実戦試験①~強面の受難~
央成学院、訓練塔。
そこは、生徒たちが詰め寄り、自身の実力を高めようと励む特別な場所である。
そんな塔の一室に、男の姿があった。
大人の男。
上背のある男だ。
短い焦茶の髪。
所々に青の色合いも含まれている。
服装は白のワイシャツに、髪と同色のスラックス。
生真面目そうに結ばれたネクタイには、茶・緑・青の三色が、縞模様で入っている。
上背と肩幅もあって、スーツ姿は良く似合っているが――彼にはそれ以上に目立つ部分があった。
それは顔立ち。
あるいは表情の作り方というべきなのかもしれない。
とにかく不機嫌そうに見えるのだ。
本人にとっては普通の顔だが――他者にとっては怖い顔。
瞳の色は髪色と同色で、落ち着いた色合いである。
それにも関わらず、その美しい瞳は鋭い目つきによって、恐ろしい眼光へと変貌している。
顔の作りや部位自体は悪くない。
故にその顔面の怖さは、彼自身が表情の作りに不慣れ故なのだろう。
「……」
焦茶の瞳で周囲を見渡しながら、彼は待っていた。
その時が来るのを。
彼が少し動くたびに、周囲の精霊たちが火花の様に揺れる。
茶・緑・青。
ネクタイの色と同じ三色の精霊たちだ。
男は集中するかのように、目をつぶる。
大きく息を吸う。
吐く。
それを繰り返すにつれて、精霊たちの動きが穏やかに、滑らかに変化していく。
緑と青の精霊は活動が収まり、それとは逆に茶の精霊――土の精霊が輝きを増した。
土の精霊たちは男の身に宿ると、彼の身体を辿り、両足から大地へと流れ出る。
彼を中心とした土の円は領域を広げ、訓練室を徐々に占拠していく。
そして数秒後、
「来るか」
男の呟きと共に、
「「「死ねやあぁぁぁぁぁ!」」」
夏季型学生服に身を包んだ少年たちが、彼へと襲い掛かって来る。
どこに隠れていたのだろうか。
その無数の瞳に宿るのは殺意。
確実に命を取るという、強い決意が彼らの瞳に火を灯している。
「お前たち……それが教師に対する態度か⁉」
呆れたような物言いの男に対して、
「単位を寄越すなら、先生と呼びますよ! ついでに処刑します!」
「そうです。
最高評価をいただいた上で、お掃除させていただきますよ!」
「死にたくなければ、俺らに投降してください!
生かすかどうかは、拷問した後に考えます!」
「とりあえず処して、その後に生死について話し合いましょう」
男の今後の生死について、各々語る少年たち。
……このバカたちは……。
どうしてこうなったのだろうと、私――土浦おうかは疑問に思う。
入学試験で、少し変わった生徒と出会い、偶然その生徒のいるクラス担任を任されることになった。
それはいい。
仕事でもあるわけだし。
あれから二ヶ月。
担当する生徒たちとの仲もそれなりに深まり、担任としての最低限の役割は果たしてきたつもりなのだが。
今、ある問題が起きている。
先程の言動からもわかる様に、担当生徒たちから、何故か命を狙われていることだ。
生徒と戦うのは当然として。
襲われるのも百歩譲って良しとしよう。
……だが、命まで狙われるのは腑に落ちない。
いくら今が実戦試験の真っ最中とはいえ。
実戦試験。
央成学院は、各国の精霊機関と争い、日域国の世界における立ち位置を左右する国立機関。
故に定期試験の後は、精霊を用いた実戦試験が必ずある。
評価を付けるのは、各クラスの担任――1年「は組」は私――となるわけだが、
「許せねえ、絶対に許せねえよ……」
「先生だからって、やっていい事と悪いことがある!」
「聖職者が、こんな裏切りをやって良いのか⁉」
担当する生徒たちから聞こえる、理不尽な叫び。
……どうしてこいつらは、私を殺す気なんだ?
担任である私に力を示せば、今回の試験は十分なはずなのだが――
「「「死いぃぃぃぃぃぃねえぇぇぇぇぇぇぇぇ!」」」
このざまである。
話すら通じそうにないほど怒り狂っている。
……一体、何が彼らをそこまでさせるというのか。
何が原因でこんなことになってしまったのか。
……いや。
実は分かっていることもある。
この事態を引き起こした犯人が誰なのかだ。
「は組」生徒。
特に、男子生徒をそそのかし、ここまで憎しみで染め上げることのできる存在。
勿論、理解しているつもりだ。
そんな奴は、一人しかいないと。
「黒白! お前、どういうつもりだ⁉」
「ろ組」委員長にして、火光しんかと共に、学年総代となった男子生徒。
入学試験で偶々接することとなった、黒髪黒目の人懐っこい少年だ。
しかし、その実態は――
「どういうつもりだって⁉
そんなの決まってるじゃないですか!」
声だけが聞こえる。
身を隠し、私の隙を窺う彼は、
「絶対に、貴方は許しません!
リア充は教師といえども死ねええぇぇぇぇぇえ!
なあ、野郎ども!」
「「「殺せえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」」」
ただのバカである。
――ここから第三章の始まりです。
またお付き合いいただければ幸いです。
何故か命を狙われる土浦先生。その理由は?
本作『勘違い召使いの王道~いずれかえる五色遣い~』をお読みいただき、誠にありがとうございます!
今後も第三章「緑の侵攻」編を頑張って投稿していく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。
※現在、並行して1話目から編集し、書き直したりもしています。
気になる方はそちらもお読みいただけると嬉しく思います!
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