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第12話 奇襲と奇襲 

 空中から魔力を探知すると、件の施設には少なくとも数十人のサイボーグがいることが分かった。

 ブラックボックスを有する”箱持ち”はクリアの感知するところでは五人。

 四人は三等級、一人は二等級だろうと思われる。

 一人だけ魔力の歪さが群を抜いていた。

 ただし以前感知したミミのそれと比べれば、まだ控えめだとさえ言えるレベル。

 どうやらミミはまだ不在のようだ。

 ヨークの言っていた通り、襲撃を受けた施設側から報告が飛べば、彼女がやってくる体制になっているということだろう。


「よし、じゃあ、作戦を説明するよ」


 ブラックボックス保管庫と目される施設の直上数百メートル上空には、クリアだけでなくカレンとカイモスの姿もある。

 クリアが保管庫を襲撃したいという旨をカイモスに伝えたところ、最初カイモスはその危険性から難色を示したが、クリアの感情論とカレンの理詰めにより、最終的には首を縦に振った。

 もともと七大企業に対して強い恨みを抱いている彼にとってみたら、危険性を度外視すれば、襲撃は何をおいても行いたいものだったのだろうから、ある意味当然だが。

 もっとも彼の最初の襲撃からそれなりの時間が経過しているため、ブラックボックスがそのまま全て残されているかといえば、その可能性は低い。

 それでも、襲撃を行うのはクリアの個人的なリベンジのため。

 それでも構わないとカイモスも言ったので、ブラックボックス自体は目的にはない。


「まず地上で正面からカイモスさんが突撃する。陽動役だね。そのサポートにカレン。上から感知したところだと、外にいるのは普通のサイボーグで、箱持ちは全員中。二人が外のサイボーグを蹴散らしていったら当然、中の箱持ちも外に出ざるを得ないから、出てきたところを上からボクが奇襲をかけるって感じ。おっけー?」

「俺と彼女が数十人のサイボーグ相手に勝利することが前提だと思うが、大丈夫なのか?」


 何もない空に立っていることに落ち着かない様子のカイモスが懸念を表情に滲ませて問う。

 クリアはふるふると首を振った。


「カイモスさんとカレンがじゃないよ? カレンが、だよ」

「……」

「あ、ごめん。別にカイモスさんのことをばかにしてるわけじゃないから。ただ今はクリアボックスにも不慣れだし、それほどの戦闘能力は発揮できないだろうっていう話」

「……情けない限りだが、それはその通りだ」

「でしょ。でも、カレンは違うよ。ただのサイボーグが何百人集まろうと、カレン一人でどうとでもなるから」

「だそうだが」


 カイモスは困っているような寂しがっているような微妙な表情でカレンに視線を向けた。

 カレンはクリアの過大な期待に苦笑しつつも冷静に返す。


「まあ、謙遜を抜きにしますと、魔法をまともに使えるサイボーグというだけでかなりのアドバンテージですからね。極端な話、障壁をまとって相手を殴り続けるだけで勝手に敵が倒れていくでしょう」

