約束と嫉妬心に囲われて
「死んでたまるかあぁぁぁ!」
「奴を捕えろおぉぉぉ!」
「女子の独占を許すな!」
朝から人望のある黒白君が羨ましい。
彼は必死の形相で教室から出ていく。
その後を男子たちが付いていくのは――どこか青春の一枚絵のようだ。
「火光さーん!」
「はい……何ですか」
胸が高鳴る。
入学してクラスメイトに呼ばれるのは初めてかもしれない。
緊張しながら振り向くと、そこには黒白君の幼馴染の海風さん。
顔立ちの端々に人懐っこさが感じられて、とても可愛らしい。
手足がすらりと長くて、顔の小ささがより強調されているようだ。
……そんな彼女と比べて自分の無愛想な答えに嫌気がさす。
「これ、きょうえいからだよ! ダイイングメッセージ!」
黒白君は死地に赴いているのだろうか?
海風さんが示す端末の画面を見る。
「火光さんにお昼休み校舎裏に来るように伝えて!」
「私のご飯」
「埋め合わせは必ずするから!」
「唐揚げが良いな!」
二人の仲の良さが垣間見えるやり取りだ。
「わかりました」
「私も行っていい?」
可愛らしい海風さんのお願いを私が断れるわけない。
反則だ。
「私はいいですけど……黒白君が」
「じゃあ、大丈夫だね!」
流石は幼馴染。
黒白君が許可してくれるのはお見通しらしい。
二人の打てば響く信頼関係が、私にはとても羨ましかった。
朝の時間はどうにか生き残ることができた。
僕の命を狙う非常識人間たちも授業時間はさすがに大人しい。
まだ殺気は感じるけど公に襲ってくることはないようだ。
平和って素晴らしいね!
隠れて端末を確認するとつむじからメッセージが来ていた。
「火光さんに伝えたよ。私も行く!」
「いや、つむじは教室に残ってよ!」
「はあ⁉ 嫌だ! 絶対火光さんと一緒にいる!」
できればつむじには教室に残って欲しかった。
性格はともかく彼女は美少女だ。
彼女が教室に残っていれば、男子はつむじに気を取られるはず。
つまり彼女は僕の隠れ蓑に使える。
その間に火光さんに弁当を渡せば任務達成だったんだけど――
「わかったよ……」
でもこればかりは仕方ない。
朝はいじわるしちゃったし。今回は譲ってあげよう。
やっぱり高等学校の授業はレベルが違う。
僕も学べば学ぶほど自分自身の成長をひしひしと感じる。
「きょうえい、可哀そうに。中学の勉強ですら大変なのに」
「だ、誰が中学の勉強から危ないって⁉」
一応筆記試験も合格してるんだよ⁉
「イチャコラしやがって」
「一刻も早く奴を処分しよう」
「次の授業時間がやつの寿命の終わりだ」
周囲の怨嗟の声は納得がいかない。
そもそも僕らはそんな関係ではないと伝えたいが、話し合いが通じるのか。
「はあ……つむじ、次の授業は何だっけ?」
「確か、体育だね」
「よし!」
ようやく得意な授業だ。
初日だけどどんな授業をするのか。楽しみで仕方ない。
今日が僕の命日になるのかもしれない。
期待していた体育の授業はクラスメイトとの親睦を深めるためにドッジボールになった。
ドッジボール。人にボールを当てる競技である。
「絶対嫌だあぁぁぁぁ!」
「さあ黒白君! 一緒に頑張ろうな!」
「そうさ! 楽しもうぜ!」
男子たちに連行される僕。
言葉上は穏やかに見えるが間違いなく嘘だ。断言できる。
ただ楽しむのなら、どうして君たちの精霊は攻撃態勢を取っているんだい?
僕の疑問に答える人はいない。
そのままコートへと連れていかれてしまう。
どうすれば生き延びられる。
必死に考える。
――そうか! 味方に頼ればいいんだ!
何も僕一人でどうにかする必要はない。
ドッジボールはあくまでチーム競技。
僕を狙う暗殺者たちの攻撃を僕が躱している間に、味方に勝ってもらえばいいのだ。
そうすれば無傷で切り抜けることも可能なはず!
「……味方が……いない……だと⁉
別れた二つの陣地。
僕が指定されたコート内には僕しかいない。
一応味方として振り分けられた裏切り者たちは、既にコート外へと出ている。
「なんでさ! このまま不真面目にやると、僕らの評価が大変なことになるよ⁉」
「評価を犠牲にしてでも、俺達には為さねばならないことがあるんだ」
味方(仮)は大きい決断をしたかのようなスッキリとした表情だ。
嫉妬心が根っこにあると分からなければ、応援したくなるほど澄んだ瞳をしている。
くそ! ここまで割り切るなんて!
敵チームにも語りかける。
「君たちもいいのかい? こんな一人をなぶり殺しにするようなことをして、胸を張れるのかい?」
「「「社会のごみを片付けるだけだ。恥などはない」」」
この人でなしども!
敵チームでケラケラ笑っている風山君と目が合う。
「風山君! 助けて!」
「悪い、黒白。俺も無駄に命をかけたくない」
そうか。君はそういう姿勢か。
しかし彼は肝心なことを忘れている。
「皆、聞いて欲しい! 確かに僕は女子と仲良くしているかもしれない!」
全員の殺気が膨れ上がる。
それでも僕は言葉を続ける。
「だけどそれは僕だけなのかな?」
そう言った途端に、殺意の只中にいた精霊たちに戸惑いが生じ始める。
「まさか、俺のことか」
「く、俺がモテてるのがばれるとは」
「まずい、俺の彼女のことを」
「やばい、ばらされる」
「そうさ、君たちの中にも裏切り者がいる」
少なくても一人。
昨日の体験入部によって、風山君に幼馴染がいることを僕は知っている!
「その裏切り者は」
「手が滑った!」
野球部の剛速球がうなる。
仲の良い豊水さんのことが告発されることに、風山君は気付いたらしい。
――躱せるか⁉
首をひねり、何とか顔面に当たるのを回避する。
ドッジボールのルール的に顔面はなしじゃないの⁉
「ふ、危なかったぜ」
風山君には風の精霊の残滓が付いている。
まさか僕の発言を封殺するために顔面を狙いに来るなんて!
下手すると死んでるよ!
そして彼は気付いていない。
風山君の反応から、周りの男子が風山君を裏切り者だと気付いたことに。
「黒白に止めを刺したら、次は貴様だ」
クラスメイト達の心の声が離れた僕まで聞こえてきそうだ。
しかし風山君がボールを投げたことによって、火ぶたは切られてしまった。
もう彼らを止めるための説得も無駄だろう。
「こうなったらやるしかない! 逆に全滅させてやる!」
こうして僕は何回目かわからない死線に身を投じることになった。
――最後の最後までドッジボールで生き残ってしまった記憶を思い出します。(トラウマ)
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