番外編2 誕生日プレゼント④~プレゼントとお引越し~
ショッピングモールでの買い物もつつがなく終わり、帰り道を三人で歩く。
もう少しで、しんかの住む女子寮に到着だ。
家具家電も多数購入し、大物は配送に。
持ち帰ることができるものは、三人で分担している。
……なるほど。そういうことか。
つむじが僕も買い物に呼んだのは、荷物持ちのためか!
空色の少女の意図に気付くも、もう遅い。
幼馴染の策略家の一面には舌を巻く。
まあ、それはそれとして。
しんかとの買い物デート気分を味わえたので、結果的に僕としてもプラスである。
当のつむじは風の精霊の力によって、重さを軽減しながら、両腕いっぱいに荷物持っていた。
彼女の制御能力なら、完全に浮かせることもできるはずだけど「こういうのは気分なの!」ということらしい。
赤の少女もまた、同じく重さを軽減している。
小柄な彼女が荷物に埋もれてしまわないかと心配だったけど、それもなさそうだ。
それ以前に――彼女の素のパワーは僕よりも上なわけだし。
「きょうえい、準備は良い?」
精霊通信。
一緒に歩くつむじからだ。
僕だけに繋がる様に制御された風の精霊たち。
しんかに気付かれないように連絡できている辺り、つむじの技量の高さが窺えるけど――
……準備? 何のこと?
「あのさあ……今日何のためにここに来たのさ!」
つむじは呆れながら、風の精霊を使って僕を後ろに振り向かせようとする。
「痛い痛い! このままだと折れちゃうぅぅぅ!」
涙目の視線の先には、僕が背負っている鞄。
その中からはチラリと、贈り物用のリボンが見えている。
……ってそうだった! 僕は今日――プレゼントを渡すために来たんだ!
「いや、ちゃんとわかってたよ?
ただ、他にやることが多くてちょっと抜けてただけで!」
「本当かな……」
……怪しむな。
幼馴染を信じるんだ。
背負っている鞄。
底にはしんかへのプレゼント。
意識すると……途端に緊張がやってくる。
ショッピングモールで能天気に過ごしていたのが嘘のように緊張する。
「つむじ! いつ渡すべき⁉」
「今は荷物もあるから、一旦運んでからじゃない?」
僕の幼馴染は、渡す流れまで既に見えているようだ。
さすがは名将つむじ。
世が世なら立派な軍師となっていただろう。
「二人とも、少し待ってて」
「私たちも運ぶ?」
「ううん。大丈夫」
女子寮に辿り着くと、名将の予想通り、しんかは荷物を受け取って部屋へと運ぶ。
とてとてと歩いていく小さい後ろ姿は、とても癒される。
……僕らのプレゼントを喜んでくれるといいな。
彼女のそんな後姿に願う。
ついでに――
……つむじとはあの日の決着をここでつけてやる!
荷物を室内に置いて二人の元へ戻る。
午後にはやりたいことが沢山あったので、午前中で買い物が終えられて良かった。
これも二人のおかげだ。
きょうえいとつむじにせめてものお礼の品を持って行く。
待ってくれていた二人の間には、なぜか火花が見える。
……本当に羨ましい。
また仲良く喧嘩しているのだろうか。
戻ってきた私を見つけると、きょうえいが覚悟を決めたかのように話し始めた。
「しんか! 遅れたけど誕生日おめでとう!」
そう言って鞄から二つ、包装されたものを取り出す。
赤のリボンに包まれた大きい箱と、小さい箱。
「片方は私からだよ!」
二人の言葉に、私の時が止まる。
……私へのプレゼント。
思い出されるのは……炎の魔人との決戦。
「比翼連理」と、重なった手の熱さ。
あの時の言葉。
あの時の胸の熱さを思い出して、声が震える。
「開けても……いい?」
「「どうぞどうぞ!」」
大きい方のプレゼントから開ける。
中には白と青の空模様のクッション。
「私のだよ! このクッションめっちゃ気持ちいいよ!」
空色の彼女によく似た色合いのクッションだ。
もふっと抱きしめると、新品の匂い。
つむじの言うように気持ちいい。
「もう一つは……きょうえいから?」
「うん! ぜひ開けてよ!」
いつもよりも早口のきょうえいからのプレゼントは、つむじのプレゼントよりもずっと小さい。
「大きさは負けてるかもしれないけど――」
彼からのプレゼントも開ける。
「ハンカチ?」
中身は白いハンカチだ。
端の方には木の枝と、その枝に留まる赤い鳥が刺繍されている。
「しんかに似合うと――」
「でも私のクッションの方が――」
「まあ、それでも僕の方が――」
「なんだと――」
二人の声が遠い。
視界が揺れる。
……嬉しい。
二人とも、分かっているのだろうか。
私がどれほどの幸せを感じているのか。
……嬉しいのに。
言葉と一緒に涙が零れそうになるのは……どうしてだろう。
「しんか、大丈夫? 気分悪い?」
「僕らのプレゼント嫌だった⁉」
二人の言葉に首を横に振る。
「う……うれしい」
涙が零れる。
この数日間の中に一生分の幸せが詰まっていた。
その上、プレゼントまで貰えるなんて幸せすぎて。
言葉の代わりに涙が零れていく。
「どどどど、どうしようきょうえい」
「僕がわかるか! そうだ! しんか、これ使って!」
止めたくても流れ続ける涙を、きょうえいのプレゼントのハンカチが拭う。
「ほら、落ち着いて! 深呼吸!」
つむじが私の頭を撫でる。彼女の温かい手が気持ちいい。
「二人ともありがとう」
目元と鼻が赤みを帯びている、紅蓮の少女。
