実戦試験⑥~土槍の投擲~
土浦先生の全身が連動する。
大地から生えた槍によって、その動きは捉えにくいが。
速い助走速度。
その速度を見事に乗せた強い踏み込みに、腰の捻りが加わる。
捻りの力は腰から胸、肩、肘、腕へと伝播し、最後は指先へと集中する。
……どこが狙いなのかな?
こちらとの距離は約100m。
土浦先生の身体能力なら、余裕で届く距離のはずだが――
そう考えた次の瞬間。
投擲体勢の土浦先生と、目が合う。
「皆! 狙いは海風つむじ!
私から離れるように!」
自身の直感を風に乗せると同時に、高密度の風を広域展開。
……どんな軌道で来ようとも、反応してみせる!
私の用意が終わったタイミングで、土の槍が放たれる。
海風と目が合う。
……まさか、私の狙いに気付かれたか?
だが――もう遅い。
既に放たれる槍には関係ない。
力は全て槍へと籠めた。
それは全身の力だけでなく――土の精霊たちも。
指先から槍が離れる。
……行け!
空を穿つ褐色の飛翔。
槍には見事なジャイロ回転が付与され、空を切り裂き進み始める。
……速っ⁉
槍の軌道は直線。
……やっぱり私を狙ってたね⁉ 土浦先生!
さすがはクラス担任。
白組を取り仕切るのは私だと分かっていたようだ。
……狙われている部位はどこ⁉
集中だ。
集中できなければ、私はここで討たれる。
迫る土の槍。
その威力は、受け損なえば離脱を余儀なくされることは必至。
冷たい汗が流れる。
……見ろ――視ろ。
自身にそう言い聞かせたところで――世界が静まる。
聞こえるのは胸の鼓動だけ。
槍が止まる。
勿論、実際の槍の速度は衰えていない。
ただ、そう見えているだけだ。
見切り――それを超えた先見。
精霊繋装「対牀風雪」の覚醒によって研ぎ澄まされた、私の能力。
槍の軌道が見える。
狙いは――頭!
……先生、容赦ないね!
確実に私を仕留めようという意図を感じる。
つまりはそれだけ――私を危険視しているということか。
首を傾ける。
思考は早くとも、身体の動きは遅い。
このままいけば、間に合うかどうかは五分といったところだが。
……それなら!
風の精霊を御する。
先程展開した風を、槍の正面に。
……撃ち落とすには、時間と威力が足りない。
でも私の狙いは――それではない。
槍へと立ちはだかる風は向かい風。
物理的に槍を押し戻そうとする風だ。
勿論それでも撃ち落とすには至らない。
でもこれで――
……槍の速度を和らげることはできた!
よし――これなら間に合う。
槍の矛先は私の頬を掠め――通過する。
「よし、躱せた!」
「「「おおぉぉぉぉぉ!」」」
……私の槍を躱したか。
流石の非凡。
風の精霊の寵児の面目躍如といったところだろうか。
槍の速度が多少落ちているあたり、風の精霊も使用したのだろう。
精霊繋装の使用の禁止。
精霊繋装保持者は、この試験中は使用できない。
そのハンデの中でも、あの凄まじい処理能力は十分驚異的だ。
「だが――」
……判断が正しいのかは、また別の話だ。
「海風さん――土の槍、回避成功!」
「「「おおおおぉぉぉぉぉ!」」」
つむじの回避報告に、建造物領域から歓声が上がる。
さすがはつむじ。
僕の幼馴染だ。
精霊繋装がなくとも、彼女が強い事なんて僕が一番わかっているのだ。
だが――何故だろう。
素晴らしいニュースのはずなのに――
……何か変じゃない?
本質が見えていないような。
何か大事なことを見落としているような。
そんな嫌な予感がする。
……何だ?
土浦先生の槍の投擲。
つむじの回避。
つむじの精霊の挙動を見てる限り、相当にギリギリのタイミングだったはずだ。
……どうして投擲槍に、それほどまでの速度を乗せる必要がある?
槍を確実に届かせるためだろうか。
だが、白組とは距離があったはずだ。
届くかどうかが心配なら、もっと彼らが近づいたタイミングで放てばよかったのに。
それにつむじが躱して尚、槍の威力は衰えていな――
……まさか⁉
「茶組! 盾を前面展開!」
「「「?」」」
「きょうえい、どうしたの?」
僕の叫びに赤の少女が尋ねる。
詳しく説明してる時間はないが――
「槍が来るよ!」
「「「はあぁぁぁぁぁぁ⁉」」」
直後、つむじの回避した槍が――僕らへと降り注いだ。
――つむじの成長と、それを上回る土浦先生の狙い。
ちなみに現実のやり投げ世界記録は100m弱です。
本作『勘違い召使いの王道~いずれかえる五色遣い~』をお読みいただき、誠にありがとうございます!
今後も第三章「緑の侵攻」編を頑張って投稿していく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。
※現在、並行して1話目から編集し、書き直したりもしています。
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