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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ホラー小説集

路面が凍結した日の歩きスマホ

作者: 大浜 英彰

挿絵の画像を作成する際には、「AIイラストくん」を使用させて頂きました。

 この日、私の住む南近畿地方は今冬一番の寒波に見舞われたの。

 この堺県堺市は雪こそ降っていないからまだマシだけれど、吹き抜ける風は冷たいし息は白くなるしで本当に勘弁して貰いたいよ。

 交通ダイヤにも影響が生じるかも知れないからか、テレビの天気予報は「不要不急の外出は控えて下さい」って言っていたね。

 そうは言われても、素直に「はい、そうですか。」と言う訳にはいかない所が務め人の辛い所だよ。

 ましてや私こと岸部吉志絵(きしべよしえ)は堺県庁に務める地方公務員で、オマケに県庁から徒歩圏内で通勤出来る堺市堺区に在住しているのだからね。

 挿絵(By みてみん)

「そうは言っても、寒いなあ…この後の天気はどうなっちゃうんだろう?」

 こうして何の気無しにスマホのお天気アプリを起動させた私は、ついつい画面をスクロールさせる事に夢中になってしまったんだ。

 今の自分がツカツカと革靴を鳴らせて歩いているって事を、スッカリ忘れた状態でね。


 社会人に有るまじき歩きスマホという失態。

 その事に気付かされたのは、親切な通行人の一言だったんだ。

「ちょっと貴女、危ないですよ!この道、路面が凍っているんですから!」

「あっ!」

 慌てて踏み止まって目線を下にやれば、水溜まりを中心にした辺りの路面が凍っていて危険な状態になっていたの。

 親切な人が教えてくれなければ、そのまま歩きスマホを続けて転倒していただろうね。

「ご、ごめんなさい…私、気付かなくて…」

「いやあ、良いんですよ。無事に済んで良かった…」

 頭を下げる私に、声をかけてくれた青年は気さくな笑顔で応じてくれた。

 正しく絵に書いたような好青年って所ね。

 首を妙な角度に曲げて顔の右半分を隠そうとしているのが、少し不自然だったけど。

「だけど本当に気をつけて下さいよ。こんな路面が凍結するような日に歩きスマホなんて…」

「は、はい…」

 急に声を潜めた青年の異様な雰囲気に、思わず私も緊張してしまう。

 ここまで執拗に釘を刺すなんて、シッカリした性格の男性なんだろうな。

 だけど次の瞬間、私は先の自分の思考が余りにも日常的で平和ボケした物だったと思い知る事になったんだ。

「気をつけないと、僕みたいになっちゃいますよ。」

「うっ!?」

 青年が顔の右半分を此方へ向けた時、私は思わず息を飲んでしまった。

 顔の皮膚も筋組織もグシャグシャに引き裂かれ、赤黒い鮮血がボタボタと滴り落ちている。

 その無惨な有り様は、まるで柘榴のようだった。

「貴女と同じように歩きスマホをしていたら、凍った路面で転んじゃったんですよ。それであそこの石段から転がり落ちて、この有り様です。あれは今日みたいな、寒い日の朝だったなぁ…」

 無惨な顔で笑う青年の姿が徐々に透き通り、ゆっくりと消えていく。

 それはあたかも、陽光を浴びて溶けていく雪だるまのようだった。

 そうして青年の姿が完全に消え去った後、その場に残っているのは朽ちかけた供花だけだったんだ…

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― 新着の感想 ―
読ませていただきました。 怖くて教訓めいたお話でした。 途中までは、青年が転んでちょっと顔を擦りむいて、注意しているというほのぼの結末を予想していたんですけど、まさかのホラー展開でした。 いや〜…
[良い点] 歩きスマホだけでも危ないのに、路面が凍結していたら、 「私は転びます」と言っているようなものですね。 青年の顔には驚きましたが、彼のアドバイスに吉志絵は救われましたね。
[良い点] ありきたりなひとだったら自分と同じ目に誰かにも遭ってほしいと思うような気がしますが、精神性の高いひとでよかったです(*´艸`*) 知り合いのおじさんなんか、つるつる滑る床でコケて怪我した…
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