対魔人④~魔人の本領と二人の想い~
「才能のあるものを手に掛けたくはない。だが――」
拳を交えた魔人が――視界から消える。
「お前は邪魔だ」
後ろ⁉
声は後方。
感ずるのは異常な熱気だ。
迎撃には間に合わない。
それがなんとなくわかる。
でも、それなら――
「くっ!」
……前へ出ろ!
動くのも……考えるのも――止めるな!
頭に響く鈍い音。
……殴り飛ばされた⁉
視界が揺れる。
前方へ勢い良く殴り飛ばされる。
火光さんと比べても段違いの一撃。
だけど――良かった。
大剣による一振りでなくて良かった。
僕はまだ負けてない!
「ほう、その火の精霊との合一状態で、風の精霊も制御しているのか?」
「な⁉ どうして――」
どうして風で拳の勢いを弱めたことに気付けるんだ⁉
炎の魔人は見ている限り、火の精霊しか扱っていないのに⁉
「小僧、お前の制御能力は目を見張るものがある」
疑問への答えはなく、魔人の姿が再び消える。
……どこだ? 分からない!
破れかぶれで右脚を上げる。
「ぐっ⁉」
……蹴り⁉
その上げた脚によって、魔人の蹴りを受けることはできた。
けれど――
「勢いが――殺せない⁉」
そのまま蹴り飛ばされる。
「故に惜しい。
ここでその才が失われることが」
先程の意趣返しの様に、魔人は僕を弾き続ける。
「反撃……くらい……させてよ!」
……打撃を受けきれない!
吹き飛ばされる僕に対して、魔人は確実に追いつき、攻撃により吹き飛ばす。
自身がどこに殴り飛ばされているのかが、わからなくなるほどの連打。
「僕にできることは、お前にもできるってことか⁉」
「さてな」
……それでも探せ!
勝機を……探せ!
空中には二人の影。
だけど私には見えてしまう。
黒白君が魔人から取り込んだ火の精霊が、みるみる減っていく。
一撃が常に必殺の威力を持つ拳や蹴りの応酬。
その分精霊を消費するのは必然だ。
そうなると勝敗を分けるのは――精霊保有量。
無尽蔵にも思える精霊量の魔人が相手では――
「黒白君! もう止めて! 逃げていいから!」
「火光……さん?」
彼女の声が聞こえた気がした。
もう逃げていいと……言われた気がした。
ふざけるな!
僕の夢。
泣いている女の子たちがいて――彼女たちの笑顔が見たかった。
それが僕の夢の始まり。
王になる。
国家間の争いを――魔物による悲劇を減らし、皆が笑える世界を作る。
彼女たちの涙が嫌で、笑わせるために決めた僕の夢。
けれど――
……身近な女の子の涙を止められない奴が……笑って暮らせる世界なんて作れるわけないだろ!
魔人の攻撃に晒されながら、力を振り絞る。
魔人から取り込んだ火の精霊も、もう残り少ない。
「それでも――」
負ける気などない。
「む?」
迫って来た魔人を、僕の足が捉える。
威力のない蹴り。
しかし、それによって確かに――奴との距離ができた。
間髪入れず腰を落とし、拳を中段に構える。
……全てをこの一撃に込める。
僕の意志に従い、火の精霊たちが拳へと集まっていく。
……限界を超えろ! 全てを賭けろ!
生き残ろうなんて考えない。
無様に生き残って火光さんを失うぐらいなら……死んだ方がマシだ!
精霊たちは僕の想いに応える。
奴を打ち破る力を僕に!
