クラス役員決定戦①~なぜだろう~
「それじゃあ、役員決定戦のルールは以上だ。力を尽くして頑張るようにな」
我らが担任こと土浦先生が、決定戦のルール確認を終える。
空は快晴。
今日は待ちに待ったクラス役員決定戦の日だ。
「そういえば、他クラスはどこでやるのかな?
僕たちは塔最上階なんだよね?」
「野球部の連中から聞いた話だと、訓練塔内の別部屋らしいぞ?
迷宮形式の部屋は他にもあるみたいだしな」
僕の素朴な疑問に、体育着姿の風山君が答えた。
灰がかった黒緑の短髪。
すらりと背の高い彼に、運動用の体育着は良く似合っている。
1年生は「い・ろ・は・に・ほ」組の全5クラス。
塔の部屋数は数えていないけど、間違いなく5部屋以上は余裕であるし、1年生をあてがうのに問題ないようだ。
となると――役員決定戦終了後に、他クラスの映像も見られるかもしれない。
「それよりも俺としては、怪我に注意したいな」
「そうだよ、ゆうき! 気を付けてよね」
風山君に注意をするのは、彼と仲の良い豊水さんだ。
梅紫の髪と瞳。
後頭部でくくられたポニーテールが、言葉に合わせてひらひらと揺れている。
野球部マネージャーもしている彼女としては、部員の健康管理を気にする必要があるみたいだ。
……若干、個人的な事情も入っていそうだけど。
「かなた……ありがたいけど止めてくれ。
お前のおかげで、注目されてる」
「あ……そっか。
目を付けられると不利だもんね。ごめん」
注目されるというのは随分と柔らかい言い方だ。
風山君を囲んでいるのは、皆の殺気。
可愛い女子に話しかけられる裏切り者。
確実に彼を滅するという、凶悪な意志だ。
「とりあえず――怪我しちゃだめだよ?」
「ああ……わかったよ」
そう言って去っていく豊水さん。
風山君の辿るであろう運命を、知らない方が彼女は幸せかもしれない。
……多分、グロテスクなことになるだろうし。
「まあ、今日の結果ってより、明日以降の方が俺は楽しみだな」
「休養日? 3日間あるらしいね。
確かに楽しみっちゃ楽しみだけど……風山君には関係ないんじゃない?」
……多分今日で、寿命が尽きちゃうだろうし。
「うん? どういう意味だ?」
「うーん、ちょっと言葉にするのは憚られるけど……端的にいって死?」
「何てこというんだ⁉ そんな訳ないだろ⁉」」
「いやいやいや」
「これは黒白が正しい」
「珍しくまともなこと言うじゃないか」
周囲のクラスメイトたちも僕に同意する。
僕らは一心同体だ。
「まあ、学校行事なわけだし。
死にかけても治してくれるって」
他者の救護なら水・木・土属性の得意分野。
土浦先生が、その3属性の適性持ちのはずだ。
「それなら、きょうえいをボコボコにしても大丈夫なんだね?」
「つむじ! 怖いこと言わないでくれるかな⁉」
風の精霊と共につむじが降り立つ。
スタイルの良い空色の少女もまた、体操服姿だ。
すらりと伸びる手足が眩しい。
「ボコボコにされても、僕は自分で回復できるよ!」
「ボコボコにされることはいいのか……」
まあそれは仕方ない。
負けるときは負ける。
「そんなことより私は、最上階って場所が気になるなあ」
「僕をボコボコにする話をそんなこと扱いするな」
塔の最上階は迷宮室となっている。
入口が30か所以上あり、迷路状の訓練室。
各入り口から迷宮の周辺部分までは完全に壁で隔たれていて、全員迷宮室の中心を目指すことになる。
1クラス25人が同時に参加することができるという点では、バトルロイヤルにうってつけの部屋だ。
ただの迷路と異なるのは、中心に辿り着けばゴールという訳ではないという点。
周辺の迷路部分を抜けると、開けた場所に出る。
そこで戦い続けて、最後まで生き残った者がクラス委員長の座をゲットというわけだ。
クラスメイト達とどこで出会うか。
それが勝負の結果を分けそうだ。
「楽しみだね! きょうえい!」
「僕の奥の手に刮目するんだね! つむじ!」
呑気に笑うつむじ。
彼女と火光さんが、僕らの最大の障害となるだろう。
できれば、迷宮部分の通路でつむじや火光さんと対面することだけは避けたい。
黒白君とつむじが、いつも通りのやり取りをしているのは流石だ。
クラスメイトがいつもより比較的静かなため、二人のやり取りは良く聞こえる。
かくいう私も緊張はあまりない。
やれることはやってきたつもりだし、二人との訓練も確実に私の血肉になっている。
ただ――
「比翼連理」を使えるかどうかは――結論が出ていない。
土浦先生の全体説明が終わった後、私たちは各々学生服の人に案内される。
1年生は皆が役員決定戦参加のはずだから、上級生だろうか?
