学年総代決定戦3日目⑨~桃金竜からの水弾裏側~
間に合わないか⁉
宙を踏み、空を駆ける。
口の中は血潮の味。
桃金の竜尾による一撃。
他の追随を許さない、圧倒的質量。
制服型戦闘服は所々破れ――全身が軋み、視界は揺れる。
ああ……吐き気がする。
家が恋しい。
可能なら風呂に入って、ゆっくりベットに入りたい。
でもそれも――
この学年総代決定戦に勝ってからだ!
瞬間の妄想を振り払う。
立ち止まるわけにはいかない。
相棒に危機が迫っていた。
鋭い切先。
月光に輝く桃金。
竜爪だ。
竜爪がしんかの右方より迫る。
甲より当たる薙ぎ払い。
大質量体の一撃。
その一撃は、紅蓮の少女を容易く引き裂くだろう。
しんかの反応が鈍いのは、水の一撃を背後から受けたからか。
身を飛ばす。
弾く。
音が背後へと過ぎていき、周囲に衝撃波をまき散らす。
けれどそれでも――間に合わない。
精霊繋装の片割れたる「翼理」
……それを持っていても足りないのか⁉
距離の開き。
竜尾の一撃で跳ね飛ばされた距離が、余計だ。
何か……何かないか⁉
しんかを救うための手立ては!
僕の焦燥なのか、それとも――しんかの焦燥なのか。
或いは両方か。
「比連」と「翼理」による共有効果。
それによってしんかの現況が手に取るようにわかってしまう。
精霊繋装「比翼連理」。
一振りの大剣にして、二本の打刀。
二刀一対にして、一剣。
その真髄たる共有と相乗。
共に歩む者たちを繋げる比翼の翼にして、連理の枝。
その作用による思考共有だ。
「……共有?」
浮上する問。
共有はなぜ起こっている?
思考や意志のみならず、五感や――精霊すら共有する能力。
それはなぜ――否。
原理は今、必要ない。
今、この状況において肝要なのは――
何を介して共有は行われている?
「もしかして⁉」
雷に打たれるような気付き。
逆なんじゃないか?
精霊すら共有するのではなく――精霊を共有するからこそ、担い手同士の共有が可能となっているのではないか?
精霊繋装。
精霊で繋がる装備。
すなわち――
「比翼連理」の共有能力は「比翼連理」を媒介とした火の精霊の共有による副産物なのではないか?
そして火の精霊を「比連」と「翼理」での共有が可能ということは――
火の精霊でなくとも、共有が可能なのではないか?
僕の気付きに「翼理」は応えない。
可否の反応は返らず、ただ沈黙を返すのみ。
それならやってみるだけだ!
試したことすらない。
でも!
彼女が――しんかがやられるくらいなら!
加速用の爆風は送らない。
それでは水の一撃に影響される可能性がある。
想像するのは足場。
流星の如く宙を駆けるしんか。
彼女を支えるための足場。
紅蓮の少女が飛び立つための大地だ。
土属の精霊による金属生成。
しんかを支え……助けて欲しい。
「お願いだ! 『翼理』!」
僕の想いに「翼理」が遂に応え、輝きが夜を照らす。
火の精霊の赤ではない。
「翼理」自身の輝き。
全ての光の重なる、秀麗たる白光。
その輝きが――奇跡を起こす。
「届け! 届け! 届けえぇぇぇぇぇ!」
土の精霊が彼女の元へと届く。
僕の理想通りの金属板。
彼女の支えとなる足元へ。
「ありがとう……『翼理』」
返事はない。
でも――僕と刀もまた一つ。
故に想いも一つだ。
後は――
「しんかあぁぁぁぁ! 踏んでえぇぇぇぇ!」
僕の想いと叫びに――
もう一組の精霊繋装とその担い手は、見事に応えた。
――主人公は尾の一撃でボロボロです。
本作『勘違い召使いの王道~いずれかえる五色遣い~』をお読みいただき、誠にありがとうございます!
今後も第二章「水の蛇・金の龍」編を頑張って投稿していく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。
※現在、並行して1話目から編集し、書き直したりもしています。
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