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第1話 鉄人形と障壁

 目が覚めると、クリアは何もない丘の上に倒れていた。


「……?」


 体を起こし、首を振り、周囲を見渡す。

 見渡す限りの森がそこに広がっていた。

 人や人里の気配はまるで感じられない。

 そこまで考えたところで、クリアは違和感を覚える。


「あれ……? ボクって誰だっけ……?」


 クリアクレイドという名前はすぐに出てきた。

 しかし、それ以上の情報が何一つ頭に浮かび上がってこない。

 自分が誰で、どこに生まれ、どういうふうに育って、どうしてここにいるのか。

 何も分からない。


「くぅ~ん」


 鳴き声に見下ろすと、小さな子犬がクリアの白い肌を舐めているのが見えた。


「君も迷子なの?」

「……わう!」

「……そう」


 何も分からなかったが、きっと迷子に違いないとクリアは思った。

 と、そこで初めてクリアは自身の状態に気付いた。


「……って、ええ!? 裸じゃん!」


 そう、クリアは一糸まとわぬ状態だった。生まれたままの姿だ。あけっぴろげで何も隠すことなく、すべてをオープンにした状態だ。


「……記憶もないし、服もないし、こんな何もない森の中の丘の上にいるし……。一体、ボクは何やってたんだよ……」

 

 いろんなことに疑問符が浮かんだが、覚えていない以上、分かりようもない。


「君なら分かる?」

「……わう」

「分かんないよねー」


 子犬に聞いても分からない。

 何はともあれ、じっとしていても分からないのは確かだ。


「行くか」


 あてどなく深い森に向かってクリアは歩き始めた。


 ※


 クリアが目覚めた丘から下っていくと、その先には、深い森が広がっていた。見渡す限りの一面の緑色。

 柔肌を外気に晒している状態のため、できれば平坦な草原などを歩きたかったクリアだが、残念ながら、ここには森しかなかった。

 適当な長さの枝を杖とし、大きめの葉っぱを体に巻き付けることで服を代用する。

 そうして森の中を一人と一匹、歩き始めた。

 子犬にはカレンと名前を付けた。何となく頭に思い浮かんだ名前で、特に意味はない。

 やがて人の痕跡を見つけた。


「足跡だ!」


 周辺を探索してみると、焚火の跡のようなものもあった。恐らく最近のものだ。

 その足跡をたどって、森の中を進んでいく。

 しばらくすると、前方から地響きとともに轟音が響いてきた。何かとてつもなく重い物が地面に落ちた。そんな類いの音だ。


「ぅわう!」


 その音にカレンが飛び跳ねるように反応し、吠え声を上げる。

 進むか戻るか一瞬ためらったクリアだったが、今は進む以外にないと判断して、周囲を警戒しながら先へ進んでいく。

 やがて森の中に大きく開けた場所が見えてきた。

 木陰に隠れてクリアが広場を窺うと、まず見えたのは大きな人影だった。

 三メートルはあろうかという巨体。明らかに人間ではない。表面は鉄のようにギラギラと光っていた。まるで鉄でできた人形のようだ。

 その先に見えるのは三人の男。

 鉄人形に相対し、手に握った不思議な武器を鉄人形に向けている。

 乾いた音がして、その武器から何かが発射されたようだった。発射されたものはクリアには見えなかったが、鉄人形に当たったカンカンという音から何か金属の類いだろうと彼女は推測した。


