三人で実戦訓練②~覚悟~
「よし!」
投げ応えバッチリ。
……きょうえいも殺す気で金属製のボールを投げてきたわけだから、おあいこだよね!
私の剛速球を正面から受けきれないと判断したのか、きょうえいの風の精霊たちはボールの側面を叩く。
止めるのではなく――逸らすための動きだ。
烈風の中で、普通のボールは直進できない。
風の勢いに負け、軌道は逸れるはずだ。
……通常のボールであれば、だけどね!
作成者本人の方が、よく知っているだろう。
私の投げたそれは、ただのボールではない。
金属球だ。
私に止めを刺すための金属球。
それが奴の止めを刺すことになるなんて……皮肉だ。
金属球は直進を続け――少年に当たる。
甲高い音が、室内に響く。
「さよなら……きょうえい。地獄で元気でね……」
「死んでたまるかあぁぁぁぁ!」
しぶとい。
どうやら生きているようだ。
「僕の肩残ってる⁉」
……良かった! ちゃんとある!
無くなったかと思うほどの衝撃。
それでも生き残ることができたのは――
咄嗟に生み出した金属塊のおかげだ。
ボールがぶつかる箇所――今回は肩――に金属塊を差し込み、どうにか肩への直接的な防げたわけだけど――
……勢いまでは殺せないか!
ボールの威力のままに、弾き飛ばされる。
めちゃくちゃ痛い。
……こんな危険物を人に投げるなんて! つむじの外道!
そのまま地面に転がされた僕は、訓練室内の建造物にぶつかって止まる。
正面には僕の伸ばした土の塔がそびえ立ち、背後には建造物の壁。
……逃げ場がない。
そんな僕の目の前につむじが降り立つ。
多少のダメージはあるものの、空色の幼馴染は健在。
僕の息の根くらいは、軽く止められそうだ。
「よし、つむじ! 訓練はこのぐらいにして――」
「きょうえい」
いつもよりも声が低い。
彼女の整った顔には……能面のような笑顔が張り付いている。
「怖い怖い怖い怖い」
「殺る気だったなら、殺られる覚悟もあったんだよね?」
「嫌あぁぁぁぁ! ほんの出来心だったんですうぅぅぅぅ!」
「じゃないと、私に金属球なんて投げてこないもんね?
安心して……ちゃんと止めは刺しておいてあげるから」
……ダメだ! この子僕の話を聞く気がない!
いや、まあ、わかっていたことだけど。
この問答に大した意味はない。
付き合いの長い僕はよーく分かっている。
もう彼女の中で結論は出ているのだ。
つむじがそのまま僕に止めを刺そうと、土の塔に背を向けて歩いてくる。
つまり――予定通りだ!
……油断したなつむじ! 狙うならここだ!
僕への殺意に溺れたな! バカめ!
それが彼女の一番の隙だということを、今ここで教えてやる!
「火光さん、今だ」
僕の声が引き金となって、天井まで伸びた土の塔の内部に火の精霊たちが集まり始める。
「?」
僕が何かしら呟いたことに、つむじは気付いたようで、周囲を警戒するように見回した。
だけどその行動に意味はない。
つむじには火の精霊の動きが見えないのだから、土の内部がどうなってるかなんて見えるはずがないのだ。
「何をする気⁉ きょうえい!」
「つむじも言ったじゃないか……」
「え?」
土の塔が太陽のごとき熱量を持ち始めたことを、彼女は知らない。
「殺られる覚悟もあるんだもんね?」
つむじの顔が青ざめる。
大気の様子。
気温の変化にでも気付いたのだろうか?
でも遅い。
……そうさ。今更気付いたってもう遅い。
「くらえつむじ! 死なば諸共だ!」
「くっ⁉」
僕の叫びと同時に――土の塔は僕ら二人を巻き込んで、破裂したのであった。
「やられた!」
爆発に吹き飛ばされたけれど、どうにか意識は残っている。
辺り一面は――
……土煙に覆われてて、見えないね。
体中砂まみれ。
おまけに爆炎と爆風で、体中が痛い。
制御していた風の精霊たちも、吹き飛ばされてしまったようだ。
……奴は生きているだろうか?
と考えて、首を振る。
この事態は奴が引き起こしたもの。
であれば、十中八九無事と考えていい。
「仕方ない。もう一度風の精霊を――」
私の言葉は続けられない。
ボンという音と共に、土煙を切り裂いて、私に拳が向かってきたからだ。
土の塔を崩壊させつつ、私は土煙の中にいた。
視界は土煙に覆われているがしかし――
「火光さん! 向かって一時の方向に右ストレート!」
「了解」
黒白君の指示通りに動けば、問題ない。
見えない中で振るった拳に、手応えはあり。
そのまま指示通りに対象を殴り飛ばす。
「今吹き飛ばした方向に真っ直ぐ進んで! 止めの蹴りだ!」
「これで……止め」
土煙で見えない中、彼の精霊を用いたナビは正確無比。
指示に身を任せて蹴りを放つと、私の足の上部に標的が当たった。
「しんか、容赦ないね!」
最初の一撃は、私の腹部に突き刺さっていた。
吐き気が止まらない。
……でも視界がない中、どうして攻撃が当たるの?
わかっている……犯人は一人しかいない。
……きょうえいだね。
自分自身を囮にして、私を倒そうとした幼馴染。
奴が大気に舞う土の精霊を使って私の位置を把握し、指示を出している。
でなければ視界の塞がった中、この精度の攻撃はあり得ない。
痛みの中で、しんかが突っ込んでくるタイミングを計る。
風の精霊には頼らない。
頼ればそれを二人に察知される。
私の最大限の警戒の中で――
土煙が不自然に揺らぐ。
放たれたのは――蹴り!
「今!」
私は軽く飛んで、身を縮めた。
「勝った! 僕らの勝利だ!」
ドーム状に展開している土煙のちょうど天頂部を浮遊しながら、僕は確信する。
火光さんの最後の蹴りがつむじを捉えたのが見える。
これで彼女は脱落。
後はこの土煙を利用して、火光さんを倒すのみ!
強烈な蹴りが直撃したつむじは、真上に飛ばされる。
野球のファウルチップのように、打ち上げられた彼女。
その軌道は――
「はあ⁉ どうしてこっちに⁉」」
僕に最短距離で向かう。
咄嗟に回避しようとするも――間に合わない。
「食らええええ!」
「くっ⁉」
天を突く拳を、腕で受ける。
「まさか……火光さんの蹴りを利用するなんて」
「賭けだったけどね!」
彼女の眼はギラギラと殺意に輝いている。
「どうして僕がここにいるってわかった⁉」
「きょうえいの事だからね……全体を見るために上を飛んでると思ったよ!」
探す余裕はなかったはずなのに。
……僕自身の考えを読み切ったとでもいうのか⁉
拳を受けた腕に、彼女の手が絡みついてくる。
その様はまるで獲物を捕らえた蛇。
「よくも私を土砂まみれにしてくれたな‼」
捕られた腕を視点にして、つむじの身体が空中でくるんと回る。
僕の視界が彼女の背中を捕らえたかと思うと、僕の身体はひっくり返り――訓練室の天井が見える。
「お前も土に塗れろおぉぉぉ!」
「嫌じゃああぁぁぁぁ!」
美しい背負い投げ。
僕の体は空中から流星のような軌跡を描いて、地面へと叩きつけられたのであった。
――通じあった幼馴染。
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