学年総代決定戦3日目㉓~「に・ほ組」~
「すいちゃん、裏表なんてないし!」
叫びと共に水弾が僕を襲う。
激情が溢れているのは、図星を突いたからだろうか。
しかし、その感情的な言葉とは裏腹に――
「くっ⁉」
狙う箇所は的確だ。
玉桜君の攻撃の切れ目。
僕の反撃するタイミングで――攻撃を切り裂く様に、水の弾丸は飛んでくる。
「狙撃能力が高過ぎる!」
……絶対大地さんは、何人か撃ち殺してるとしか思えない。
そうでなければ、稀代の狙撃手の生まれ変わりか何かだ。
実力は伯仲。
であれば、勝敗を決めるのは――戦意だ!
二人の戦意。
それを削るのに集中するべきだ!
「大地さん! そんなきわどい所!
いやあぁぁぁぁぁ! やめてえぇぇぇぇ!」
「たー君! あれ、セクハラよね⁉ セクハラよね⁉」
「良いじゃないか。訴えれば慰謝料をたんまり獲れるぞ」
「人を袋叩きにして、慰謝料までとろうだなんて!
『ろ組』の役員コンビは人でなしなの⁉」
「「人聞き悪すぎるだろ!」」
おかしい。
更に手数が増えた。
それにしても――
「連携がこんなに厄介だなんて」
戦い難さだけで言えば、炎の魔人を超えるかもしれない。
籠手を振るう玉桜君は一撃の速さ、重さ共に申し分なし。
幸いなのは、こちらの移動速度が勝っていることだ。
しかしその優位を、大地さんが見事に埋める。
彼女は、僕を狙わない。
僕と玉桜君の攻防から流れを汲み、僕の選択肢を徹底して狭めている。
仕留めようとしていない。
ひたすらに――玉桜君の援護に徹し続けている。
職人の仕事だ。
同級生とは思えない小柄な体躯。
しかし、そこから放たれる水弾の精度は歴戦の撃ち手である。
「どうだ。うちのすいかは、やるだろう?」
「もう……たー君たら……」
「くそう!」
戦いながらいちゃつく余裕を見せる二人。
戦闘中に勝手に二人だけの世界を創り出すなんて、絶対に許してはならない。
……僕への敬意がないのか!
潰したい。
徹底して始末したい。
誰かこの二人を処分するのを手伝って――
「「「黒白!」」」
精霊通信に複数の声が響く。
この声は――
「『は組』男子たち⁉」
いつになく、真剣な声色だ。
追いつめられたこの状況で、何か策でもあるのだろうか。
期待に胸を膨らませると、
「分かってるだろうな?」
「裏切り者は殺す」
「それが『は組』の正義だ」
……言ってる場合か⁉
「えっと……ちなみに誰か、手を貸せる人いる?」
「「「俺たちは脱落してるから無理」」」
「使えないな、バカども!」
「「「なんだと、このバカが!」」」
口しか出せない雑魚どもは、黙ってて欲しい。
……こっちはこのやり取りをしている間にも、攻め立てられているのに!
汗が頬を伝う。
運動によるものなのか冷や汗なのか、わからない。
閉塞感。
このままいけば――敗北が待っている。
「誰かあぁぁぁぁ! 僕を助けてくださあぁぁぁい!」
心からの叫びに、
「俺がいるぞ!」
応える声。
それと共に――
「何なの⁉」
大地さんの放つ水弾が、音を立てて弾かれる。
木だ。
僕へと放たれた水弾が、大地から育った木に防がれる。
木の表皮は傷つけられても――貫かれることはない。
「一本木君!」
彼による、木の盾だ。
木の精霊適性をもつ、名前の通り一本気の気質を持つ少年。
山で桃金竜の動きを止めて、行方が分からなくなっていたけど。
「生きてたんだね⁉」
「失礼だな! 生きてるに決まってるだろ!」
精霊通信による連絡ということは、まだ山から移動できていないのだろう。
すなわち木の盾は――植物の遠隔操作。
直接的な攻防は、他属性と比べて一歩劣る木の精霊。
その代わりに、他属性ではできない長距離間での遠隔操作が可能だ。
しかし、その操作は距離が離れるほど難しいはずだ。
大地さんの精密射撃を的確に防いでいるのは、一本木君の技量の高さによるものだろう。
「俺が大地さんを食い止める!」
木々が大地さんへと襲い掛かる。
「こんなので、すいちゃんを止められると思ってるの⁉」
木々と大地さんの相対が始まると同時に――
「黒白君! こっちは準備オッケーだよ!」
続く連絡は、
「兼平君! 無事⁉」
「うん。なんとかね。
でも、ボクももう……空っぽかな。
そろそろギブアップしようと思うんだけど……ダメかな?」
少女に見紛う少年。
その可愛らしさで、「に組」を従える気弱だった男の子。
言葉は遠慮がちだけど……もう僕は、彼のことをよく知っている。
竜への突撃。
恐怖心もあったはずなのに、仕掛けたその勇気を――よく知っている。
彼――兼平君は、満足いく結果を得られたのだろうか。
僕たちと共同戦線を組んでくれることになって、ずっと協力してくれていた。
初日の捜索も。
二日目の「い組」戦も。
そして今日まで、ずっと。
その結果の空っぽ。
もし、僕の手伝いのために、やりたいことができなかったのなら――
「兼平君。ごめん」
謝罪することしかできない。
「黒白君が、何について謝っているかわからないかな。
ボクはやりたいようにやって、それでも力が足りなかったんだよ。
だから――」
力強い言葉。
初めて会った時からは、想像のつかないくらい凛々しい言葉だ。
「この敗北はボクのものだよ。黒白君には譲れないし――譲る気もない。
だから……謝らないで」
「……うん。わかったよ。
謝罪は撤回する」
「うん」
精霊通信に顔は映らない。
基本的には音声のみの送受信。
けれども――
「この敗北はボクの――ボクたちのものだから。
だから――勝利は黒白君たちが……持って行ってよ」
きっと今、彼の顔は凛々しく輝いているのだろう。
「ありがとう」
君と――君たちと組めて、本当に良かった。
「黒白! 俺も、もう限界なんだが⁉
ギブアップしていいか⁉」
「一本木君。
君は、死ぬまで働きなよ」
「お前ホント分かりやすく最低だな⁉」
――「に・ほ組」委員長たち。
彼らにも限界が来てしまったのは残念ですが、今後の活躍にご期待ください!
ちなみに、会話をしながらも主人公は玉桜君との戦闘中です。
本作『勘違い召使いの王道~いずれかえる五色遣い~』をお読みいただき、誠にありがとうございます!
今後も第二章「水の蛇・金の龍」編を頑張って投稿していく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。
※現在、並行して1話目から編集し、書き直したりもしています。
気になる方はそちらもお読みいただけると嬉しく思います!
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