実戦試験⑨~敵を読む~
……難しい状況だ。
土浦先生の居場所を把握できていない以上、先生の居場所を探らなければならない。
しかし――
土槍の雨と、目前の木々の揺れ。
特に森林地域の揺れは、時間が経つごとに大きくなっていく。
……土浦先生も歴戦の強者だな。
精霊の制御は、自身と精霊との距離によって、難易度が変わる。
木と土属性の精霊は、他属性の精霊と比べて、どちらも自律性が高い。
適性者が近くに居なくとも、遠隔で制御しやすい精霊ではある。
しかしそれでも、100m以上離れた木と土の精霊を、同時に制御するのは至難の技であるはずだが――先生はできてしまっている。
……どれだけの訓練と経験を積んできたんだろうか。
自身の才と向き合い、何度もぶつかり合いながら磨き上げた技術。
この精霊制御能力はそういうものだ。
森林地帯と、土槍の発射点を視る。
……どっちだ?
標的である土浦先生の居場所は。
森か、それとも、槍の生成場所か。
加えて、悩みどころは――
……こちらをどう動かすか。
攻撃を仕掛けるのか、防御に専念するのか。
移動するのか、しないのか。
選択肢は無数にある。
おそらく、僕らを悩ませるのも先生の策の1つなのだろう。
老獪な策略。
……年の功ってやつか。
伊達に可愛いお姉さんを落としていない。
絶対に、ここで土浦先生を倒して、可愛いお姉さんの落とし方を聞き出さなくてはならない。
「つむじ! 茶組!
地上と地中の索敵は可能かい?」
「防御に手一杯!」
「こっちも同じだ!」
どちらも酷い攻撃に晒されている状況か。
それなら――
「白組! つむじを守るのに全力を注ぎ込め!
緑組! 茶組の索敵の間は、君たちが護れ!」
「「了解!」」
「しんかは前進! 白組の元まで行き、土の槍を協力して迎撃!
赤組は森林領域に攻撃開始!」
「「了解!」」
僕の指示通りに級友たちは動く。
この一体感に集中力。
……これなら先生相手でもいけるか?
「つむじ! 茶組! 反応は?」
「見つからない!」
「「先生の反応なし!」」
無数の精霊の動き。
これだけ手を尽くしても見つからないのだとすると、見つからない可能性が高いと考えるべきだ。
であれば――敵を見つけるのではなく……敵の狙いを読む。
読んだ狙いが正しければ――先生も読み通りに動くはず。
現況は――停滞。
土の槍によって、僕ら「青・木・茶組」本隊は足止めされていて――白組としんかも同じ状況だ。
赤組は森を攻撃中だが、まだ時間がかかるだろう。
想定以上に木々が燃えにくい様だ。
……でも。
このままの状況が続くのであれば、僕たちが勝つ。
土の精霊がもたないだろう。
それなのに、この状況を姿をくらませてまで維持する理由は何だ。
……それとも「ろ組」の様に竜核でも所持している?
それなら、この量の土の精霊を貯蔵することなんて朝飯前。
今の状況を一日中でも維持することが可能だろうが――
……ないな。
竜核は目が飛び出るくらい、高額だ。
そんなものを、わざわざ実戦試験程度で使用するとは思えない。
総代決定戦で玉桜君が使用してきたこと自体が、異例なのだ。
……じゃあ、なんだ?
考えろ。
考えるしかない。
……もし僕が土浦先生なら、どうするだろうか。
この方向性で考えてみよう。
僕なら……まずは厄介な生徒から消す。
となると最優先目標は、しんかとつむじ。
二人の精霊繋装保有者だ。
精霊繋装は、絶大な力を持つ装備。
解放するだけで精霊保有量が上がり、所有者の潜在能力を引き出し、精霊繋装の特殊能力を発現させたりする。
故に精霊繋装保有者は、強力な戦力として国に登録されるのだが――それを勘違いしてはいけない。
自身の精霊繋装を解放できる。
それができる段階で、既に特別――例外なく卓越した実力者なのだ。
この戦いでは、精霊繋装が使えない。
だとしても、保有者の二人は「は組」最大戦力であることに変わりはないのである。
しんか、つむじ、らんちゃん、玉桜君。
……よくよく考えると、やっぱり精霊繋装保有者は、化物ぞろいだなあ。
彼女らの異常な感覚に、染まらないよう気を付けよう。
常識は大事にするべきだ。
それは置いておくとして。
しかし先生は、つむじを初撃で仕留め損ねた。
機動力のある空色の少女は、初撃を逃せばもう討つのは難しい。
目覚めた「先見」によって初見の攻撃はもちろん、一度見た攻撃への対応力は更に高くなる。
次にしんかだが――しんかはつむじ程の対応力はまだない。
けれど機動力は彼女の方が上だ。
紅蓮の疾駆の速度は、央成学院の中でも間違いなく上位。
彼女を捉えるのもまた難しいはず。
つまり「は組」の頂点二人を討つのは難しい。
となると次に狙われるのは――
……僕か⁉
指揮権があり、二人よりも実力が劣る。
狙うにはうってつけの相手。
「待機組! 離脱するよ!」
……舐められるのは気に食わないけど。
僕が先生なら、僕を確実に倒しに行く。
土の精霊を使いきるような手も、森林領域を揺らすのも全ては陽動。
……次の手は恐らく。
僕らの目を逸らしての――強襲だ。
「「「え――」」」
全員の反応が終わる前に、
轟音が鳴り響き、建物が揺れる。
「「「な、何だあぁぁぁぁぁ⁉」」」
「やっぱり来たか!」
建造物エリアが土に飲まれ始める。
「総員、全力で跳躍!
茶組! 制御されていない大地を探して、見つけ次第緑組に報告!
緑組! 茶組が見つけた場所に、足場として木を生やせ!」
コンクリートの割れる轟音。
土は削岩機の様に建造物を破砕しながら、飲み込んでいく。
「……仕留めきれなかったか」
言葉と共に、強面の敵が地中から姿を現した。
「しぶといな……黒白」
「先生! 僕らは僕らの責務を果たさなければいけないんです!」
……これも読まれるか。
入学したての1年生とは、とても思えない深い読み。
それも自陣の戦力を客観的に判断して、私の手を読んできたか。
敵指揮官としては、最悪の敵だが――
黒白きょうえい。
担当する「は組」の指揮官としては逸材なのかもしれない。
ただ惜しいのは――
「だから先生! ここで死んでください!
皆! タコ殴りだ!
強面先生を二度といちゃつけないようにボコボコにしてやれえぇぇぇぇぇ!」
「「「「応!」」」」
「全くお前たちというやつは……」
男子全員が理性を失い、嫉妬に囚われていることか。
私を見つけた途端に、バカどもの目の色が変わる。
「全員教育してやる。
根本から見直す様に」
「うるせえぇぇぇぇ!」
「リア充がごたごた言ってんじゃねえぇぇぇぇぇl!」
「全員でかかれ! 確実に殺すんだ!」
理解はできないが……とりあえず全員補習授業にぶち込んでしまおう。
――心のままに行動するのにも良し悪しがあると思います。
本作『勘違い召使いの王道~いずれかえる五色遣い~』をお読みいただき、誠にありがとうございます!
今後も第三章「緑の侵攻」編を頑張って投稿していく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。
※現在、並行して1話目から編集し、書き直したりもしています。
気になる方はそちらもお読みいただけると嬉しく思います!
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