学年総代決定戦3日目⑱~桃金竜からの桃金球~
「凄まじい質量ですわね……」
竜の名に恥じない巨躯と重量。
身じろぎだけで、水球全体が震える。
でも――
……それでも捕らえましたわ。
巨大水球の中心。
そこから竜は動けない。
桃金竜といったか。
その四肢――五肢は桃色に輝く金に覆われ、神々しく輝いているらしい。
まあ……私には見えませんけども。
故に感じられるのは質量や温度。
竜の表面の冷たさに対して中は温かく、各所に「ろ組」生が配置されているのがよくわかる。
お兄様と火光さんのやり取りを聞いていたとはいえ、実際に確認すると壮観だ。
この人員配置と、各々の操士の腕前があるからこその――
……巨躯にあるまじき精密動作ですのね。
しかし――
「つむじさん、流石のお仕事でしたわ」
竜の全身拘束により、抵抗できない状態で竜を水に入れることができた。
この状況になってしまえば、もうこちらのものだ。
先程までの火光さんやつむじさんとの攻防が嘘のように遅い。
「鋭い爪牙や逞しい竜尾が、泣いていますわね」
水中稼働に向いていない構造に、巨体故の水の抵抗の大きさ。
竜がこの水から逃れるのは、難しいはずだ。
「これで――」
「らんちゃん!」
私の言葉を遮る男の子の声。
「は組」委員長――黒白きょうえいだ。
いつもの呑気そうな声色は鳴りを潜め、必死さがにじみ出ている。
「息吹が来るよ!」
……私の身を案じてくれたのですわね。
ありがたい話だ。
でも――
「問題ありませんの!」
竜は水中で口を開ける。
それは自身の最大にして最強の武器――息吹を使うために。
しかしそれは……この場においては悪手だ。
「水よ! あの竜を浸しなさい」
水は隙間さえあれば、どこからでも入ることができる。
大口を開けた竜なんて、格好の餌食だ。
竜の口から、水が侵入していく。
その水たちは、竜を仕留めるまで止まらない。
口内を浸すと、すぐに喉へと流れ込む。
このまま胴体に行ってしまえば――
「『ろ組』は全滅ですわ!」
良くて戦闘不能。悪ければ溺死だろう。
竜の体内を侵食する水。
しかしその動きが急に止まる。
「何が起きましたの?」
イメージとしてはシャッターが下ろされた感覚。
進行先を閉じられた感覚だ。
「対処してきましたのね」
喉から上を金属を用いて隔離したのだろう。
これで水が侵食することはできない。
しかしこれで、
「息吹は封じましたわ!」
内部の水の侵攻は防がれたが、それは竜の喉を塞いだようなもの。
顎から放たれる息吹はもう撃てない。
「っ⁉」
しかしここで水球内に動きがある。
五肢でもがいていた竜が動きを止め、代わりに竜が竜でなくなっていく。
「球体……ですの?」
偉大なる西洋竜から――ただの球体へ。
竜の五肢が波打ったかと思うと、水球と似たような球体へと変化を遂げる。
「やられましたわ」
竜の体内に仕込んだ水は、形状の変化の際に吐き出され、再び水球内は水と竜――金属球に分かたれる。
宙に浮く水球と比較して、金属球の大きさは一回り以上小さい。
しかし――
「何を考えているのか読めませんの」
先程とは打って変わって、何をするのかわからない怖さがある。
「お兄様!」
「はい、何?」
「竜が復活する可能性はありますの?」
あの球体から、再び竜へと戻る可能性。
もちろん、戻ったところでどうということはないけど――
「大丈夫。その可能性はないかな!
竜を再形成するにも大量の精霊は必要だし、しんかがかなり損傷を与えてたから」
可能性はない。
「何か含みがありません?」
こんな言い方をお兄様がする時は要注意だ。
被害を被る可能性が大きいから。
「お兄様。何かあるなら早く教えてください。
今、真面目な状況なんですの……お兄様とは違って」
ついでに邪魔もしないで欲しい。
「僕、常に真面目なんだけど⁉」
何を空言を。
「と、とりあえず。らんちゃん……気付いてる?」
「気付く? 何にですの?」
金属球になったことは既に話題に出ているし――何のことか分からない。
「うーん……金属球の中身どうなってる?」
「どうって――」
金属の外殻は水に触れているため冷たいが、中心付近は相変わらず温かい。
むしろ――先程よりも熱くなっているように感じる。
「さっきよりも熱いってことくらいしか――」
「ああ! やっぱり?」
やっぱり?
不穏当な言葉だ。
「遠目から見てるだけだから、断言はできないんだけど――」
「責任逃れはいいですから、端的に教えますの」
何ですの? 勿体ぶって。
じれったい様子の私に、お兄様は続ける。
「じゃあ――それ、爆発するよ?」
「え?」
改めて水球内の元竜――金属球を視る。
竜の時よりもさっき。
さっきよりも今。
金属球の内部温度が着々と上がっている。
「って、そういうことは早く言いなさいなあぁぁぁぁぁ!」
急激な温度上昇と内部からの圧力上昇。
金属球内部で生じたその変化は――
ガキ
不吉な音を水中に響かせる。
ひびだ。
金属球がひび割れた音だ。
直後に金属球は留められた力を吐き出すために――破裂したのであった。
――急に爆発する桃金の球。
本作『勘違い召使いの王道~いずれかえる五色遣い~』をお読みいただき、誠にありがとうございます!
今後も第二章「水の蛇・金の龍」編を頑張って投稿していく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。
※現在、並行して1話目から編集し、書き直したりもしています。
気になる方はそちらもお読みいただけると嬉しく思います!
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