「くそっ! 銃が効かねえ!」

「効くわけねえだろ馬鹿! さっさと逃げろ!」


 銃と呼ばれる武器を撃った男は、もう一人の男に引っ張られて、クリアがいるのとは逆方向に逃げようとする。

 しかし、鉄人形の右腕から轟音が生じたかと思うと、二人の男は全身を穴だらけにして吹き飛んだ。

 一瞬で血と肉が弾け飛び、ぴくりとも動かなくなる。

 残る一人の男は一足先に五メートルほど先に逃げていたが、走りながらちらっと後ろを振り返る。

 すると今度は、鉄人形の左腕から何か丸いものが射出されたかと思うと、次の瞬間にはその男の周りで爆発が起きた。

 男がどうなったかは見るまでもない。

 鉄人形は人で言えば頭の位置に当たる部分にある赤い光をピカピカと光らせたかと思うと、ドスンドスンと重厚な音を立てて森の中に歩み去って行った。


「……えー、こわ」


 鉄の怪物がクリアに気付かなかったのは幸運だった。

 轟音に用心して結構、距離を空けていたのが功を奏した。

 あんなものがうろついているとはこの森は一体、何なのか。

 自分が何者なのかすら分からないクリアには、ここがどこなのかすら分からない。そして、銃と呼ばれた武器のことも。

 怪物が去り、十分に時間が経った後、クリアはようやく広場に出た。

 男が落とした銃を拾う。


「意外と重いかも」


 試しに木を標的に見立てて銃を向けてみるが、あまり上手く照準を合わせられる気がしなかった。


「まあ、どっちみちあの鉄人形には効かないんだから、撃てても意味ないんだけど」


 そうつぶやきながら、クリアはずたずたになっている三人の男の死体の方へと向かった。

 自分でも驚くほど冷静で、全く心が動かなかった。血の赤もツンと鼻を突く匂いも、まるでクリアの心を揺り動かさない。

 代わりにクリアは別のことを考えていた。


「死体の服を剥ぐなんて野蛮すぎるかな」


 そう。死んだ彼らの衣服を頂戴しようとクリアは考えたのだ。葉っぱの服でうろつくのはさすがにそろそろ限界だと感じていた。

 それに裸足だという理由もある。靴も彼らからいただきたかった。森の中を歩き回って、クリアの脚は傷だらけだった。


「……ごめんなさい!」


 パンと手を合わせて、形だけでも謝罪の念を表明すると、クリアは死体の服を脱がせにかかった。

 近くに川があったのでそこで服に付いた血を洗い流す。その横でカレンが川の水を飲んでいた。

 きれいになった衣服に袖を通す。灰色単色の粗末な服で、そこかしこに穴が空いているが、それでも、葉っぱよりかはいくらかましになった。

 靴はかなりサイズが大きかったが、余った服を破いて詰めるなどして、何とかスペースを埋めて無理やり履いた。


「さて、どうしよっか」

「わう?」


 カレンに声をかけながら考えをまとめる。

 この森が決して人のうろつかない土地ではないことは分かった。探せば、先ほどの三人の男のように話を聞ける人間が見つかるかもしれない。

 一方で、先ほどの鉄人形のような、出くわせば命を失いかけない危険も同時に存在している。

 この森がどういった場所なのかは分からないが、もしかしたらあれに似たようなものが何体も周囲をうろついているのかもしれない。

 だとすれば下手に歩き回るのは常に命の危険を伴うことになる。

 しかし、かといって森の中にじっと隠れ潜んでいても、クリアの記憶が急に戻ってくることなどあるはずがないだろう。

 やはり人との接触を求めて進む以外に取るべき指針が見当たらない。

 結論が定まると、クリアはてきぱきと行動を始める。

 男たちがそれぞれ持っていた布袋のようなものに銃を詰め、肩に担いだ。

 銃は合わせて三つあるが、何発撃てるのかはよく分からない。構造を理解するために少しだけ分解しようとしてみたが、それもいまいちうまくいかなかった。

 鉄人形には効かないので、あまり持ち歩く意味はないのかもしれないが、何もないよりはましだ。