「確かに俺もその有用性については日々実感しているところだ」

「何もないところから火や雷を生み出せるのも電子機器には天敵ですからね。奇襲に限ってみたとき、魔法の有用性は通常の銃火器を凌駕していると言えるでしょう」


 カレンは感触を確かめるように手のひらに火球を生み出し、それを握りつぶす。


「それでは、行きましょうか。姫様、危なくなったら撤退という約束をお忘れなく」

「分かってるよ」


 それから、カレンは空中に障壁を階段状に生み出して、華麗に地上に下りていく。その後ろをおっかなびっくりカイモスが続いた。


「……奇襲に強い、ね……」


 逆に言えばそれは正面からぶつかったら弱いということだ。

 障壁で一方向はカバーできるが、全方向は難しい。

 クリアに反応できない速度で背中から刺さればそれで終わりだ。

 彼女自身の肉体は通常の少女のものでしかなく、因果はいじくれても、その点の常識は変わらない。

 だとしても、その点を敗北の言い訳にする気はないし、だからこそ創意工夫の余地があるのだと思っている。


「今度こそ勝つ」


 不利だとか、運が悪いとか、相手が悪いとか、時期が早いだとか、その類いの言い訳は、勝ちさえすれば全て戯言になる。

 たとえ相手が多くの人間の魔力を宿した化け物でも、クリアはただ言い訳一つなく完全に勝利する。

 そして、ざまあみろと笑うのだ。

 この世に超えられない理不尽などないのだと。

 負けた者が弱者なんじゃない、挑まない者が弱者なんだと。

 そう不敵に笑ってみせる。

 クリアはただ自身の勝利を思い描いて静かに微笑んだ。


 ※


 ※


 ※


 ティアラ・アリティアは二等級サイボーグだ。

 普段は首都コーラスクレイスの外縁部で小さな診療所を営んでいる。

 七大企業所属のサイボーグといっても全員が軍に所属しているわけではない。

 七大企業同士の仲は決していいとは言えず、日常的に蹴落とし合っているという事情から、正体の知れないサイボーグが日常に潜んでいる方が都合がいいという側面もあり、普段は全く別の仕事をしていて、必要に応じて招集をかけられる者もいる。

 ティアラもその一人だった。

 今回命じられたのはブラックボックス保管庫の防衛。

 先日当該施設を襲撃した裏切り者であるカイモス・アイマユスの再度の襲撃に備えること。

 二等級であるティアラを呼び出すほどには重要な任務で、その下に三等級サイボーグが四名付けられた。

 さらには増援としてパープルマスクの一等級サイボーグまでもが控えている。

 相手もブラックボックスを有するとはいえ、三等級相手には万全過ぎる体制だ。

 その証拠に、前回の襲撃では、相手は三等級サイボーグ一体を倒すだけで撤退を選択している。

 普通の神経をしていれば、警備の厳重になった施設をもう一度襲うとは考えにくい。

 それでも、最初は襲撃を警戒していたティアラだったが、何事もなく数日が過ぎ、そして、十日が過ぎると、次第に警戒心も薄れていった。

 そして、その気の緩みを突くように襲撃は起こる。


「何の音!?」


 施設全体に響くような轟音からそれは始まった。

 休憩室で最新の医学論文に目を通していたティアラはすぐに状況の確認のために廊下に出る。

 それと同時に監視カメラの映像が集まるモニタールームに詰めていたサイボーグの一人が慌てた様子で近づいてきた。


「襲撃です! 侵入者は二人、カイモス・アイマユスと正体不明のサイボーグ! 投石により二階外壁に穴が開きました!」

「たった二人?」


 焦りかけたティアラの心がそれを聞いて落ち着きを取り戻す。

 本当に来るとは思っていなかったために意表は突かれたが、相手が二人なら大きな問題はない。

 正体不明のサイボーグが気になるが、大きく見積もって三等級以下のサイボーグだとしても、こちらの戦力の方が上回っているのは確かだ。


「すぐに三等級の四名に迎撃を命じて。念のため私は地下の保管庫の守護につきます」

「了解しました!」


 走り去っていく部下を見送ると、ティアラもすぐに保管庫に急ぐ。

 正面から挑んできたのがもし陽動だとすれば、そちらに兵を引きつけて、ひそかにブラックボックスを盗み出そうという計画だという可能性もある。

 一度目の襲撃を受けてから、ブラックボックスは少しずつ別の場所へと運び出され、元の三割ほどの数しか残っていないはずだが、それでも、好き勝手に盗まれていいものでもない。

