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第11話 クリアとユリア

「つまりね、黒腐の正体は、特別なサイボーグが特別な力を使うための燃料を集めるためののもので、実は災害じゃなく、七大企業が自国の民を燃料補給に使うために差し向けたものだったんだよ」


 ノーブルヴァイオレットホテル襲撃から数日後、クリアはユリアと顔を合わせていた。

 場所はカレンのマンション。つまりは、クリアの住むマンション。

 話したいことがあると誘ったクリアに二つ返事でOKしたユリアは実に楽しそうな様子で部屋までやってきた。

 その出鼻を挫くようで悪いとは思ったが、クリアは黒腐の真実をユリアに話すことにした。

 実の兄を黒腐で失った彼女にその真実を教えないでいるということは、クリアにはできなかった。

 クリアの話を一通り聞き終えた彼女は開口一番こう言った。


「クリアちゃん、大丈夫?」


 一番にクリアを思いやる言葉が出てきて、虚を突かれる。


「えっと……なにが?」

「だいぶはしょって話してたけど、痛い思いいっぱいしたんだよね!」

「あー、気にするとこ、そこなんだ」

「そうだよ! まずはクリアちゃんの心配から!」


 てっきり七大企業への罵詈雑言が飛び出してくるんじゃないかと期待していただけに、少しだけ肩透かしを食らった気になった。


「まあ、けがはおおむね治ったよ。いまだに引きずってるようなものはないかな」

「そうなんだ! よかった!」


 どんなけがであっても、カルマ・ディバイドで原因と結果を分離してしまえば、無傷と変わらなくなる。

 魔力を全て消費するので、すぐに気絶してしまうのだけがネックだが、そのおかげで傷を引きずらないで済むのだから、デメリットよりもメリットの方が大きい。


「それでさ……」


 口を開こうと思ってクリアは思いとどまった。

 並行世界のヨークなどという埒外な存在のことをユリアに話していいものか。

 黒腐の話だけでいっぱいいっぱいになっているであろう彼女に、さらにその頭を混乱させるような情報を入力してもいいものか。

 逡巡したクリアだったが、目に涙を浮かべたユリアの姿を見て、結局、口を閉じることにした。


「どうしたの? まだ何か話したいことがある感じ?」


 いぶかしげに首を傾げるユリアに、ふるふると首を振る。


「ううん。その……、聞いていいのかなと思って。やっぱり怒ってるのかなって」

「怒るって何に?」

「七大企業に」

「……うーん、怒るっていうのとはちょっと違うかな! どっちかっていうと、悲しいんだと思う!」

「悲しいの? 何が?」

「人を人とも思わないで、そんなにひどいことができる人がこの世界にいるんだなっていうその事実が!」

「……そっか」


 クリアにはそうした感性はないので、ユリアはとても善良な人間なのだろう。

 罪を憎んで人を憎まずにいられるのなら、そのほうが精神衛生上いいのも間違いない。

 クリアとしては、そうした義憤のような感情よりも、完膚なきまでに叩きのめされたあのミミという少女にどうやって反撃してやろうかということばかり考えている。

 やはりやられっぱなしではいられない。

 負けるのも嫌だし、負けたままにしておくのも嫌だ。

 そして、たとえ負けたとしても、次勝つ方法を必ず考える。

 それがクリアのメンタリティ。

 相手が甚大な量の魔力をため込んで、異常なカルマ・リライトを用いるとしても、それで諦めていられるほど、クリアの負けず嫌いは理性的の範疇に収まっていない。


「クリアちゃん」


 意気揚々とリベンジを誓うクリアの耳に、いつになく静かなユリアの声が朗々と染み込んでくる。


「なに?」

「クリアちゃんってさ、魔法使いなんだよね」

「そうだよ」

「その魔法ってどこで教えてもらったの?」

「覚えてないから分からないけど、多分、師匠か何かがいたんじゃないかな」


 前の世界のことはいまだにほとんど思い出せないが、いくら何でも自力で魔法を習得したはずはない。誰かの手ほどきを受けたはずだ。

 珍しく神妙な顔をして尋ねてきたユリアは、それを聞いてすぐに顔をほころばせた。


「そっかー! じゃあ、少なくともクリアちゃんにしかできない特殊能力ってわけじゃないんだね!」

「そのはずだけど、それが?」


 聞くと、花が咲くように微笑んで、ユリアは言った。


「わたしにも教えて!」

「……教えるって魔法を?」

「そう!」

「えー……?」


 そんなことを頼まれるとは、ついぞ思わなかった。


「理由は?」

「人を助けたいから!」

「……えー」


 その理由も予想外の予想外。


「さっきまでのボクの話を聞いて、そんな頼みがどうして出てきたの?」

「だって! 七大企業の人たちの自分勝手な行動で、これまでたくさんの人が悲しい思いをしてきたし、これからもするんだよね! だったら、わたしもその悲しい思いを経験した一人として、自分にできることはしたいと思うから!」

「魔法を使って人を助けるの?」

「そうだよ! 魔法少女の本懐は人を助けることでしょ!」

「……なるほど」


 確かにクリアがインスパイアされたアニメにもそんなシーンは出てきていた。

 しかし、それが魔法少女の本懐とまでは理解できていなかった。

 そう言われれば、確かにその通りなのかもしれない。


「黒腐に襲われた人を助けたりすれば、きっと七大企業にも目を付けられると思うけど、それでもいいの?」


 クリアはその手のリスクはどうでもいいが、今まで平穏な生活を送ってきたであろうユリアには言っておかなければいけないと思い、そう聞いた。

 けれど、ユリアの返事は即答だった。


「それでもいい! 誰かを助けるためにはそれだけの覚悟は必要だもん!」

「そっか」


 そこまで分かっていて、あえて言うのなら、クリアも止めはしない。

 魔法だろうが、何だろうが、いくらでも教え込んであげよう。


「教えるのは別に構わないけど、才能なくても泣かないでね」

「あはは! 泣かないよ! わたし、そんなに弱い女じゃないから!」


 その割には、先ほどまで涙ぐんでいたと思ったが、そこを突くような面倒な真似もクリアはしない。


「ちなみに、ボクの最終目的は、この国の体制の破壊なんだけど、それも手伝ってくれる?」

「は、破壊するの!? この国を!?」

「破壊するって言っても体制だよ。システムを壊したいの」

「……うーん! それはちょっとよく分かんないかも!」

「じゃあ、そっちは保留で。とりあえず魔法を教えるところから」

「はい! よろしくお願いします!」


 そんなこんなでクリアには弟子ができた。

 一人で戦うよりも二人で戦ったほうが心強い。

 それは誰に聞くまでもない当然の話で、カレンという味方が既にいたにしろ、彼女は家族であるという印象のほうがクリアは強く、それを考えてみると、ユリアの存在はクリアにとって何かとても大きな意味を持ちそうな気がしていた。

 クリアは負けず嫌いだが、別に独りよがりではない。

 みんなで戦って勝てるのなら、それが一番いいのかもしれない。

 サイボーグと違って、魔法は誰にでも広められる。

 それこそミミのような巨大な魔力を持つ相手に対抗する一つの手段なのかもしれないとクリアは思った。

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