 そのままクリアは森の中をあてどなく進んだ。

 鉄人形に出会わないように用心深く、そして、人の痕跡を見逃さないよう注意深く。

 そして、見つけた。

 残念ながら人の痕跡ではなく、鉄人形の方をだが。


「……っ!」


 小さな池のほとりに至ったところで向かいの茂みから何か大きな人影が出てくるのが見えた。

 慌てて木の陰に隠れる。カレンも怖いのか、吠え声を上げることもなく、ぴったりとクリアにひっついてきた。

 向こうにも発見されたかと冷や汗をかいたが、どうやらまだ見つかってないらしく、鉄人形は緩慢な動作で池の周りに姿を現した。

 クリアはうかつに動けない。発見されれば、先ほどの男たちのように全身を穴だらけにされるのは必至だろう。

 しかし、運の悪いことに、鉄人形は明らかにこちらに向かって歩いてきている。

 このままクリアが動かずにいれば間違いなく真横をすり抜けていくルートだ。

 見つからなければそれでいいが、いくら森の中とはいえ、あの鉄人形がクリアの存在を見逃してくれる確率はいかほどのものだろう。

 あれがどんなふうに人間を感知して襲っているのか分からない以上、答えは出ないが、希望的観測に命を預けるわけにいかないのは確かだ。

 となれば、クリアは逃げるか戦うか、その二つのどちらかを選択しなければならない。

 何もせずここに居続けるのはそれこそ愚策だろう。


「はあ……」


 クリアは深いため息を吐いた。

 何がどうしてこうなったのかも分からないが、気付けば命を失いかねない瀬戸際にいる。

 記憶もないまま理由も分からず殺されようとしている。

 今まで自分がどういう人生を送ってきたのかクリアは覚えていないが、こうも理不尽に命の危険に晒されなければいけないほど、クリアは罪深い人生を送ってきたのだろうか。

 たとえ本当にそうだったとしても、それを覚えていないクリアには、根拠のない罪悪感に苛まれて死んでやる義理などない。

 何が何でも生き残ってやるという強い思いがクリアの中に沸々と湧いてきていた。


「ああ、なんかこの感覚は覚えてる気がするかも」


 クリアは負けることが嫌いだった。こうした苦境に追い詰められて、少なくともそれだけは思い出した。

 そして、それだけでクリアにとっては十分だった。

 クリアクレイドは負けることが何よりも嫌いなのだ。

 負けないためにあらゆる手段を用いることをクリアはためらわない。

 相手が人間とは思えないような鉄の怪物であろうともそれは変わらない。どんな手段を使ってでも勝利を得ることを模索する。

 だから、今は気配を殺して待った。隠れるためでも、やりすごすためでもない。勝利を得るために、鉄人形がずっしりと重い足取りでクリアの方に近づいていくるのをじっと待った。

 そして、クリアと池とを結んだ対角線上に鉄人形が足を踏み入れた瞬間、クリアは木陰から飛び出る。


「くたばれええええ!」


 鉄人形が右手をクリアに向けるより一瞬早くクリアはその足の一本に組み付いた。そのまま思いっきり引っ張り込む。

 足を引っ張って引き倒す。これしかないとクリアは判断した。姿勢を崩すだけでは打倒するに至らないだろうが、逃げる隙ぐらいは十分に作れる。

 少なくとも、逃げることが敗北だとはクリアも考えていない。原理的に不可能なことはあるのだ。ただの人間が三メートルを超える怪物に生身で太刀打ちできるはずがない。


「……重ったあ!」


 重たいだろうとは思っていたが、クリアが全体重を込めてもぴくりとしないほどに重たいとは思ってもみなかった。倒すまではいかずともせめて姿勢を崩すくらいはできるだろうとクリアは思っていたが、現実はそう甘くない。

 この近距離では、鉄人形の右腕の武器も左腕の武器も使えないだろうが、人形にとってみれば、小枝のようなクリアを殺すのにそんな大層な武器は必要ない。クリアの腰よりも太いその腕を軽く叩きつけるだけで、彼女は容易に意識を失うだろう。

