可哀想な人
新しく『どうして異世界に来ることになったのか。』という作品の投稿も始めました。
少しでも面白そうだと思っていただけたなら、そちらもお読みいただけると嬉しいです。
「黒白、火光。
今日の放課後、空いているか?」
朝、我らが担任こと、土浦強面先生から声をかけられる。
不機嫌そうな顔に見えるが、これが先生にとっては普通の表情だ。
……ようやく見慣れてきたなあ。
「先生、僕らをデートに誘うならもっとかわいく――」
「空いているかと聞いてるんだが?」
僕の冗談に、真面目くさった顔をしている先生。
……良い人なんだけどね。
良くも悪くも真面目で固過ぎるのが、先生の特徴だ。
表情も、考え方も。
その仏頂面から、「強面」や「目立つ殺し屋」、「歩く闇社会」などという、教員とは思えない渾名を付けられているということを、本人は知らないらしい。
「空いてます」
隣にいたしんかもまた無表情で答える。
「そうか」
先生はチラリと僕をみて、
「まあ、黒白は大丈夫だろうな。
では、話を続けさせてもらうぞ」
返事すら待たない。
「こわも――土浦先生、失礼ですよ!」
「お前の方が失礼だと思うが」
……まったく。
勝手に人を暇人扱いするだなんて!
こういうことをするから、あらぬ噂が立つのだ。
……仕返しに、次はどんな先生の渾名を広めようか。
夏も近づいてきているし、個人的には「放課後裏庭に佇む殺人鬼」みたいな感じで、学校の怪談風味にしたい。
「はあ」と先生は何に対してかわからないが、ため息を吐く。
「放課後だが、生徒会室に来て欲しいそうだ」
「それは別にいいですけど……」
場所が生徒会室で伝聞型ということは、十中八九生徒会長からの呼び出しだろう。
生徒会長――松風ゆうか。
緑のストレートロングに、落ち着いた包容力のある雰囲気を持つ二年生。
可愛らしい顔立ちに似合わない「侵攻」の二つ名を持つ先輩だ。
……あの人からの呼び出しなら、役得だ。
そういう意味でも、総代になれてよかったのだが――
「でも、先生――」
僕の考えを、赤の少女の言葉が遮る。
「どうしてですか?」
しんかはどうやら、僕と同じ疑問を抱いたらしい。
「ああ、ちゃんと説明すべきだったな。
生徒会長が会いたいと――」
「すみません。それじゃないです」
……そうだ。
しんかの聞きたいこと――僕の聞きたいことは違う。
僕たちの抱いた疑問は――
「どうして先生が、生徒会長の使い走りのようなことを?」
……それだ。
クラス委員会は「は組」どころか、第1学年、更には全校の運営にも関わる話だから、先生が僕たちに出席を促すのは理解できる。
だが、この生徒会長の呼び出しは別物だ。
おそらく内容は、生徒会入会の打診。
だがそれを、教員に仲介してもらう必要性はない。
あくまで生徒間での、個人的な打診――お願いに過ぎないのだ。
既に学年総代として、「は組」委員長コンビが知れ渡っている今、生徒会役員や、会長本人が来るなりすればいいのだ。
それを、わざわざ土浦先生が伝えに来るということは、まさか……。
「先生、まさかとは思いますが……生徒会の手先なんですか⁉
僕たちが気に食わなくて、裏切ったんですか⁉
美人の生徒会長に、寝返っちゃったんですか⁉」
……あんな美人が奥さんの上に、あの生徒会長の手先となったのだとすると。
先生の周囲の美人密度が高い。
それも皆、お姉さん属性。
だとすると……許せない。
素手で仕掛けるか、斬りかかるか。
悩む僕に、先生は苦虫を噛み潰したような表情を向けている。
「そんなんじゃない。
私は頼まれただけだ……生徒会長の松風にな」
「それがおかしいんですよ!
頼み事だからって、わざわざ先生みたいな強面に頼むなんて!
未だに先生を怖がってる『は組』生すらいるんですよ⁉」
ほらと、クラスメイトたちを見渡すと、彼らは直ぐに目を逸らす。
まあ、男子はふざけ半分だろうが、女子は本気だ。
それが先生の顔面の力。
怖さと言っても良い。
いくら生徒会長が実力者だからといっても、そんな強力な顔面を持っている先生に頼み事ができるとは思えない。
「きょうえい、それはいくら土浦先生の顔が怖くても可哀想。
事実は時に人を傷付けることもある。
それに土浦先生が、本当に頼まれた可能性もあり得ると私は思う」
「でも、しんか!」
赤の少女は、僕の言い分を否定すると、土浦先生にその紅蓮の瞳を向ける。
「それで土浦先生。
生徒会長に、どんな弱みを握られてるんですか?」
……やられたな。
盲点だ。
土浦先生は、僕らを裏切ったわけでも、ただ伝言を受けたわけでもなく――脅されたのだ。
そうでなければ、土浦先生に頼み事などしないはずだ。
無理矢理、土浦先生に伝言係をさせることによって、「は組」委員長を惑わせる作戦の可能性がある。
ひょっとすると、生徒会長には僕が立候補することが既にバレているのかもしれない。
「火光お前まで……」
土浦先生は、右手で両のこめかみを押さえる。
疲れたような顔だ。
本当に弱みを握られているのかもしれない。
「安心しろ。別にそういう関係ではない」
僕の抱いた心配を、先生は否定すると、
「ただ……彼女の連絡先を知っているだけだ」
そう爆弾を落としたのであった。
――先生は意外にハーレム体質なのかもしれません。
それが「は組」では弱点になります。
本作『勘違い召使いの王道~いずれかえる五色遣い~』をお読みいただき、誠にありがとうございます!
今後も第三章「緑の侵攻」編を頑張って投稿していく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。
※現在、並行して1話目から編集し、書き直したりもしています。
気になる方はそちらもお読みいただけると嬉しく思います!
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