対魔人⑥~比翼連理の神髄~
惜しいことをした。
放った炎は灼熱。
受ける二人は満身創痍。
導き出される結果は必死。
前途ある者たちの未来を奪う気はなかった。
……だが仕方あるまい。
こうでもせねば、あの二人は比翼連理を渡さない。
あとは比翼連理を回収して、拙の役割は終わりだ。
煙が晴れる。
そこには――
「何?」
二つの火柱がそこに立っている。
紅蓮の火柱。
それが二本。
拙の視界に入るは、劫火。
世界を焼き尽くす炎。
炎すら焼き尽くす炎だ。
その中心に人影が二つ。
小僧と小娘の二人だ。
火の精霊たちが、二人と寄り添っている。
二人を見て感ずる違和感もまた二つ。
先ずあるのは容姿。
その変容だ。
小僧の変化は顕著。
真っ黒だった髪色は、華やかな紅に染まり――
その瞳の色は赤光を宿す。
精霊量の不足は見られず――火の精霊が彼奴を祝福している。
小娘の変化は少ない。
元より髪と瞳は紅。
故に外見の変化は少ない。
ただ心持――覚悟の在り方は雲泥。
瞳には希望の神火が赫々と宿る。
次なる変化は堂々にして明白。
炎の大剣たる比翼連理。
その別離。
比翼連理が剣身を分かつ。
一剣が二刀に。
巨大な刃を持つ両刃が――片刃の打刀へ。
刀身は直刃。
美しき刃文に白銀の刃。
峰は火の精霊に呼応するかのような赤。
「見事」
絶体絶命……その窮地にして覚醒するか。
神々しく――煌々しい命の輝き。
「成し得ることを成し……拙に挑むか」
「『比連』……私の刀」
「比翼連理」の片割れ。
名を「比連」。
私の持つ打刀の名だ。
黒白君が持つ揃いの刀は「翼理」。
二刀一対にして、二振りが集うことで、一振りの炎の大剣「比翼連理」となる。
その真価は――共にいたいと願う相手との共有と相乗。
この状態になって初めて気付く。
父が「比翼連理」の真価を発揮できなかったのは必然だ。
父が共にいたいと願った母は……私を生んですぐに亡くなっていたのだから。
「黒白君……ありがとう」
穏やかな心持ちだ。
「比連」を通じて、黒白君の思いが伝わる。
私と一緒にいたい――その気持ちに顔が綻ぶ。
「私も黒白君と一緒にいたいよ」
思いは伝わり、力は溢れる。
ああ――今なら。
今なら何でもできる気がする。
身を飛ばす。
抑えられない気持ちが後押しとなって、魔人へと飛び出していく。
「速いな」
小娘と共に小僧も飛び立つ。
示しを合わせる素振はなし。
しかして双方共に……拙の視界から消える。
虫の知らせ。
死の気配を感じて、身を空中へと投げ出す。
一拍子後に――刃が拙の在った位置にて重なる。
音が立つのは、互いに刃を振り切った故だろう。
火の精霊の保有量の爆発的な増加。
それは彼奴等の質を上げる。
動きに。加速に。制御に。
時の経過が一動作を過去と為し、糧とする。
「目では追えぬか」
全方位への火炎。
己を中心とした炎の波濤。
その首尾は明快。
拙の炎が斬り払われるが。
「容易く防ぐか」
だが居場所の把握は成った。
視覚には頼らず、精霊にて二人の動きを捕捉する。
その精霊による感覚が、彼奴等の次の動きを感知。
「拙を中心とした鏡写しか!」
対称的な動き。
……此れを受け切るには、大剣では合わぬ。
取り出すは刀。
本数は二。
左右対称の二振りを、此方も対称に受ける。
「こんなものか!」
比翼連理を解放――結構。
相互共有による相乗――結構。
一撃の速さに重さ――申し分なし。
それでも拙に受け止められる程度。
「その程度で拙に勝とうなど!」
二人共に弾き飛ばす。
比翼連理の意志の疎通。
基にした動きの共有。
そんなものは初歩の初歩。
刀に繰られることを、使い熟すとは言わぬ。
期待故の失望。
……つまらぬ立ち合いならば価値はない。
「もっと細かく――もっと繊細に」
私自身の動きは、彼と比べて無駄が多い。
修正――修正――修正だ。
無駄が削ぎ落され、少しずつ彼へと近づいていく。
彼の影を追いかけて、追いかけて――
「重なった……!」
それでも足りない。
土台となる動きは揃った。
でもそれは――私じゃない。
新しい私はここから。
私の始まりはここからだ。
「勇敢だなあ」
大胆にして不敵。
新たなことを躊躇わない勇姿。
僕と火光さんの動きが重なると、彼女の動きは、異なるものへと変わり始める。
1歩のストライドが伸び、加速の規模が増大していく。
直線を駆ける距離が長く……速い。
「置いていかれてたまるか!」
火光さんは爆発の威力を上げた。
対する僕は回数を増やす。
彼女の描く紅い直線に対して、短い直線を何本も繋ぎ足すように。
不規則に――小刻みに。
上下左右が不明になっても駆け続けられる。
火光さんがいて良かった。
彼女がいるから……迷わない。
「拙ながら――」
己の甘さに嗤う。
最早別物だ。
小娘は流星。
最短距離を駆ける赤光が接近する。
それに対する小僧は、常なる加速の重ね。
空中へ描く様はさながら稲妻。
同じ基礎から分岐した個性。
火の精霊の位置把握ができたとて――
両人の動きには間に合わぬ。
比連と翼理による一撃を覚悟した刹那――
拙を二つの拳が殴り飛ばす。
「何⁉」
……何故斬らぬ?
その解が拙の下方に在る。
二刀は拙を無視し、互いにぶつかり合っていた。
「拙を見てすらおらぬか!」
――二人は通じ、魔人は踊ります。
本作『勘違い召使いの王道~いずれかえる五色遣い~』をお読みいただき、誠にありがとうございます!
今後も頑張って投稿していく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。
※現在、並行して1話目から編集し、書き直したりもしています。
気になる方はそちらもお読みいただけると嬉しく思います!
感想もお待ちしております!
評価とブックマークをしていただいた皆様、本当にありがとうございます。
皆様に読んでいただけているということが、僕の書く意欲になります!
もし『面白い!』、『楽しかった』と思って頂けましたら、今後も本作を書いていく強力な励みとなりますので『評価(下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります)』を是非よろしくお願い致します!
ではまた次のお話もよろしくお願いします!




