交渉人の心当たり
訓練と内輪もめが無事終わって。
「それじゃあ、兼平君。明日もよろしくね!」
「はい。こちらこそよろしくお願いします!」
今後の合同演習もさることながら、明日について念を押しておく。
明日は一本木君との交渉があるからだ。
一本木君は兼平君に気があるって話だし、彼がいることによって、交渉を有利に進めることができるはず。ただ問題は――
「兼平君の付き添いを誰にするかだよね」
一本木君の想いを利用するのは、まあいいとして。
そんな関係性の中で兼平君を助けるように僕が付いていくのは避けたい。
そこで僕らの関係性を曲解されたら、一本木君の協力を得られなくなるかもしれない。
そうなると計画全体を練り直さなきゃいけなくなる。
「となると女子が良いのかなあ?」
やっぱり「は組」委員長として、しんかが良いだろうか?
「しんか!」
女子陣に囲まれているしんかに声をかける。
とても盛り上がっているみたいだけど、何の話をしてるんだろう。
「ごめん、邪魔しちゃった?」
「大丈夫」
「何の話をしてたの?」
「美味しいお肉の焼き方」
教室での話し合いでずっと肉肉言っていたのは彼女だったようだ。
「明日兼平君と一緒に、『ほ組』委員長と交渉しに行くんだけど――」
「斬ればいい?」
「何を⁉」
恐ろしい発言に、反射的に聞いてしまった。
でも交渉に行く以上話し合いをすることは分かっているはず。
それならきっと話の内容を斬るみたいな――
「一本木君《ほ組委員長》」
「何で⁉」
まさかしんかも一本木君と何かあったの⁉
だとすると彼には総代決定戦前に消えてもらうことになるけど……
「兼平君に強引に言い寄っているから」
良かった。しんかに何か害があったとかではないみたい。
しんかは先日の兼平君の話をしっかり覚えていたらしい。
「良くない」
気持ちはわかるけど「比翼連理」を握らないで欲しい。こっちも怖いから。
しかし、しんかの論にも一理ある。
もちろん話し合うと言っておいて、呼び出した一本木君を即斬るのは論外だけど。
ひょっとすると、彼に兼平君が強引に言い寄られる可能性も0ではない。
それなら付き添いは、少なくとも一本木君を止められるような人にした方が良いだろう。
「しんか。兼平君が一本木君と交渉する時には――」
「『比翼連理』が血に飢えている」
「いや、しんかが斬ったことあるのは魔人くらいでしょ⁉」
実力があるからといって今のしんかに任せるのは怖い。「ほ組」委員長が理由もなしに辻斬りにあったなんてことになれば、協力どころか全面戦争だ。
それにしんかが本気を出してしまった場合、兼平君も巻き込まれる可能性がある。
流石にそれは避けたい。
「そうなると交渉を上手く進めてくれそうで、実力のある女子がいいか」
「つむじ?」
確かに、つむじはいいかもしれない。コミュニケーション能力も高いし。
「うーん……ごめん、二人共。ちょっと遠慮したいかな」
「どうして?」
涼風さんと一緒にいたつむじに話を持って行くと、そんな返事が返ってきた。
「今は訓練に打ち込みたいっていうのが一番大きいかな。二人にも期待されてるし!」
つむじは軽く言うけど、それが本気なのはよくわかる。
その証拠に、今も話をしながら風と水の精霊の運用を涼風さんと続けていた。
ひょっとすると、この時間すらも今の彼女には惜しいのかもしれない。
「そっか……仕方ないね……」
それならどうしたものか。
一本木君はストーカー(仮)といえども委員長だ。
委員長クラスを確実に抑えられてかつ女子となると、しんかやつむじを除くとなると……らんちゃんくらいだろう。
でもいくら幼馴染とはいえ、総代決定戦で競い合うらんちゃんに頼むわけにはいかないし。
「黒白委員長」
困り果てた僕に、大人びた声がかけられる。
「可愛い子をご所望かい? 私に考えがあるのだけど」
その声の主である涼風さんは、目を細めながら僕たちに救いの手を差し伸べたのであった。
本作『勘違い召使いの王道~いずれかえる五色遣い~』をお読みいただき、誠にありがとうございます!
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