「僕が――勝つ!」
打ち出すは右の拳。
全てを吹き飛ばす劫火の一撃。
僕の捨て身の一撃をしかし――炎の魔人は拳で迎え撃つ。
轟音とそして――
迎え撃った魔人の腕が吹き飛ぶ。
だが分かっている。
それでも僕の勝ちではないことは。
「極限の中、よくぞ抗った。だが――」
腕を失った魔人の肩に火の精霊が集まり、再び腕を形成する。
「もうお前にできることはない」
「くそ……」
再生した腕が振りかぶられる。
世界が止まったかのように、遅々として見える拳。
けれど――体はもう動けない。
僕の捨て身の一撃は意味を成さず。
魔人の一撃が僕を地上へと叩き落とした。
「黒白君!」
落ちてきた彼を抱きとめる。
体中火傷と痣だらけだ。
「ありがとう……火光さん」
もう彼から火の精霊の気配を感じない。
髪色は元の黒へと戻り、瞳は暗く揺れる。
今の一撃ですべてを使い果たしたようだ。
「もういい! もういいから!」
……だから――立ち上がろうとしないで!
涙が零れる。
痛々しい身体。
これも全部……私のせいだ。
私たちから少し離れた所に、炎の魔人は降り立つ。
受け止めた黒白君を地面に寝かせて、魔人へと向き合う。
「ようやく――渡す気になったか?」
「渡す気はない!」
ピクリと魔人の眉根が動く。
きっと私は殺される。
それでも……「比翼連理」は亡くなった両親から遺されたものだ。
奪われるくらいなら死んでもいい。
だけど――
「『比翼連理』は私を殺して奪えばいい。
だけど黒白君に……クラスメイトたちには手を出さないで」
彼らには生きていて欲しい。
私のために戦ってくれた人たちには。
「その約束はできぬ」
しかし私の願いは魔人に断られる。
「なんで⁉ どうして⁉」
「小僧の――仲間の目を見ろ……小娘。
ろくに立てもしないくせに、揃いも揃ってまだお前を守ろうとしている。
命を奪えば間違いなく嚙みついてくるだろうよ」
魔人に火の精霊が集まっていく。
「降りかかる火の粉は掃っておく。
分かりきっているものなら猶更な」
私たち二人位なら容易に焼き尽くしてしまえそうな炎が、既に魔人の手元に顕現している。
「ここで仲良く燃え尽きるがいい」
その言葉を契機として、死火は放たれ――私たちへと迫る。
「私だけなら――」
……私だけなら諦めきれたのに。
燃え盛る炎を前に「比翼連理」を強く握る。
……立ち向かえ!
少なくとも――彼だけは守るんだ!
前に出る。
震えは止まらない。
でも――
「黒白君は死なせない!」
彼を背に、放たれた死の炎へと斬りかかる。
「守る! 守るんだ!」
……絶対に黒白君だけは守る!
魔人の炎は「比翼連理」を受け止めて尚止まらない。
限界まで絞り出せ!
「『比翼連理』!
私は黒白君を守りたい!
力を貸して!」
精霊繋装は強く輝く。
「はあああああ!」
私は別にどうなったって構わない。
……でもせめて後ろにいる黒白君だけは!
僕は何をやってるんだ!
火光さんが僕を守るために、魔人の炎へと立ち向かっている。
彼女の小さい背中には、決意と覚悟が燃えている。
身体が動かない……本当か?
こんなところで転がって、火光さんに守られる?
……バカか僕は⁉
立て!
進め!
足手纏いになってんじゃねえぇぇぇぇぇぇ!
身体に力が戻る。
まだ戦える。
自分自身の不甲斐なさ――その怒りが僕の体を突き動かす。
――これもある意味両片思いなのでしょうか?
本作『勘違い召使いの王道~いずれかえる五色遣い~』をお読みいただき、誠にありがとうございます!
今後も頑張って投稿していく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。
※現在、並行して1話目から編集し、書き直したりもしています。
気になる方はそちらもお読みいただけると嬉しく思います!
感想もお待ちしております!
評価とブックマークをしていただいた皆様、本当にありがとうございます。
皆様に読んでいただけているということが、僕の書く意欲になります!
もし『面白い!』、『楽しかった』と思って頂けましたら、今後も本作を書いていく強力な励みとなりますので『評価(下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります)』を是非よろしくお願い致します!
ではまた次のお話もよろしくお願いします!




