学年総代決定戦3日目⑦~桃金竜の五肢目~
月夜にて輝く桃金の竜と、竜の顎より放たれた黄金の息吹。
時間の経過に伴い、直線軌道の息吹の光は薄れ消えていく。
しかし、その軌跡にて輝き続ける光源が存在した。
紅に輝く少年だ。
精霊繋装「比翼連理」が片割れ「翼理」が一段と大きく輝く。
それは生の喜び。
九死に一生を得た歓喜を表現しているかのようだ。
「よしよしよしよし……」
無数の黄金に幾度となく死を覚悟し、切り抜け――黒白きょうえいは今ここに生きている。
時はきた。
復讐の時だ。
あの竜を滅ぼし――
その後は「は組」だ!
特に「は組」の方は念入りにやってやる。
味方殺し? 知ったことか!
僕を死地に追いやった「は組」に地獄を――
「きょうえい……生きてる?」
控えめな声が精霊通信から流れる。
僕の安否を確認する少女。
唯一、僕と同じ立場で囮を務めていたしんかだ。
「うん、何とかね。
何回か本気で死ぬかと――」
「ちっ! 生きてたか……」
「死んどけよそこはさあ……」
「しつこい奴は嫌われるぜ。全く……」
よし。全員死刑だ。
生きていることを後悔させてやる。
……もう「は組」は僕としんかを含めた女子だけでいいんじゃないかな。
「はい、きょうえいが生き残ってたから私の勝ちねー」
「また海風さんの勝ちかよ⁉」
「納得いかねえぇぇぇぇ!」
尚――つむじは除く。
「それにしても――」
遠くに来たなあ。
息吹の中取った咄嗟の回避行動。
それが図らずも竜の巨体と距離を取る形になっている。
空いた距離。
これは――
「チャンスだね」
「きょうえい?」
僕の呟きを、しんかは聞いていたらしい。
息吹を何とか躱せたとはいえ、次も躱せる保証はない。
ならば僕の取る選択肢は――
「しんか、今から僕は竜に突っ込む。
だから、竜の挙動を観察して随時報告して欲しい」
「……一人で大丈夫? 私も――」
「大丈夫だよ。それに――」
作り物とはいえ敵は竜。
相手にとって不足なし。
僕自身の試金石としてうってつけの相手だ。
「……それに?」
「ううん、何でもないよ。後、僕の死を祈ってた『は組』は――
土浦先生の園芸部の手伝いを奉仕活動でさせるから」
「「「嫌だあぁぁぁぁぁ!」」」
「は組」の断末魔を聞きながら、竜へと視線を向ける。
山にて佇む巨躯。
息吹以外の遠距離攻撃はないのか。
「行こう『翼理』!
僕に力を貸せ!」
莫大な火の精霊が解放される。
紅い花が一瞬夜に咲き、ある一点へと収束する。
竜は息吹を使用し、躱された。
これは言葉以上の意味を持つ。
竜最大にして最強の切り札。
遠距離のこれ以上ない攻撃を防がれた今――
竜はもう軽々に息吹を使えない。
よって僕の移動は大胆になる。
制御に焦点を置いた小規模加速ではなく――
速度と距離を求める大規模加速。
「行くぞおぉぉぉぉ!」
巨大な竜。
それに向かうための助走。
想像するのはしんか。
精霊繋装「比翼連理」の所持者にして、紅蓮の少女。
彼女の流星。
加速の力強さ。
美しく伸びる火の精霊。
尾の長い赤光だ。
「できる!」
踏む。
空全体を叩くような轟音と共に飛び出す。
加速、加速、加速!
速度は落とさない!
一瞬の瞬きと爆風。
僕の踏む一歩が木々を揺らす。
空いた距離こそが肝。
ぽっかりと空いたこの空間全てが――僕の味方だ!
「まだだ……まだ足りない」
速度の高まり。
空間への加速の刻み。
それはある一点から――音を置き去りにする。
「今!」
自身の言葉を背に、竜への舵を切る。
今の僕の限界速度。
衝撃波すら伴う僕の最高速だ!
「っ⁉」
僕の挙動の変化に気付いたか――竜は動きを見せる。
くるりと僕に背を向ける動き。
小さい子どもが振り向くような、ゆったりとした動きだ。
しかし――そんな可愛らしいもののはずがない。
一歩一歩に山は崩れ、地は揺れる。
竜の回転に遅れて木々が、なぎ倒されていく。
息吹ではない。
回転することで竜がこちらに背を向けるなら、必定、顎は見えなくなる。
「きょうえい――」
息吹とは異なる、巨大質量体による一撃。
長い間合い。
四肢では届かぬ距離。
故の長い獲物。
僕へと迫るのはすなわち――
「尾が来る」
桃金の尾には、しかし――金属とは思えないしなりが加わる。
挙動が遅く見えるのは、その巨体が故か。
「ぎゃあぁぁぁぁ! 竜のしっぽがあぁぁぁあぁ!」
「やばいやばい死ぬ死ぬ死ぬうぅぅぅ!」
「お母さん……私……よく頑張ったよね」
精霊通信は混精し、もはや誰が誰だかわからない。
「ざまあみろ! 皆潰されてしまえ!」
「「「お前最低だよ!」」」
質量と規模。
どちらにおいても勝るものなしの薙ぎ払いである。
「でも――見えてるよ!」
これも巨体故の失策。
竜の挙動が遠目からよく見える以上、尾の軌道もまた読みやすい。
僕に向けて真横から叩きつける一撃。
左右は不可避。
尾の薙ぎ払う面積が広過ぎる。
「それなら!」
回避は上下。
地を這う横薙ぎならば――
「上だあぁぁぁぁぁ!」
竜へと向かう加速に、ほんの少しだけ上向きの角度をつける。
これで十全。
後は竜に攻撃を加えるのみ!
かくして僕は――
「がっ⁉」
何で⁉ どうして⁉
尾の一撃を受け、吹き飛ばされた。
――「は組」への恨みは忘れない主人公。
躱したと思った一撃に何故当たったのでしょうか。
本作『勘違い召使いの王道~いずれかえる五色遣い~』をお読みいただき、誠にありがとうございます!
今後も第二章「水の蛇・金の龍」編を頑張って投稿していく予定ですので、引き続きお読みいただけると嬉しいです。
※現在、並行して1話目から編集し、書き直したりもしています。
気になる方はそちらもお読みいただけると嬉しく思います!
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