対魔人①~「は組」~
「させるかあぁぁぁぁぁ!」
私が死を覚悟した刹那――逆巻く怒涛が魔人を押し流す。
「黒白君⁉」
黒白君が立ち上がっていた。
壁に叩きつけられたせいか、額からは血が流れ落ちている。
体操服は魔人の炎に煽られて所々焦げ、無残な姿だ。
それなのに彼の目には――強い光が灯っている。
「1年『は組』!
呆けてる場合か! 皆!」
僕の声を風の精霊が運ぶ。
……これでクラス全員に聞こえるはずだ。
「男子! ビビってる奴は挙手!」
「はあ?」
「黒白、お前潰すぞ!」
「いるわけねえだろうが!」
「侮辱か⁉」
「そうだよね、野郎ども!
クラスのアイドルの危機だ……燃えて来るよね?」
捲し立てる様に続ける。
「は組」の男子はバカだ。
女の子と仲の良い男は裁判にかけるし、命を狙うし……人として最低だ。
それでも彼らは――
「火光さんのいない学校生活と、あの火の精霊しか能のないおっさん――どっちが怖い⁉」
「そんなの決まってらあぁぁぁぁぁ!」
「化物だろうが何だろうが来いやあぁぁぁぁぁ!」
「嫁は俺が守る!」
「「「てめえの嫁じゃないけどな!」」」
一人の女の子を見捨てるような外道じゃない。
「女子! 怖いなら下がってても……良いんだよ?」
「黒白君、バカ言わないでもらえる?」
「使えない男子はほっといて私たちで助けようか?」
「火光さん好き! 結婚して!」
「うちらのアイドルを奪わせないよ!」
「……あれ、もしかして男子いらない?」
僕の感想に、
「うーん……壁になるならいてもいいよ?」
「足手まといはいらないかなあ」
「火光さん、抱いて!」
女子の答えは勇敢だ。
男子なんかよりもずっと。
そんな彼女たちが一人の女の子を見捨てるわけがない。
つまり、僕たちの答えは決まっている。
「皆! ここが今日の大一番!
誰が火光さんを守って、英雄になるかな?」
「「「「「俺(私)だあぁぁぁぁぁ!」」」」」
……勿論僕のつもりだが。
全員が似たようなことを考えている。
火光さんを救って、あわよくば仲良くなりたい。
そんな下心が。
「それなら皆、やることは理解してるよね!
あの赤いおっさんをさっさと倒して……僕らの火光さんを守るよ!」
「「「「「「応!」」」」」」
それ故に――士気は上々。
僕はクラスメイトに恵まれている。
「青・白の2属性もち! 空中から青攻撃!
炎しか能のない魔人に目にもの見せてやれ!」
「「「了解!」」」
数え切れない水の弾や氷の槍。
それ以外にも、ありとあらゆる水の精霊による攻撃が魔人へと降り注ぐ。
「くたばれぇぇぇぇ!」
「この間男が!」
「くっ……届かないか!」
魔人の周囲を取り巻く、火の精霊たち。
それらによって引き起こされる炎が、僕たちの水と魔人を遮る。
「小賢しい」
言葉をきっかけに、魔人の右手が熱を持つ。
火の精霊たちの収束。
これから行われるのは、趙火力による炎の攻撃だ。
でも――
……そんな遅い攻撃が、僕らに当たるか!
「空中にいる青白組! 炎が直線でくる――今! 散開!」
魔人の炎が放たれる瞬間、指示通りに皆が散らばる。
蜘蛛の子を散らすような散開。
僕らのいなくなった空間を、巨大な炎の槍が貫いていく。
「地上組! 無理に接近戦を仕掛けなくていい! 塔の壁を盾にしながら撃て!」
魔人の意識が、空中へと向かったところで、飛べない仲間も攻撃に参加する。
塔の壁は特別製。
天井は魔人に破られてしまったが――それでも半端な攻撃は通さない。
塔の中央広場入口で身を隠しながら、全員が中心にいる魔人に対しての波状攻撃を仕掛ける。
「火光さんは渡さない!」
「火光さんは年上よりも、同級生の女子が好きなんだから!」
「このロリコン!」
水属性の子たちが打ち出した水が重なり合い、大波が魔人へとぶつかる。
しかし魔人もさるもの。
炎が魔人に触れる前に、やはり水は蒸発していく。
「鬱陶しい」
魔人の火の精霊の高まり。
……地上部隊を焼き払う気だな!
「させるか! 茶組! 足元!」
魔人が炎を打ち出す瞬間に、魔人の足場を破壊する。
散々練習した型――火光さんすら嵌めた型だ。
……そのまま滅ぼしてやる!
ぽっかり開いた穴に落ちていく魔人。
体勢を崩して放出された炎は、狙いが定まらない。
無作為に放たれた炎は、そのまま塔の壁にぶつかり、壁の中の水の精霊と干渉し合って霧散する。
「今だ、青! 穴を水没!
茶組は、上から土を!」
皆の動きが早い。
指示通りに細やかに動く。
……これだけ僕らの力が合わせられるのなら!
魔人を落とした穴がみるみる塞がり、水と混ざって泥へと変化していく。
「酸素が減れば、火の精霊は弱まるはずだ!」
……集中だ。集中しろ!
地上から奴の火の精霊を見る。
少し火の精霊が減るかのような動きを見せると、直後――恐るべき勢いで気配が膨れ上がっていく。
「皆、爆発するよ! 離れて!」
途端に起きる大爆発。
泥は飛び散り、一瞬にして乾く。
それでも――
「逃がさないぞ! 赤おっさん!」
一条の紅い流星が宙に向かって飛び出す。
空を踏む疾駆。
爆発的な加速。
しかしそれは、火光さんに散々見せてもらった動きだ。
「つむじ! 任せた!
真下から直線でくるよ!」
「任された!」
魔人の行き先には、既に僕の幼馴染が配置されている。
空色の少女の周囲には、莫大な風。
すべてを吹き消す、春の嵐だ。
「さっきのお返しだよ!」
満身創痍のつむじ。
魔人から受けたダメージは、そんなにすぐ癒えるはずがない。
けれど彼女は振り絞る。
名前を呼び合う少女のために。
再び彼女と笑いあうために。
「っ⁉」
飛び出した魔人の輝きは彼女の風に圧され、炎の勢いが弱まる。
「きょうえいの仇だあぁぁぁぁぁ!」
つむじの渾身の蹴り。
全身を用いた彼女の蹴りは、鞭のようにしなりながら風の精霊を多く纏う。
その恐るべき蹴りは――空中へと飛び出した魔人の顔面へと直撃し――
「くっ」
蹴りを受けた魔人はサッカーボールの様に、再び穴の中に蹴り落された。
「ゴおぉぉぉぉぉル!」
「僕は生きてるけどね⁉」
「もちろんわかってるよ」
ブイとこちらにピースを向けるつむじは、憎たらしくも誇らしい。
――火光さんを傷つける奴……許すまじ!
本作『勘違い召使いの王道~いずれかえる五色遣い~』をお読みいただき、誠にありがとうございます!
今後も頑張って投稿していく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。
※現在、並行して1話目から編集し、書き直したりもしています。
気になる方はそちらもお読みいただけると嬉しく思います!
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