 ブラックボックスを守ることがここに詰めている目的であり、最大戦力であるティアラ自身を配置するとすればそこ以外にあり得ない。


「まあ、最悪、私が全員処理すればいいわ」


 自分の力を知っているティアラは最終的にそう結論付けた。


 ※


 ※


 ※


 障壁をまとった投石で外壁を破壊すると、すぐに警報が鳴り響く。

 秩序だった様子で迎撃に出てくるサイボーグたちを視界にとらえると、カレンは落ち着いた様子でクリアボックスから取り出した魔力を練り上げた。

 放つのは火球を二発。

 一発目を大きく目立つように練り上げ、その陰に隠れる形で二発目を放つ。

 いきなり宙に現れた火球に驚愕し、慌てて避けようとするサイボーグたちの足元に小さな障壁を展開した。


「ふふっ」


 屈強なサイボーグたちが見えない障害物に足を取られ、ドミノ倒しのように転ぶ様はカレンの失笑を誘うものだった。

 そのまま体勢を崩したサイボーグたちに二発目の火球が軌道を変えて襲い掛かる。

 炎上するサイボーグたちにさらに追撃をかけるようにカイモスが突撃をかけた。

 遅れてカレンもその後に続く。

 正体不明の火球と足元の妨害に出鼻を挫かれたサイボーグたちは完全に混乱し、その隙にカレンたちは彼らの息の根を止めていく。

 四、五人の兵士を仕留めたところで、歪んだ魔力の波長を感じ、カレンはカイモスに警告した。


「カイモスさん、離れて!」

「っ!」


 瞬時に飛びのいたカイモスのいた位置に突然巨大な火柱が燃え上がった。

 魔力探知でその魔力が放たれた元をたどると、ちょうど施設の入り口から四人のサイボーグが出てきたところだった。

 魔力の感触からいっても彼らは明らかに三等級サイボーグだ。

 その彼らが施設内に入るのを塞ぐように扉の位置に障壁を張る。


「姫様、今です」


 上空から急降下したクリアが四つの透明な箱を放り投げる。


因果断絶(カルマ・ディバイド)!」


 クリアが因果干渉を発動させると、カレンの感覚にもはっきりと彼らの中の歪んだ魔力が消えていくのが分かった。

 その当事者であるはずの彼らは自分に何が起こったか分かっていない様子で、突如上空から現れたクリアに魔力を放とうとする動きを見せた。

 しかし、放たれる魔力は何もなく、彼らは一様に目を見開く。

 そこにカレンとクリアの雷球が同時に襲い掛かった。

 ブラックボックスの力が発動しないことに意表を突かれ、四人のうち三人はまともにそれを食らった。

 残る一人もかろうじて雷球を避けたところ、その隙を見逃さず、カイモスが一気に距離を詰めて、その胸を貫く。

 その腕には不器用ながらも障壁が張られていることをカレンは感じ取った。


「ナイスです、カイモスさん!」


 カレンの賞賛にカイモスが手を上げて答える。

 これで施設内に残っている二等級サイボーグを除けば、あとは雑兵のサイボーグのみ。

 クリアもいる今、その掃討は容易だ。

 残りのサイボーグに向けた魔力を練り上げようとしたとき、カレン、そして、クリアは強烈な魔力の波長に施設内に目を向けた。

 それと同時に反射的に二人は自分の前に障壁を張る。

 その後一瞬ののちに、施設の地上部が一斉に弾け飛ぶというあり得ない光景をカレンは目にした。

 まるで風船が破裂するかのように、施設を構成していた硬い建材がばらばらに弾け飛ぶ。

 そのがれきの数々は容赦なく施設の周囲にいた人間を襲い、サイボーグ兵士もカレンたちも関係なくその暴威の被害を受けた。


「敵味方関係なく、ですか」


 施設内にいた二等級サイボーグの力によるものなのは明らかだが、その被害は凄まじいものだ。

 散らばったがれきにより施設の周囲数十メートルはまるで爆心地のようにぼろぼろ。

 周辺に住宅はなかったために一般人の被害はなさそうなのが不幸中の幸いだろう。

 施設を警備していたサイボーグ兵士はほぼ全滅。

 カイモスは何とか障壁を張ったが不完全で、足をやられて動けそうになかった。

 クリアとカレンはかすり傷一つ負っていない。


「まさかこうなるなんて想定外過ぎて意味が分からないんだけど、あなたたちは何者?」


 施設のがれきの中から姿を現したのは、腰ほどの銀髪に白衣を着た美人女医といった印象の女。

 彼女が二等級サイボーグであるのは誰が見ても間違いないだろう。


「正義を愛する魔法少女だよ」


 クリアが真顔で言うと、女サイボーグは眉をひそめた。

 カレンは冷静な表情を維持しつつも、心の中で少しだけ微笑んだ。

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