クラス演習①~下心は利用され~
「おいしい」
三人での訓練の翌朝、僕の家に一人の少女の声が響く。
炎のような赤い髪。
無表情の顔にはしかし、煌々と燃える瞳。
赤の少女が、僕の作った料理をどんどん平らげていく。
……凄まじい食欲だ。この細い身体のどこに入っているんだろう。
不思議だがしかし、テーブルの上にある料理が次々と消えていくのは――
……爽快だなあ。
作った側としても鼻が高い。
「しんか、僕の分も残してよ?」
「もぐ」
頬を料理で膨らませた少女の姿は、どこか小動物を思わせる。
……まあ実際は、大型の肉食獣よりもはるかに強いんだけど。
「きょうえいの分は気にせずに、たんと召し上がれ」
「つむじ、僕を飢え死にさせる気かい?」
そんなしんかの食欲に拍車をかけるのは、空色の少女。
作ったわけでもないのに、なぜか彼女は少女に僕の料理を勧めている。
……いや別にいいけどさ。
「つむじも食べて」
「うーん。今日は遠慮しておこうかな」
ちょっと食欲ないしねと語るつむじの顔色はあまり良くない。
訓練の疲れもあるのだろうか。
彼女にしては珍しい。
「まだ体調悪い?」
「ううん! 体調は絶好調だよ!」
しんかの質問に答えるつむじの声はどこか寒々しく、笑顔には影が差している気がする。
朝の三人の時間は、残念なことに少し息苦しく感じた。
「風山君――全軍通達。白組は女子陣を牽制。
一斉に風弾をぶつけて下がれ!」
「了解」
役員決定戦も終わり、1年「は組」では学年総代決定戦に備えて、クラス全体での演習が始まっている。
僕たちは炎の魔人との戦いで協力したこともあってか、思いの外すんなりと連携できていた。
風の精霊に乗せて、他のクラスメイトと連絡を取る。
「押火君、白組につられる敵に、全力で火球を叩きこむんだ!」
「ええ……俺、女子に嫌われたくないんだが⁉」
今は、男女別チームに分かれての実戦演習中なわけだが――
……それにしても。
男子の動きが悪い。
どこか遠慮がちだ。
……このバカどもめ。
理由はもちろん分かっている。
色気づいているからだ。
女子が相手。
格好良いところを見せたいという、見栄と。
攻撃して嫌われることへの恐怖。
その二つによって、奴らの手が鈍っている。
……僕は火あぶりにしようとしたくせに。
女子に優しい紳士を目指したいのなら、日頃の行動から改めるべきだろうに。
「押火君。君は何も分かっていない」
そんな押火君を僕は諭す。
「何だと?」
「ここで君が全力の攻撃を加えることによって、女子は君のことをどう思う?」
「……怪我させるなんてサイテー?」
しんかやつむじを相手に、彼が怪我をさせられるかは置いておくとして、
「それがひどい勘違いだよ」
……僕が彼の勘違いを正してあげよう。
「じゃあ、押火君。
ここはどこだい?」
「そりゃあ……訓練室だろ?」
「そうだね。僕たちの通う学校の訓練室だよね?
じゃあ、僕らが通う学校はどこだい?」
「……央成学院だな」
その答えを待っていた。
「そう! 日域国をいい方向に導きたい人たちが集まる場所。
それが央成学院だよね?
そんな国の行方を真剣に憂う人が多い学校の中で、一際全力を尽くすイケメンがいたらどう思う?」
「……そういうことか。
黒白、お前の言いたいことは分かったぜ」
僕の言葉に、フっと似合わない笑い方をする押火君。
風の精霊を介した連絡で良かったと切に思う。
「つまり俺がそのイケメンに当たると――そう言いたいんだな?」
目の前にいたら鬱陶しさのあまり殴りかかっていたかもしれない。
「でもいいのか? 俺が女子たちを魅了してしまって」
……皆、落ち着け。まだダメだ。
おそらく混精で僕らの連絡を聞いていたのだろう。
他の男子たちの殺意が、キモカッコ悪い押火君へと向いているのがわかる。
「もちろんだよ! 全力で女子たちに押火君の強さをアピールしてきて欲しい」
我ながら吐き気のする提案だ。
「こちら風山。女子への牽制OKだ。数人程追ってきてる」
風山君から連絡が入る。
……いいタイミングだ!
これ以上は、我慢できそうになかったから。
「ほら、押火君。イケメンの出番だよ!」
「よっしゃあ! やったるぜぇぇ!」
押火君はノリノリで追ってきた女子たちへと突っ込んでいく。
「風山君! 押火君以外に通達!」
「了解!」
風山君の仕事が早い。
持つべきものは素晴らしいクラスメイトだ。
「男子全軍! 今から押火君が自らを囮にして命の火を燃やし尽くす!
僕たちは彼の死に乗じて女子の後方を取り、女子たちを全滅させるよ!
……勝って僕たちの格好良さを、女子たちにアピールだ!」
「「「応!」」」
押火君。君の犠牲は忘れない。
――下心は、いつの世でも力になる。
※ただし視野も狭くなりがちです。
本作『勘違い召使いの王道~いずれかえる五色遣い~』をお読みいただき、誠にありがとうございます!
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※現在、並行して1話目から編集し、書き直したりもしています。
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