三人で実戦訓練①~風の精霊の優位性~
……とても厄介。
白光を振り払いながら、私は走り続ける。
今日の訓練は、いつもの訓練部屋ではない。
遮蔽物有りの屋外環境を模した部屋で行われている。
規模も、前回つむじと使用した場所より広く、木や建造物が設置されている。
「堅い……」
目の前には、そびえ立つ建造物。
入口も付いていて、中に入ることが可能だ。
掌で触れた壁は堅い。
建造物を破壊するのは、簡単ではなさそうだ。
塔の壁と同じ材質で作られているのだろう。
火と風の精霊が、建造物に籠められているのが見える。
そんな建造物の隙間を埋めるように、じわじわと充満していく白の輝き。
風の精霊だ。
風の精霊が、逃げ場を遮るかのように迫ってきている。
この風の精霊は――つむじのだ。
空色の少女。
風と水の精霊の適性持ち。
笑顔の朗らかな美人さんだ。
大量の風の精霊は、そんな彼女の索敵行為によって生じたもの。
驚くべきは、その索敵規模。
「ここも」
地を駆ける私を先回りするかのように、彼女の操る風がどこにでも存在している。
こちらは遮蔽物もあって視界が狭まっているのに対して――一方的にこちらの居場所を捕捉されかねない状況だ。
「この状況は……厳しい」
精霊特性の違い。
私の得意とする火の精霊は、攻撃力特化。
敵と正面から戦う際には、無類の火力を誇る。
しかし、敵を捕捉できていないこういう状況では――
……空を駆ける風や、地を覆う土の方が有利だ。
私や黒白君も、風の適性を持ってはいるのだが。
……つむじの風の制御は頭一つ抜けてる。どうしよう。
考えている間にも、つむじの風の侵食は止まらない。
毎回追い払って移動するのは煩わしいし――
もこもこ
「え?」
反射的に飛びのく。
私の足元の土が、膨らんでいた。
……訓練室にモグラ?
膨らんだ土から――顔がにょきっと飛び出す。
「あ、火光さん! さっきぶり!」
モグラかと思った生き物は、地面を掘り進んできた黒白君だった。
……よし、火光さんと協力しよう。
この障害物の多い状況では、つむじの独壇場だと判断した僕は、土の精霊によって地面に潜る。
塔内の部屋である以上床はあるはずだけど、土と床の間には余裕で人が潜れるくらいの空間があってよかった。
並行して土の精霊たちを地面に広げていく。
……多分、つむじは浮いてるよね?
クラスにはとけこんでるくせに、こういう時には常に浮いているのだ。
大地を伝う土の精霊では、見つけられないだろう。
でも――
……火光さんは徒歩で移動しているはず。
「見つけた!」
予想通り、火光さんを発見する。
彼女は建物の陰に隠れながら、つむじの風を振り払って移動していた。
反応があった場所に向けて、土のトンネルを広げていく。
こうして僕は――土の中を移動して、火光さんに出会うことができたのだった。
「このままだとつむじが勝っちゃうし、協力しない?」
「する」
僕の提案に、彼女の答えは早い。
即答といってもいい。
日域国でも地域によっては、武士道やら騎士道精神やらで一対一にこだわる学生がいる中で、彼女の勝つためなら手段は選ばない柔軟性は、正直ありがたい。
「策はあるの?」
蝋燭程度の小火が、彼女の端正な顔を照らし出す。
僕たちは今、つむじの索敵から逃れるために地面の中にいた。
火光さんと二人っきり。
近い距離感。
彼女の吐息の音すら聞こえてきそうで、ドキドキする。
そんな彼女は、火の精霊をできるだけ抑えているらしい。
いつもよりも、精霊たちの動きが少ない。
つむじは火の精霊との相性がないから、見つかる心配はないはずだけど。
念のためということだろう。
「ふふふ……火光さん。作戦がなければ協力なんて言い出さないよ!」
「すごい」
ぱちぱちと小さい両手が、乾いた音を立てる。
……少し照れくさいなあ。
「……それじゃあ、説明するね!」
気まずさを打ち消すように、話を切り出す。
「うん。よろしく」
こうして僕たちの、二人っきりの密談は進む。
「やれそう?」
「大丈夫」
打ち合わせが終わる。
少女の断言がとても頼もしい。
「よし、じゃあいくよ! 火光さん!」
それを合図に、僕は真上にある土を天井に向けて伸ばし始めた。
「動きがないなー。つまんないなー」
ふわりと宙に浮きながら私は呟く。
きょうえいとしんかが見つからない。
風の精霊に関しては私に分があり、故にこの遮蔽物の多い訓練室では、私が有利なことも分かっていた。
風の精霊たちは既に地上を覆い、室内は全て私の領域。
時折風の精霊が吹き飛ばされていたのは、どちらが原因か分からなかったけど、今はその動きすらない。
おかしい。
……どうしてどっちも見つからないんだろう?
「もしかして……建物の中に隠れた?」
そこまでは、風の精霊を配置していなかった。
……念には念をだね!
建物の中も精霊が満ち始める。
もうこれで――逃げ場はない。
……詰みだね! 今回は私の勝ち! 完!
