幼馴染との戦い⑤~その薙刀は間違えない~
それは不思議な光景だった。
きょうえいに手を抜かれていると感じた時の怒りを忘れてしまうくらい、静かで優雅な動き。
幼馴染は自身に向かう攻撃に、薙刀の切先を合わせただけだ。
私の1本目の風槍に対して、彼の薙刀の切先が触れる。
コン
私の風槍は拍子抜けするほど乾いた音を立てる。その音をきっかけに、少年を捉えていたはずの風槍は軌道を変えて、訓練室の天井へと昇っていく。
その一当てを皮切りに、私の弾幕に次々と黒の少年は薙刀を触れさせていく。ほんの少し薙刀の切っ先を動かす度に軽い音が立ち、その音を天に届けるかのように、私の風たちは天井へと昇っていく。
……それならこれはどう⁉
次々と攻撃を処理していく敵の背後に、風の弾を何発も生じさせる。
私の近くから放つよりもずっと威力は落ちてしまうけど、仕留めるのが目的のものではない。
……今だ!
少年の背後に用意した弾丸たちが、彼の見えない角度から襲い掛かる。
倒せなくても良い。
これで彼の体勢や薙刀の動作が少しでも乱れれば、私の攻撃に対処できなくなるはず。
そうなってしまえば――私の勝ちだ!
「甘いですの!」
無駄に甲高い、不快な口調が響く。
それ同時に、彼の薙刀の挙動が変化していく。
切先のみを用いていた最小限の動きが、解放されたかのように前後へと躍動し始めたのだ。
特徴的なのは、柄を中心に穂と正対して取り付けられている石突の動き。
これまでの迎撃が嘘のように、石突は攻撃を逸らすために用いられ始める。
後方からの弾幕に対応する、石突の打突によって、背後に用意した弾幕もまた、天へと帰されていく。
……上手い。
前方は切先、後方は石突を用いて、彼は見事に私の攻撃を処理していく。
躍動する薙刀の冴え。
攻撃を処理する反応速度には、舌を巻く。
「でも、甘く見てもらっちゃ困るよ!」
私の言葉に反応したかのように、きょうえいの薙刀の動きが乱れる。
前後ではなく横から1発だけ、攻撃ともいえない威力の風弾を薙刀に当てたのだ。
幼馴染の大きな弱点。
精霊たちが見えすぎるが故に、個々の対処に気を割きすぎてしまう。
だからこそ、弱い一撃に、反応が遅れたのだ。
|らんちゃん《「い組」委員長兼幼馴染》を模した、繊細で美しい薙刀使いは立派だ。
けれど、乱れてしまえばもうこちらのものだ。
敵の薙刀は、私の風弾によって持ち上げられるように弾かれている。
隙。
致命的な隙だ。
好機の到来と共に、身体から風の精霊たちが溢れ出す。
風はあらゆる武器を形作り、少年へと襲い掛かる。
……この勝負、私がもらった――
「なんちゃってですの!」
「っ⁉」
耳障りな言葉が私に届く。
彼の口元には、茶目っ気を含んだ笑みが浮かべられている。
……まさか――誘われた⁉
次の瞬間、乱れたかに見えた薙刀が、まるで予定通りといわんばかりに回転を始める。
風を切る刃の音。
大気を振り払う石突。
もはや彼に前後の区別などない。
自由自在に薙刀を回転させながら、彼は私の風の精霊たちを全て宙へと帰していく。
「このっ⁉」
……マズい。
薙刀は回転すればするほど、その速度を増していく。
回って回って回って。
用意してしまった攻撃を、回転する薙刀によって、次々と処理される。
……この似非お嬢様口調! 性格は雑な物真似のくせに――
「本当にらんちゃんみたいなことしてるじゃん!」
……偽物のくせに!
「おっほっほっほ! 幼馴染のつむじさんの攻撃なら、読み放題ですの!
これくらいは、お茶の子さいさいですわよ!」
ピキリ
……落ち着け、私。
ただの煽りだ。
おそらく狙いは、私の攻撃を少しでも乱すこと。
その証拠に、絶対的にらんちゃんのキャラを間違えているのに、それとは対称的に過たない薙刀捌き。
幼馴染によく似た、正確無比な挙動だ。
相手の力は最大限利用して、自身の力は最小限に。
自身に向けられるすべての攻撃を、勢いはそのままに天へと還す。
目の見えないらんちゃんの得意な戦法。
……なんてムカつく幼馴染たちだ。まさか、こんな形で同時に私の前に立ち塞がるなんて。
私の幼馴染は、もう一人の幼馴染を、彼なりの解釈で模倣できてしまっていたのであった。
――お嬢様口調の少年は主人公です。今後ともよろしくお願いします。
本作『勘違い召使いの王道~いずれかえる五色遣い~』をお読みいただき、誠にありがとうございます!
今後も第二章「水の蛇・金の龍」編を頑張ってアップしていく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。
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