契約条件
「1年『に組』副委員長。蒸野まもりよ。よろしく」
先程から兼平君を僕たちの魔の手(誤解)から庇おうとしているメガネさんは、蒸野さんというらしい。おっとりとしていそうな兼平君としっかりしている蒸野さんで相互補完的な組み合わせだ。
「さて、早速だけど」
全員の紹介も一応終えて、本題に入ってしまおう。
「兼平君の相談は『クラスをまとめられてないから、その手伝いをして欲しい』ってことだよね?」
「はい!」
「えっ⁉」
僕の言葉に力強く頷く兼平君と、虚を突かれたような表情をしている蒸野さん。
――蒸野さんは兼平君から聞いていなかったのだろうか。
反応の違いの大きさが気になる。
「しきちゃん、それは――」
「隣にいるまもりちゃんのおかげでボクのクラスはどうにか形になってます」
蒸野さんの言葉を遮る兼平君。その声には蒸野さんに頼りすぎている罪悪感と、頼りない自身への自虐的なニュアンスが含まれている。
「恥ずかしながら、僕の力不足は否めません。だから――」
自身の弱さと向き合い、認めること。それはとても難しいはずだ。
そこを兼平君は乗り越えたのだ。故に感じられる彼の強い意志。
言葉はそのまま続く。
「だから僕がまもりちゃんやクラスメイト達を支えられるように手伝って欲しいです! お願いします」
「しきちゃん……」
そこにいるのは一人の漢。自身の信念を貫くために身体を張る漢だ。
「昨日も言ったけど」
最早兼平君の意志は聞くまでもない。だからこれはただの前置きでしかない無意味な言葉だ。
「君たちの協力をするってことは、僕たちが不利になるってこと……わかってるよね?」
兼平君はゆっくりと首肯する。
「だからこそ契約条件は必ず守ってもらわなきゃいけないよ?」
ごくりと蒸野さんは生唾を呑み込む。
兼平君の意志は揺るがない。たとえ無茶な要求だろうと彼は受け入れるだろう。
自分自身の成長のために。何よりもクラスメイト達と一緒に戦っていくために。
彼もまた王の器。僕たちと覇を競い合う存在だ。
「わかっています!!」
「その意気や良し! 僕たちから出す条件はこれだ!」
それほど大きくない用紙を取り出す。これこそが契約書。これに契約を結ぶ者たちが精霊を用いて署名することで、契約が成立する。
その紙面は以下の様に書かれていた。
1.「は」「に」「ほ」の3組で共同戦線を張るために、「ほ組」委員長の一本木君を説得すること
2.1日目は僕らと戦っているフリをしながら、索敵を重視し、拠点を見つけ次第情報共有をすること
3.2日目は「い組」の拠点が判明し次第、共同戦線の3組で協力して「い組」と戦うこと
4.最終日は全クラスで協力して「ろ組」と戦うこと
この4つの条件をもって、兼平君が「に組」をまとめられるよう協力する。
「……えっ? これだけでいいんですか?」
「本当なの?」
「共同戦線」を組む。僕が出した条件は、ざっくりいうとこれだけである。
その条件に、目の前の二人は拍子抜けしたらしい。どんな条件を出されると思っていたんだろう。
「えっと……勝ちを譲れとかかな?」
兼平君の鋭い指摘。勿論それも選択肢に入ってはいた。
けどそれでは僕――僕たちは納得いかない。勿論、戦わないで済むならそれでもいい。勝つために手段を選ばないのはむしろ好きだ。でも戦いもせずにただ勝ちを得るのは嫌だった。
先程、兼平君の漢気に触れたことで、猶更この条件にしてよかったと思える。
それに勝ちを譲ってもらったところで、「は組」の戦力が強化されるわけではない。それなら協力して「い組」と「ろ組」を攻める方が、戦略的に有効だし、僕たちの心持ちとしてすっきりするだろう。それが「は組」全体の総意でもあった。
「それは好みじゃなかったからね! 『い組』『ろ組』を倒して、真剣勝負だ!」
それでも僕らに負ける気はない。正々堂々と勝つ!
「……ありがとうこざいます。皆さん。ボクたちも負けませんよ!」
兼平君のうるんだ瞳はどこまでも澄んでいて綺麗だ。
「私も負けない」
拳を握るしんか。可愛らしいけど――彼女は何かがズレているような気もする。
「黒白くん」
話し合いが落ち着いて、しんかと涼風さんが兼平君と話すのを遠目に見ていたら、蒸野さんが僕に声をかけてきた。
「はい?」
「ごめんなさい」
「え? なんで?」
こちらから謝る心当たりはないけど、謝られる心当たりはもっとない。
「あんな失礼な態度をとっちゃって」
どうやら彼女は初めのつっけんどんな態度を申し訳なく思っているようだ。
警戒してたのだから当たり前だろうに。
「気にしないで。兼平君が心配だったんでしょ?」
「そのつもりだった。……守らなきゃって思ってた」
でも――
「しきちゃんがあんなにカッコイイなんて思わなかったわ」
蒸野さんの頬は赤い。巣立った兼平君の凛々しさに当てられたのだろう。
「だから、ありがとう」
――しきちゃんのあんな姿を見せてくれて。
「まあ、それでも僕らが勝つけどね!」
どのクラスにも負けるつもりなどない。そもそも誰がどのくらい強くたって諦める気はさらさらないのだから。
僕の軽口に蒸野さんは微笑む。険のない蒸野さんは、兼平君に負けないくらい魅力的だ。
「あ、それと黒白君。多分勘違いしてると思うけど」
「うん?」
勘違い? 何のことだろう。
「私たち『に組』はまとまってるわよ?」
「……え?」
――どういうこと?
本作『勘違い召使いの王道~いずれかえる五色遣い~』をお読みいただき、誠にありがとうございます!
今後も第二章「水の蛇・金の龍」編を頑張ってアップしていく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。
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