくミミの到着まで粘るつもりなのだということは容易に読み取れる。
だが、そもそもこちらはそれが目的だから、クリアとしても変に手を出すつもりはない。
あれだけ動き回っていれば、カレンに誤射する可能性も少なくないというのもある。
持久戦に持ち込まれるのなら、クリアとしてはあくまで魔力の温存、精神力の温存に努めるだけだ。
三等級にしたようにブラックボックス自体を破壊することも、魔力があれば可能だっただろうが、残念ながらそんな大量の魔力の貯金はまだない。
先ほどの三等級四人で4000mpは消費している。(1mp=普通の人間1人当たりの魔力量)
クリアボックスに溜めた魔力も残りは1万5000くらいだ。
ヨークの話によると、5万mpらしい二等級のブラックボックスは破壊できない。
「あー、来たかも」
そして、その持久戦もニ十分を超えたところで、クリアは待ち望んでいたおぞましい魔力の反応を感知した。
反応は空から。
一人用のヘリから小さな人影が飛び降りてくるのが見える。
その人影がだんだん近づいてきて、ある地点でパラシュートを開く。
と思われたが、よく見ると、それはパラシュートではなく、パラシュートを模した形に変形したミミの体そのものだった。
空中からゆっくりと降下してくるミミがクリアのすぐ横をすれ違う。
顔を隠す仮面越しでも、はっきりと彼女と目が合ったのが分かった。
ミミがゆっくりと地面に着地すると、その正面にクリアも降り立つ。
仮面の下、満面の笑みでクリアは笑った。
「リベンジの時間だよ」