そう考えた直後――
「ええぇぇぇぇ⁉」
私の口から、驚愕の叫びが出る。
地面から土が伸び始めたからだ。
それはまるで植物の様に、天井に向かって成長していく。
「なに……これ」
意味が分からない。
やる意味も何もかも……わからない。
しかし。
……意図が分からない時こそ、危ない。
こんなことをやる犯人は、決まっている。
私の幼馴染。
黒髪黒目の少年。
黒白きょうえいだ。
奴とは古くからの付き合い。
その長い付き合いから、確実に分かっていることが1つある。
……きょうえいは天才だ。
そんなやつは、頻繁に私の常識を超えた一手を指してきたりするのである。
「とりあえず――」
……風の精霊たちをぶつけてみようかな?
私の周囲の精霊たちが、白い輝きを放ち――風の刃や弾を形成する。
「行け!」
号令の下、空を走る私の攻撃。
見事に土の塔に衝突するが――
「何で⁉」
無傷。
否――完全な無傷ではない。
所々削れてはいる。
削れてはいるが――それは直ぐに修復され、再び天井を目指して伸び始める。
……きょうえい、何する気?
しんかに土の精霊との適性はない。
となるとこれはきょうえいの策のはず。
「私を疲れさせるのが狙い?」
いや、ないな。
このくらいで私が疲れるわけがない事は、敵もわかっているはずだ。
だとすると考えられるのは――
思考の刹那、爆音が室内に響く。
私の背後で爆発が起きたのだ。
「やったか⁉」
口にして後悔する。
これは……敵の生存フラグだ!
「やってるわけないよね!」
「ちくしょう!」
爆発の煙の中から空色が出現する。
多少服が焦げたりしているけど、ダメージはなさそうだ。
「よくも私の服を焦がしてくれたなあぁぁぁぁぁ!」
「嫌あぁぁぁぁぁ!」
……ホラーじゃないか⁉
風の精霊たちを従えたつむじが、僕に向かって敵意を向ける。
……あの土の塔は囮だったみたいだね。
土の塔に注目させて、背後から奇襲を仕掛ける。
でもそんなの――
……通用するわけないよね!
今も伸び続ける土をチラリと見て、地上にいるきょうえいに集中する。
精霊の保有量なら、確実に私が勝つ。
でもそんな単純な勝負を、奴が挑んでくるわけがない。
「怪物め!」
「誰が怪物だよ!」
繰り出される爆発に、風と水の精霊を合わせる。
爆炎は水によって消され、煙は風に巻かれ霧散していく。
「事前にそれを見てて良かったよ!」
「くそっ!」
弁当を巡って争った朝。
あの日私が目にしたのは――
爆発には火の精霊と少しの風の精霊が必要だということ。
そして私には――
火の精霊は見えないけど、風の精霊の動きはよく見える。
……もうそれじゃ、私は倒せないよ!
次々と爆発を処理する。
けれど、敵は止めない。
「悪あがきだね!」
爆煙と蒸気で、奴の姿が見えなくなっても、彼から放たれる風の精霊に反応して処理する。
繰り返し放たれる爆発。
無策に見えるそれに、気を抜くことはできない。
……狙いはなに?
爆煙と蒸気が私の周囲に満ちる。
まるで私ときょうえいを隔てるように。
「やばいやばい⁉」
……嫌な予感がする!
風で周囲の気配の把握を――
「っ⁉」
途端に、見えないきょうえいから放たれる死の気配。
「うわあぁぁぁぁぁ⁉」
煙と蒸気を引き裂いて――金属製のボールが、私の顔面に襲い掛かってきた!
「ストライーク!」
……野球部に体験に行った甲斐があったね!
土の精霊たちが作りあげた金属製のボールは、つむじの上半身に当たったように見える。
かなりの重量。
当たればダメージは免れないはずだ。
「一応念の為と」
……更に何球か投げておこう。
彼女のしぶとさを、僕は誰よりも知っている。
空中から落下するつむじに向かっての追い打ち。
全力投球だ。
「念の為死ねえぇぇぇぇぇ!」
僕の投球に対して、やはり動きがある。
「うわ! やっぱり生きてた!」
「絶対許さないからね! きょうえい!」
僕の金属球が迫る中、彼女の体勢が変わる。
頭から落下するのは変わらず、両手を金属球に向ける。
アレはまるで――捕球姿勢。
まさか――
……僕のボールを受け止めるつもりか⁉
「素手で僕の球に対抗できるかな!」
「対抗なんてしないよ!」
僕の投げた初球をつむじは両手で包み込むと、その勢いを殺さずに空中をくるくると回転し始める。
それだけで――彼女の落下速度が変わる。
「何⁉ どうなってるの⁉」
「精霊の力をなめちゃダメだよ?」
勢いよく落下していたの彼女が、回転することで速度が緩む。
……そんな⁉ ヘリコプターでもないのに⁉
捕られたボール以外は、つむじの落下速度の変化に対応できず外れる。
そんな中、彼女の回転に風の精霊が巻き込まれ始める。
……まずいまずいまずい!
前面に風の精霊を展開。
風の精霊たちが連なる重層構造。
……今の僕の状態で出来る――最速の盾!
「耐えてくれ! 僕の盾!」
未だにくるくる回る彼女から、僕の投げた金属球が吐き出される。
彼女の回転の勢いと風の精霊の後押しを受け、吐き出された金属球が唸りを上げながら僕へと向かってくる。
ああ、こんなの――
「こんなの受けたら死んじゃう! 幼馴染を殺す気⁉」
――幼馴染たちの信頼(多分死なない)は深いです。
本作『勘違い召使いの王道~いずれかえる五色遣い~』をお読みいただき、誠にありがとうございます!
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