 腕の筋肉が悲鳴を上げる中、それでも必死に人形の足を引っ張り続けるクリア。

 その奮闘虚しく、彼女の頭上に人形の腕が迫る。

 断頭台のギロチンを眺めるような気分でその腕を見上げたクリアだったが、実際にそれがクリアの頭蓋を割ることはなかった。


「わう!」


 それよりも先にカレンが鉄人形に体当たりを敢行していたからだ。

 本来ならば、クリアの細腕の力にカレンの小さな体躯が加わったところで、鉄人形はびくともしないだろう。アリが二匹になったところで象には敵わない。

 だが、今回に限って言えば、そんな常識は通用しなかった。

 鉄人形に体当たりをしたカレンの体は透明な障壁のようなものに守られていたからだ。

 結果、鉄人形は大きく体勢を崩し、池の中に倒れ込む。

 引きずり込まれそうになったクリアは慌てて手を離した。

 そのままカレンを抱え、一目散にその場を逃走する。

 振り返ることはしなかった。

 幸い、轟音とともにクリアの体に穴が空くこともなく、無事、逃げおおせる。

 いくら走ったかも分からないほど走り続けた後、体力の限界とともに、クリアは目に付いた茂みの影に隠れた。そっと後ろを窺うも、あの耳障りな足音はしない。

 どうやら本当に振り切ったようだった。


「ありがとう、カレン。君のおかげで助かったよ」

「わう!」


 元気よく吠える彼女は、どこか誇らしげにしているように見えた。


「ていうか、さっきのは何? 見間違い……じゃないよね?」

「わう?」


 追い詰められていたがゆえの錯覚ということもないはずだ。カレンの体当たりを受けた鉄人形は、明らかにただの子犬の体重以上の衝撃を受けたように見えた。


「まあ、聞いても答えられるはずがないんだけど」


 どうやらカレンが普通の子犬ではないらしいということは何となく分かってきたが、それでも、犬はしゃべれない。それぐらいのことは記憶喪失のクリアでも分かる。


「しゃべれなくてもボクの言ってることは分かるかもだよね。カレン。お願いがあるんだけど」

「わう?」

「もう一回さっきのやってみせて」

「わう!」


 半ばダメ元で聞いてみたクリアだったが、カレンはそれに力強い吠え声で答えた。


「ふむ?」


 答えてくれたのはいいのだが、本当にクリアの言いたいことを分かっているのかどうか。

 そう思ってカレンに手を伸ばす。


「ふお!」


 そして、その手はカレンの体から五十センチくらいのところで不可視の障壁に阻まれた。


「やっぱ見間違いじゃなかったんだね!」

「わう!」


 何となくただの犬ではないような気がしていたが、どうやらカレンは不思議な力を持っているようだ。


「何それ、なんでそんなことできるのって……、聞いても答えらんないか」


 諦めがちに見下ろすクリアを黙って見上げてくるカレンの瞳。

 とても理知的な瞳だった。子犬とは思えない。

 それを見つめているうちに、クリアは奇妙な感覚に見舞われた。

 この瞳を以前どこかで見たような感覚。

 それと同時に、触れている不可視の障壁にカレンの方から何かの力が流れ込んでいるような、そんな感覚も覚えた。

 そして、その力は不可視の障壁だけではなく、クリアの中にも流れている。血液の流れのように、体中を循環し、エネルギーを運び、生命を動かしている。

 それが実感としてクリアには理解できた。

 そして、まるでそれが日常生活に必須のルーティンであるかのようにクリアは自然と右手を前に出し、口が動くままに言葉を発した。


「……物理障壁」


 クリアの右手から不可視の力が出て行くのが分かった。その力はクリアの前方に滞留し、網目のように張り巡らされる。

 誰に言われずともクリアは自然とそれができた。その障壁がカレンが張ったのと同じものであることも何となく分かった。


「これ、は……」


 なぜそれができるのかクリアには分からなかった。

 しかし、推測することはできた。記憶を失う前の自分にとって、こうした力を使うことは日常の一部だったのだろうと。

 だから、全ての記憶を失ってしまった今となっても、力の使い方を体が覚えている。人が決して歩き方を忘れないように、考えるまでもなく、自然とそれを行うことができるのだと。


