学年総代決定戦3日目⑧~桃金竜からの水弾?~
「「「逝ったあぁぁぁぁぁ!」」」
「もうトマト食えねえよ」
「まさか本当に死ぬなんて。黒白、地獄で幸せにな……」
「惜しくない人を亡くしたな……」
「骨は可能な限り拾って、湖に捨ててやるか」
精霊通信が騒がしい中、私は息を呑む。
「どうして」
巨大な尾による薙ぎ払い。
木々を倒しながら振るわれたそれを――
きょうえいは確かに躱したはずだ。
「どうして当たったの?」
きょうえいの判断ミス?
いや――それはあり得ない。
「比連」を通じて私も見ていたからだ。
尾の打撃に対して、角度・タイミングともに理想の回避跳躍。
そこで付いた角度によって、きょうえいは瀬戸際で尾を躱し――竜への一撃へと繋げる心算だったはずだ。
それを防がれた原因は――
「尾?」
竜の尾が奇妙な折れ方をしていた。
桃金を纏いながらも、生物の質感を残した尾。
その先端が、直角上向きに折れ曲がっている。
通常の生物であれば骨折したとしか思えない角度。
それもおそらく――
「狙って曲げた」
きょうえいの回避行動――それに合わせて折れた。
その結果としての打撃。
これは――
「すごい制御能力」
巨体の全体制御。
それだけでも至難。
しかしそれどころか――
きょうえいへと照準を合わせた部分制御。
もしこれが玉桜君の腕前なのだとすると、私たちでも及ばないかもしれない。
だけど――そんなことができるもの?
「誰が死んだだあぁぁぁぁぁ! 生きてるよ!」
「「「うわあぁぁぁぁ! 出たあぁぁぁぁぁ⁉」」」
精霊通信に彼の生存と、それに慄く皆の声が響く。
よかった。
彼の無事に胸をなでおろす。
「きょうえい……次は私。
隙を作るから、後詰をよろしく」
「「「火光さん、大丈夫?」」」
「俺が行こうか?」
「雑魚は引っ込んでて。私が行くよ?」
「いやいやいや、ここは最強の俺が」
「皆……ありがとう」
「僕と扱い違いすぎない⁉」
「「「気のせい、気のせい」」」
「ふふ……じゃあ、行ってくる」
笑みがこぼれる。
「「「行ってらっしゃい!」」」
聞くや否やの加速。
竜はきょうえいへと尾を振り切った体勢のまま、動きはない。
尾の精密機動を考えると――
「正面からならどう?」
息吹はない。
その独断にて正面より切り込む。
「っ⁉」
私の迎撃に出るのは――竜の腕。
一見して、圧倒的な質量。
五指の先についている鋭い爪は、月に輝く桃金。
あらゆるものを引き裂く死の鎌。
でも――
きょうえいが挑んで、挑まない理由はない。
「はっ!」
右腕による薙ぎを一息の跳躍にて躱――
「っ⁉」
右腕の薙ぎと同時に左腕の突き⁉
胴を捉える突きの軌道。
それに対して「比連」を逆手に持ち替え、刃を下方へと向ける。
右手は刀の棟に。
刃のみで受けて、力負けしないようにだ。
構える位置はちょうど爪の先端が「比連」へと当たる位置。
死と隣り合わせの緊張感。
失敗は許されない。
タイミングを計る。
爪が「比連」へと当たった瞬間に――
「今!」
くいっと柄を持った左手首を捻る。
それによって爪の軌道が、胴の正中線より右に逸れる。
「よし!」
瞬時の姿勢制御。
爪の左側に身体を滑り込ませるように、自身の身体を90度回転させる。
私のお腹を掠める先槍。
両腕の内に入ってしまえば後は首――
注意すべきは牙!
身に加速を入れようとしたところで――
背後からの衝撃⁉
「……水?」
水弾だ。
背中を水弾で撃たれたのだ。
「一体――」
誰が?
損傷はない。
しかし、加速の火の精霊は打ち消される。
「まずい」
一瞬の停滞。
しかしそれが戦場では命取りになる。
躱した竜の右腕が、振り切った反対方向から迫る。
逆方向からの甲による薙ぎ払い。
だめだ――これは躱せない!
桃金の爪に死を覚悟した時に――
「しんかあぁぁぁぁ! 踏んでえぇぇぇぇ!」
きょうえいの声!
瞬時に身体が反応し、踏み場のないはずの空中で一歩。
「足場⁉」
足裏に固い感触。
金属板だ。
それが私の足裏に在った。
誰の仕業かは――言うまでもない。
「行ける!」
金属板を踏むことによる跳躍!
右腕が私を掠めつつも――抜けた!
誰もいない空間を通過する金の爪。
「危なかった……助かった
きょうえい、ありがとう」
「いえいえ、どういたしまして!」
精霊通信にて応える声。
竜へと挑むもう一筋の赤光が、こちらへと戻ってきていた。
――トマトは苦手です。
味ではなく触感が。
本作『勘違い召使いの王道~いずれかえる五色遣い~』をお読みいただき、誠にありがとうございます!
今後も第二章「水の蛇・金の龍」編を頑張って投稿していく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。
※現在、並行して1話目から編集し、書き直したりもしています。
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