学年総代決定戦3日目⑲~爆発の余韻~
「あちゃあ……やっぱり爆発しちゃったか」
「い組」拠点の空から、金属球(と水球)の在った場所を見下ろす。
残っているのは蒸発によって生じた霧のみ。
二つの球体は影も形もない。
竜を捕らえた巨大水球は、ただの水ではない。
らんちゃんの制御した水だ。
それを丸ごと吹き飛ばしたとなると、その威力は計り知れない。
「これはらんちゃん……死んじゃったかな……」
地上に降り立って、手を合わせる。
らんちゃん。
恨みや憎しみを残さず成仏して――
「生きてますわよ!」
大量の霧。
その中から澄み渡るツッコミと、現れる崩れかけた氷。
「え……どうして生きてるの?」
至近距離であの威力をどうやって……?
そんな僕の疑問を彼女は一言、
「水のおかげですの」
その言葉と共に、白く細長い指先が霧の中で見える。
それは崩れかけた氷を愛しそうに撫でると、その氷はすぐに水へと変わり、消えた。
「もしかして……水球の水を防御に?」
生死の重なる境界線。
その刹那の場において彼女は――正答を掴み取ったのだ。
「正確には、私の近くにあった水と金属球の周囲に在った水を……ですわ」
霧が晴れる。
巨大な青い薙刀――精霊繋装「刎頸之交」の持つ青の輝きは絶えず。
持ち主であるらんちゃんの髪と眼も、同様に輝いている。
「金属球の周囲を上部を除いて凍らせて、衝撃を逃がしましたの」
放射状に爆風と衝撃波が広がることを見越して、上部を開放したのだ。
その結果、破壊は上部へと抜けて空に。
散弾のように弾き飛ばされた金属片は、自身の水で防御したと。
咄嗟の判断力。
これができるからこその「い組」委員長。
凄まじい力量だけど……ドン引きである。
「お兄様? 引くのはおかしいのでは?」
「い、いや? 引いてないよー」
といった気の置けないやり取りをしているなかで――
「「っ⁉」」
黄金の輝きが場を満たす。
「『翼理』!」
「ちっ! 防がれたか!」
金属同士が衝突する甲高い音。
衝突したのは精霊繋装「比翼連理」が片割れにして、僕の打刀「翼理」と、黄金の西洋籠手。
腕から指先まで覆う黄金は、打刀の上から僕を打撃する。
そこには――
「やられたぞ……お前たち」
玉桜たつや。
彼が僕へと拳を突き出している。
……集団戦は私たちの負けだな。
竜は私たちにとって、最初にして最強の切り札。
それを崩された段階で私たちの敗北は必至だ。
足掻くために金属球を爆発させたとはいえ――
目前には私の拳を受ける黒白委員長。
その隣には、朽縄委員長。
私たちを捕らえた朽縄委員長は、金属球の爆発により、多少のダメージは与えられたものの健在。
竜尾との戦いを経た黒白委員長も、疲労は見られども健在。
……二人とも、致命傷を与えたつもりだったのだが。
両名共に機転と判断力によって、生き延びた。
それに比べると――
「ろ組」はほぼ全滅。
私と――
「げほげほ! 死ぬかと思ったあぁぁぁぁ」
ばしゃりと湖から上がる影。
私の補佐こと、大地すいかの二人が残るのみだ。
それに対して敵戦力は未だに膨大。
……おそらく役員クラスは皆生き延びているだろうな。
我らが「P.G.D」の前に折れずに粘った結果が、これか。
「認めよう、黒白委員長!
クラス戦は私たちの負けだ。
だが――総代決定戦の結果はまだわからんぞ!」
私の両の拳を、黒白委員長は精霊繋装の刃で受け続ける。
黒髪黒目。
黙っていれば、そこそこの美少年と思われる容貌。
その少年は今、火の精霊繋装によって紅蓮に彩られている。
「そうだね玉桜君!
まだ、僕らは誰も負けてない。
勝負は最後まで分からない!」
籠手を通じて伝わる熱。
この熱量だけで既に――
「でも……僕たちは君たちに勝つよ!
勝って、僕はまた王に近づいてみせる!」
高い業務目標――それを叶えかねないという期待を抱かせる。
「富貴栄華を極める気だな?
だが、そうであるなら――」
ぐっと拳に力を籠める。
輝きだす土の精霊たち。
目前の紅蓮の炎に対するには、同じ熱量を見せるしかない。
「私たちを超えていけ。
儲けるぞ! 『天涯比隣』!」
土の精霊繋装「天涯比隣」。
その解放を持って――奴らの最後の壁として立ち塞がろう。
――目覚めるのは更なる精霊繋装。
第二部も佳境ですが、最期まで楽しんでいただけたら嬉しいです!
※現在、隔日で更新中です。
本作『勘違い召使いの王道~いずれかえる五色遣い~』をお読みいただき、誠にありがとうございます!
今後も第二章「水の蛇・金の龍」編を頑張って投稿していく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。
※現在、並行して1話目から編集し、書き直したりもしています。
気になる方はそちらもお読みいただけると嬉しく思います!
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