「これって、どのくらいの強度なんだろう?」


 少なくとも、子犬のカレンがあの鉄の怪物にぶつかったところで傷を負わない程度には硬い代物ではあるはずだった。


「えい!」


 テストがてら、その障壁を張ったまま、近くの木に突撃してみるクリア。


「おおー!」


 結果は木が中ほどでぱっくりと折れた。それでも、障壁はびくともしていない。


「かったーい!」


 この硬さがあれば、あの鉄人形ともう一度出くわしたとしても、何とか生き残る公算はあるかもしれない。

 しかし、だからといって、それはあくまで生き残る公算というだけであって、まかり間違ってもあの怪物を打倒しうるだけの材料にはなりえない。

 障壁は障壁だ。壁は守るためのものであって、敵を倒すためのものではない。


「ん……?」


 肩に担いだ銃の入った袋にふと視線を向けるクリア。

 次に、障壁の衝突でへし折れた木に目をやる。

 ちょっとしたひらめきが彼女の頭の中に生まれた。

 そのアイデアをテストするべく足下に転がっている石を手に取る。その石を中心とした障壁を張ることができるか、その点にこのアイデアの成否はかかっている。

 少しだけ手間取ったが、無事に石の前面に障壁を張ることができたのを感じる。クリアの中の何かのエネルギーは確実にこの石の中に流れ込んでいる。

 そして、その石を振りかぶり、先ほどへし折れた樹木に思い切り投げつける。

 樹木に丸い大穴が開いた。


「わお! 思ったよりも強力じゃない? このメソッド」


 硬さ的には鉄球をぶつけているようなものなのだから、こうなっても不思議ではないが、クリアの細腕で投げてもこれというのが驚くべきところだった。


「これならいけるかも! ね!」

「……わう!」


 カレンに同意を求めると、元気のいい吠え声が返ってきた。

 そうと決まれば行動は早い。

 クリアは元来た道を全力で戻り始めた。

 生い茂る草木の間を走り、鉄人形を倒れさせた池の周辺へ。


「見つけた!」


 体躯の大きな鉄の怪物は遠目でもすぐに見つかる。 

 クリアのその声に反応したのかは分からないが、向こうもクリアに気付いたようで、緩慢な動作で右腕を彼女に向ける。


「障壁!」


 自身の前面に障壁を張ったクリアはそのままいささかも速度を落とさずに怪物に直進していく。

 轟音が生じ、障壁に何かが当たった感触はしたが、幸いそれがすぐに破られるということもなかった。

 喰らい続ければまずいだろうが、そうさせてやるつもりもない。

 そのまま思い切り怪物に突撃した。

 先ほどよりは鈍い音がして、怪物があっけなく倒れ込む。

 その上に跨ったクリアは間髪入れずにゼロ距離で銃を突きつけた。

 ためらいなく引き金を引く。

 信じられないほど大きな音がした。


「……はははははははっ!」


 知らずクリアは声を上げて笑っていた。

 怪物は体中を穴だらけにして動きを止めていた。

 ぴくりとも動かない。

 完全に静止したようだ。

 寸刻前には、カレンの力を借りてやっとのことで体勢を崩し、逃げることしかできなかった相手が今はぶざまにクリアのお尻の下で地面に転がっている。

 これが笑わずにいられるだろうか。


「ボクの勝ち」


 怪物の頭を銃で殴る。

 そのまま撃ち尽くした銃を放り投げた。


「弾丸に障壁を張っただけのことだけど、思いのほかうまくいったなー」


 クリアが思い付いたのはその程度のことだ。

 自分に障壁を張るだけでは守ることしかできない。

 ならば、障壁を張った何かをぶつけて攻撃すればいい。

 ただこの場合は、都合よく高速で金属を射出できる銃を持っていたから、その効力は何倍にもなっただけで。


「しかし、こんなのが普通にうろついてるなんて、どういう場所なんだろうね、ここ」

「わう」


 動かなくなった怪物の身体を調べてみたが、それが複雑な構造でできているということしかクリアには分からなかった。


「とりあえず、今日はここで夜を過ごそうかしら。走り回って疲れたよ」


 ちょうどよく水場もあることだし、それがいいアイデアだと思った。

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