淡い期待と相談事
「よし! 皆休憩にしよう!」
山を模した敷地中に僕の声が響く。
今日の訓練はクラスメイト全員での、屋外演習という形で行っていた。
意外に広いけれど――
「「「了解」」」
風の精霊と精霊通信によって、僕の声は全員に届いている。
男女混合の実戦演習。
女子はいつも通りだが、男子のテンションは分かりやすく高い。
「よっしゃ! 飲み物欲しい子いる?」
「俺、スポドリ!」
「俺も俺も!」
「炭酸水炭酸抜きで!」
「野郎どもには言ってねえ!」
全体に言葉が伝わるというのに、いつも以上に何も考えていないやり取りで大いに沸いている。
女子たちに引かれていないか少し心配――
「じゃあ私ミルクティー」
「奢り?」
「ありがとう!」
……うん。
心配する必要はなさそうだ。
意外と乗っているようだし。
女子にはこの調子で、どんどん男子たちから搾取していってほしい。
「「「いえいえどういたしまして!」」」
使い走りにされているというのに、彼らの声は充実感に満ち溢れている。
……幸せの形って人それぞれなんだなあ。
「委員長」
精霊通信で連絡が入る。
……この声は――
「演劇部所属の涼風さん?
どうしたの?」
「実はちょっと……」
どうしたんだろう。体調不良か何かだろうか。
「涼風さん、体調不良とか用事なら抜けても大丈夫だよ?」
「いや、そういうのではなくてだね……」
気が進まなさそうな涼風さん。
確か彼女は、いつもハキハキとした人だったはずだ。
そんな彼女にしては珍しく、口ごもっている。
「実は話したいことがあるんだ……休憩所に来られないかな」
……こ、これはまさか都市伝説の呼び出し⁉
遂に僕にも春が来たのか⁉
鼓動が一気に跳ね上がる。
初めてのことにどうしたらいいのかわからない。
……どうしよう! とりあえず結婚式場を予約すればいいのかな⁉
「相談事?」
涼風さん以外の女子の声が、割り込む。
……この声は――
我らが「は組」もう一人の委員長こと、しんかからだ。
「うん。同じ演劇部の子なんだけどね。
委員長たちに相談したい事があるみたいなんだ」
涼風さんの声が、無情にも響く。
……なんだ、告白とかじゃなかったのか。
僕の淡い学院生活への期待が、音を立てて崩れていく。
「きょうえい。相談、のってあげよう」
「うん……じゃあ、休憩所で」
「……どうして泣いてるの?」
……何でもない。何でもないんだ!
休憩所までの道は、塩辛い味がした。
演習の敷地を抜けて、休憩地となっている広場に出ると、既に僕のご主人様ことしんかは到着していた。
所々に「は組」のクラスメイトたちや、他クラスの生徒たち。
皆実戦に向けて励んでいるのか、休憩地も賑わっている。
「きょうえい、目が赤い?」
「さっきも言ったけど、泣いてない! 泣いてなんかないよ!」
……だからこれ以上、僕の心の傷をえぐらないで欲しい。
気を取り直して、しんかに問う。
「しんか、涼風さんはもう来てる?」
「来てたけど……探しに行った」
おそらく涼風さんが歩いて行ったであろう場所を、指差すしんか。
どうやら涼風さんは、相談のある演劇部の子を探しに行ったみたいだ。
「『は組』の子?」
「いや、それは僕にも分からないかな」
そういえば、相談者について詳しいことは聞いていなかった。
演劇部という情報しかない。
「委員長たち――二人共、待たせたかな?」
涼風さんの爽やかな声が僕たちに届く。
声の聞こえた方向を見ると、そこには長身にショートカットの少女。
少女は水色の髪を揺らしながら、こちらへと歩いてくる。
ピンと伸びた背筋。
軽やかに動く手足。
彼女の歩く様は、さながらランウェイを歩くモデルのように美しい。
「いや、待ってないよ」
「それは良かった」
涼風さんに答えると、彼女はひらひらと手を振る。
1つ1つの所作に品があるのは、演劇部の練習のおかげなのだろうか。
「さて早速なんだけど……相談があるのは、この子なんだ」
涼風さんがエスコートするように、彼女の背に隠れた人を僕たちの元へと導く。
長身の涼風さんに対して、しんかと同じくらい小柄だ。
黒に灰が混じった髪色。
彼女の周囲には、風・水・木・土の4属性の精霊が漂っている。
「えっと、あの……」
話し声もまた可愛らしい。
緊張している姿は、さながら小動物の様だ。
僕の強かな友人たちの中にはいない、純粋な人に見える。
「は、初めまして」
緊張に上ずる声。
「こちらこそ初めまして!」
「初めまして」
……最近こんな初々しいやりとりをすることもないなあ。
新鮮な気分である。
「い、1年『に組』委員長――兼平しきです。よ、よろしくお願いします」
少女は丁寧に挨拶をしてくれる。
オドオドしている様子に、一層庇護欲が刺激される。
「1年『は組』委員長――黒白きょうえいです。よろしくね」
「1年『は組』委員長――火光しんか。よろしく」
僕たちも挨拶を終えたところで――
……うん?
違和感。
今、彼女はなんて言った?
僕の耳が正しければ、委員長って――
「委員長?」
そんな僕の気持ちを代弁するかのように、しんかが尋ねる。
「ああ。この子が私の演劇部の友人で、二人に相談のある子。
1年『に組』の委員長さ」
涼風さんが、隣から捕捉してくれる。
……いやいやいやいや。
もうじきやって来る総代決定戦。
そのライバルであるはずの他クラスの委員長が、僕らに何の相談があるっていうんだ?
――「に組」委員長の登場。
可愛らしい子から、何か相談があるようで?
本作『勘違い召使いの王道~いずれかえる五色遣い~』をお読みいただき、誠にありがとうございます!
今後も第三章「緑の侵攻」編を頑張って投稿していく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。
※現在、並行して1話目から編集し、書き直したりもしています。
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