無表情の中に、照れが見えるのが愛らしい。
つむじと一緒に、そんなしんかをニコニコと見守っていると、拗ねた様にそっぽを向く。
その仕草も可愛らしいことに彼女は気付いているだろうか。
「これは……二人にお礼」
「えっ⁉」
しんかからお礼の品が手渡される。
その表面には、熨斗とともに「ごあいさつ」と書かれている――
「お蕎麦?」
「うん」
プレゼントのというよりは、買い物のお礼みたいだけど。
蕎麦のお返しは珍しいかもしれない。
「ありがとう、しんか。美味しくいただくよ!」
「ありがとね!」
僕の言葉に、幼馴染も続く。
彼女のお返しの気持ちが、とても嬉しい。
「今日は二人ともありがとう。今後もよろしく」
「こちらこそ!」
「よろしくね!」
これからの3年間。
入学試験の時から、まだ2ヶ月程しか経っていないけど。
それでも彼女との付き合いが、長く続いていくのが楽しみで仕方がなかった。
しんかと別れた帰り道を、つむじと二人で歩く。
「お返しに蕎麦ってしんかは面白いね」
「よし、僕が全部――」
「私の分も作りなよ?」
……ちっ! 貰えなかったか。
僕たちの帰り道も笑顔は絶えない。
それも全ては――火光しんか。
紅蓮の少女。
そんな彼女と少し仲良くなって――猶更知りたくなったからだろう。
「しんかが委員長かあ……楽しみだなあ」
「いや、僕も委員長なんだけど⁉」
つむじはもっと僕を敬うべきだと思う。
「分かってるよ」
空色の少女は、軽やかに笑う。
「ようやく夢の一歩だね」
「うん」
僕の夢の一歩。
日域国を――世界を手に入れる王になる。
入学試験でしんかには負けちゃったけど、それでもまだ繋がっている。
「つむじ」
「何?」
「僕は勝って王になる! そして世界を幸せにするよ!」
子どもっぽい夢かもしれないけど、つむじはそれを決して笑わない。
「うん……頑張れ」
彼女の一言は柔らかい響きを伴って、僕の耳にいつまでも残っている。
最後の休養日をのんびり過ごし、今日からまた学校が始まる。
朝起きていつも通り三人分のお弁当を作ろうとしていると、チャイムの音に呼び出された。
時間は早朝。
宅配も何もないはずだ。
……何だろう?
何も考えずにドアを開けると、そこにはなぜかしんかが立っていた。
紅蓮に輝く少女は、朝から眩しく輝いている。
格好は見慣れた制服姿。
既に登校準備は万端らしい。
「あれ? しんか?」
「おはよう」
「お……おはよう?」
一度ドアを閉めて、チェーンを外す。
もしかして僕……寝ぼけてる?
再びドアを開けると、やはり少女はそこにいる。
「えっと……どうしたの?」
「?」
真っ当な質問に、傾げられる首。
可愛いけど――おかしいのは僕じゃないはずだ。
「何でここに? 女子寮からわざわざ来たの?」
女子寮は校内にある。
……それなのに、朝から僕の家に来たのは何故だ?
質問を変えると、彼女は答える。
「隣の部屋から来た」
「え? どういうこと?」
「隣に越してきた」
「えぇぇぇっ⁉」
朝から殴られたかのような衝撃。
……聞いてないよ⁉
「きょうえい。朝早い。静かに」
しっと人差し指を口の前に立てる。
……僕がおかしいの⁉
「なんで引っ越してきたの?」
「きょうえいが友だちになってくれるって」
それは言った。
「タコさんウインナーを私のためにずっと作ってくれるって」
それは言ったっけ?
「つまりきょうえいは、私のために召使いを続けてくれるってこと。
それなら……近くに住んでた方が都合がいい」
……友だちになりたいとは言ったけど、召使いを続けたいとは言ってないよ⁉
と考えてふと気づく。
魔人との戦い。
「比翼連理」の前で誓い合った契約。
その契約に――召使いを辞めるという文言を入れ忘れたことを。
……マズいマズいマズい。
早朝の冷たい空気の中、冷や汗が噴き出る。
しんかの召使いは良い。
いくらでもやろう。
しかし問題は――クラスメイトたち。
これを知られたら僕の命は――
「ダメだった?」
シュンとするしんか。
赤の瞳には不安の色。
……まあ、いいか。
たとえ命がかかっていたとしても。
彼女にこんな顔をされて、「ダメ」なんて言えるやつは人間じゃない。
「ダメじゃないよ! 良いに決まってる!」
ぱあぁっと表情が明るくなる。
無表情の中に見える笑顔。
……その顔をもっと見たい。
「朝食とお弁当今から作るけど、食べてく?」
「私も一緒に作れる?」
「やってみようか!」
二人で僕の家へと入る。
命の危険はあるけれど――まだ僕の召使い生活は続きそうだ。
本作『勘違い召使いの王道~いずれかえる五色遣い~』をお読みいただき、誠にありがとうございます。
これにて第一章「炎の魔人」編終了です。また明日からは第二章「学年代表決定戦(仮)」編をアップしていこうと思いますので、お読みいただけると嬉しいです。
『面白い!』、『楽しかった』と思って頂けましたら、『評価(下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります)』を是非お願い致します。
感想もお待ちしております。
今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。
ここまでお付き合いいただいた皆様、本当にありがとうございます!