「こっちだよ」
案内された迷宮の入り口は、思っていたよりも普通のドア。
「それじゃあ、頑張ってね」
「ありがとう……ございます」
おそらく上級生の人はそう言って去っていく。
……お淑やかで綺麗な人だ。
緑のストレートロングがひらひらとなびいている。
ああいう人は大体強い。
「では、第一学年クラス役員決定戦開始です」
アナウンスと同時に、私は迷宮へと足を踏み入れる。
迷宮の足元は土。
天井まで届く壁は、塔の壁と同じように精霊が詰まっている。
……壁を壊して進むのは効率が悪そうだ。
「どうしよう」
いつものように移動すれば、1番に迷路を抜けることは可能だろう。
私の周囲を舞う火の精霊を見て――その考えを捨てる。
確かに、中央広場には1番乗りできるかもしれないけど、音で居場所が割れる可能性が高い。
それが理由でクラスメイトたちに狙い撃ちをされるリスクは抑えたい。
……最終的に勝ち残ればいい。
私は物音を立てないよう、歩を進めて行く。
「……二人はどこ?」
目下のところ警戒するのは、つむじと黒白君だ。
つむじは純粋に出力の高さ。
彼女の風の精霊の保有量は、私の火の精霊と同等と見ていいだろう。
黒白君は意外性。
精霊保有量は平均的だ。
しかし、彼の事だから――
……何か策を練ってこの戦いに臨んでいるはず。
何が来るかが読めない敵というのは厄介なものだ。
目を凝らしながら進む。
念のため風の精霊たちを進行方向に放ちながら、手探りで確実に進む。
既に黒白君の作戦が、始まっているかもしれないのだから。
「なんで?」
数十分経過。
その状態になって、抱き始めた疑問。
……クラスメイトたちに会わない。
戦闘自体は起きている。
所々で争っている音が聞こえてくるから、それはわかる。
火と風の精霊たちも通路内に増えているので、間違いなく戦闘は始まっているはずだ。
問題は私が戦えていないこと。
勿論、偶然なのかもしれないけど……誰とも遭遇しないというのは不気味だ。
……精霊で私の居場所を把握されている?
念の為、目に見える風と火の精霊たちを爆風で吹き飛ばす。
他の種類の精霊たちを使われていたらどうしようもないけど、やらないよりはマシだろう。
「あっ」
不安を抱きつつも風の精霊で行き先を探り続けていると、空間の広がりが感じられる場所を見つけた。
おそらくあれが――中央広場。
迷宮の集合場所にして、主戦場。
向こうでなら、私も戦闘に参加できるはずだ。
歩を進めていくと、徐々にクラスメイト達の声が聞こえてくる。
ようやくだ。
ようやく誰かと戦える。
開けた場所に私が足を踏み出したと同時――
「さすがの私もギブアップ!」
「つむじ討ち取ったりいぃぃぃぃぃ!」
驚きの光景が目に入る。
黒白君を中心に徒党を組んだ男子生徒たちに、つむじが負けるという嘘みたいな光景がそこにはあった。
――主人公が女の子相手に徒党を組むという、恐ろしい戦略です。
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