クラス役員決定戦④~精霊繋装「比翼連理」~
「容赦がない」
地面を転がりながら嬉しく思う。
入学試験はあくまで個人の力を測るための試験だった。
そういう意味では――黒白君の本領は発揮できない試験形式だった。
「俺のおかげで勝てたんだから、俺が火光さんの――」
「はあ⁉ お前みたいな雑魚は――」
「やんの――」
でも今は違う。
彼は私に勝つために男子たちをまとめあげ、手段を選ばず挑んできた。
躊躇わず。
油断せず。
倒しに来たのだ。
男子たちも彼の指揮に応えて、私を抑え込んでいる。
見事な戦術。
ここまで綺麗にやられたのなら、満足かもしれない。
でも――
「こんな私で良いの?」
地面を転がされ、天井を見上げる。
夢のために本気で勝つという意志。
燃え上がる炎のような彼の想い。
それは入学試験の時から変わりない。
黒白君は持てる力をすべて使った。
足りない分を補いながら、遂に彼の刃が私を捉えたのだ。
今日この日、私を倒すために……どれくらい私のことを考えてくれたのか。
男子をまとめ上げるために……どれほど努力したのか。
「良いわけがない」
このままで良いわけがない。
私はそんな彼の想いに応えられていない。
負けるかもしれないという焦りから出た隙を見透かされ――今、無様にも倒れている。
でもそれがどうしたのだろう。
「思い出せ……私」
入学試験で意識を失うまで立ち向かってきた黒白君を。
傷だらけになりながらも、立ち上がってきた彼を。
不撓不屈。
全てを絞り出して私に対抗している彼らは――とても綺麗だと思う。
父を思い出す。
私を逃がすために、戦った父。
父の――お父さんの姿もまた……格好良かった。
今の私は格好良いのか。
答えは分かり切っている。
「っ⁉ 男子、警戒!」
「嘘だろ……」
「マジかよ……」
身体の痛みを無視して私は立ち上がる。
足元はふらつき、景色は少し揺れている。
それでも黒白君たちなら……父なら、この程度では倒れない。
「ふうぅぅぅ」
大きく息を吐く。
私を新しく始めよう。
彼らの期待に応えよう。
「黒白君……行くよ?」
「っ⁉」
彼らの全力に相応しい私。
私はそれを証明しなければならない。
「来て『比翼連理』!」
「やっぱりそう来るか!」
「おい! 黒白、あれって……」
「まさか……」
火光さんの気配が、爆発的に膨れ上がる。
僕の全力には全力で応えたい。
そんな理由で「比翼連理」を抜いてきた彼女。
なら、僕らが本気で勝ちに来ていることを知ったら、きっと抜いてくるとは考えていた。
それにしても――
「前よりすごくない⁉ 火光さん⁉」
火の精霊たちは女王の顕現に喜び震え、世界そのものが深紅に染まる。
「あれが『比翼連理』……すごいね」
私は胴元をやりながら、世界の高まりを感じる。
すさまじいまでの存在感。
紅蓮の少女の手に、似つかわしくない巨大な大剣が握られる。
剣自体の装飾はシンプルだ。
両刃の大剣。
握りや鍔にも無駄な装飾はない。
只々剣身が大きく赤い。
普通の刀の倍はある剣身の幅。
その巨大な両刃には、すべてを斬るという意志が感じられる。
おそらくこの空間は今、火の精霊たちによって埋め尽くされているのだろう。
……残念ながら私には見えないけど。
「良かったね……しんか」
本気をぶつけたいと思える相手。
それが私を降したきょうえいなのは気に食わない。
でも、彼女が本気を出せる相手ができて良かったとも思う。
「羨ましいよ――きょうえい。
ちゃんとしんかの思いに応えてあげなよ?」
……そして、ここからだ。
ここからが私の大勝負の始まり。
「はい、らっしゃい! 誰に賭ける?」
……これで勝てば――一攫千金ゲットだぜ!
「青! 全力で火光さんに攻撃!」
「うおおおお!」
「今だけは美少女であることを忘れろ!」
「焼肉にはなりたくない!」
紅に染まる火光さんと「比翼連理」の存在感に、僕たちは瞬時に臨戦態勢をとる。
水の精霊たちは波となり、彼女へと押し寄せるが――
「させない」
「なっ⁉」
「おい、全力だぞ⁉」
火光さんが手をかざす。
たったそれだけで、彼女に水が届かない。
炎だ。
灼熱の炎によって、迫る水すべてが蒸発しているのだ。
「笑えてきちゃうね」
額の汗を拭う。
「比翼連理」を持つ火光さんを見るのは二度目。
入学試験のあの日以来だ。
なのに慣れない。
目が離せない。
赤の髪と眼は、灼熱の炎に煌々と照らされ、火の精霊たちは彼女が制御せずとも炎となって顕現する。
精霊の存在密度の高さ。
今の彼女なら、少し戯れるだけで全てを焼き払うことが可能だろう。
攻撃していた男子たちも、炎の女王の鮮烈な存在感に酔わされている。
「なんて綺麗なんだ」
「結婚して欲しい」
「黒白を差し出して軍門に下りたい」
……意外に余裕があるのかなあ。
とりあえず二番目の奴は確実にここで戦死してもらおう。
「青、攻撃を止めるな!」
「「「了解!」」」
再開した水の攻撃を、火光さんは棒立ちで受け止める。
「相性としては水の方が有利なはずなのに!」
受けられている。
相性差を一切苦にしない程の火力。
僕が欲しくてやまない精霊量。
彼女から無意識に溢れてくる火の精霊たちが、中央広場を満たしていく。
赤の輝きが塔の壁に触れると、抗うように壁から水の精霊たちが出てくる。
ただ存在しているだけで、塔の壁を作動させる影響力。
……これが精霊繋装の力――火光さんの力か!
まだ彼女は何もしていない。
けど、この量の火の精霊たちを攻防に回されたら――
「いけない!」
火光さんの前方に火の精霊たちが集まり始める。
もはや守勢に回る必要はないと判断したのだろう。
「や、やばい、綺麗な火光さんどころか何も見えない!」
「マズいな」
火の精霊が見える見えないに関わらず、危険な空気を彼らも感じ取っているようだ。
青組の攻撃はすべて無効化され続けている。
「どうする? 黒白」
水が届かない以上、火光さんの火の精霊たちの収束を止める手段がない。
「茶、白、青!」
僕の叫びと同時に――
炎の激流が僕たちを飲み込んだ。
――ちなみに黒白は、「比翼連理」が出てこないことを願っていました。
本作『勘違い召使いの王道~いずれかえる五色遣い~』をお読みいただき、誠にありがとうございます!
今後頑張って投稿していく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。
※現在、並行して1話目から編集し、書き直したりもしています。
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