学年総代決定戦2日目⑧~つむじの逆鱗~
「やっぱり上手いね、らんちゃん!」
「ありがとうございますの!」
私の拳が逸らされる。
見えていないはずの彼女はしかし、防御を過つことがない。
私の拳の進行方向を把握し、的確に受け流す。
「ムカつくムカつくムカつく!」
「な、何がですの⁉ 私の可憐な防御⁉」
何が腹立つかというと――彼女の位置が全く動いていないことだ。
私は結局らんちゃんを中心に動かされている。
「この野郎おぉぉぉぉ!」
「私、男の子じゃありませんの!」
私の渾身の一撃は勢いそのままに――空中へと投げ飛ばされる。
私の勢いを活かした見事な投げ技。
相手の力を利用する彼女の真骨頂だ。
「らんちゃん……それは卑怯だよ……」
「どこがですの⁉」
空中でくるりと静止する私をらんちゃんは見上げている。
口調はツッコんでいるものの動揺はない。
余裕があるからこその投げ技の冴えだ。
その証拠に彼女の瞼は未だ閉じている。
地面に降り立って再び向かい合う。
「絶対たたき起こす!」
「私、もう起きてますのよ?」
「ふっ!」
「っ!」
私の一撃から投げ技へと繋げるらんちゃんへの対策。
それは彼女の反応が間に合わないくらいの速度!
「はああぁぁぁぁ!」
「くっ⁉」
ギアを変える。
私自身を作り変えるイメージ。
空気中にたゆたっていた風の精霊を私に集める。
膨大な彼らは私を移動させるための推進力だ。
仮に投げられたとて構わない。
私がこれからするのは――
風の精霊を纏って、らんちゃんへと突っ込み続けるだけの力技だ。
「くっ!」
「一撃じゃ終わらないよ!」
らんちゃんを中心として、あらゆる角度から襲い掛かる。
精霊を纏っていない時の速力とは最早別物。
何度受け流され、投げられても関係ない。
ただそれだけなら私にダメージはないのだから。
らんちゃんの表情は辛そうだ。
それはそうだろう。
こちらの攻撃は受け方を一手間違えれば、彼女を一撃で仕留められる威力を秘めている。
その重圧の中でまだ的確に対処できているらんちゃんの技量は凄まじい。
追いつめられていても、らんちゃんはしぶとい。
私の攻撃を受け流し続ける。
否。もはや受け流すことしかできない。
投げ技を失敗した場合のリスク。
それはらんちゃん――ひいては「い組」の敗因になり得る。
「……やっぱり私の方が速いんだね?」
「もっと私を労わる気持ちはありませんの?」
先程までの余裕はもう彼女にはない。
今が畳みかけるときだ!
「そんな闘志満々でよく言うよ!」
「つむじさんこそですの!」
それでも未だ当たらない。
私の攻撃は神業のごとく、寸前で躱し、いなし、逸らされる。
「そんなにガードが堅いとモテないよ?」
「私は淑女。貞淑なんですの。つむじさんみたいに軽い女と違――」
「誰が軽い女だあぁぁぁぁ!」
「つむじさん⁉ 話し合いましょう⁉」
既に暴力による争いの只中なのに……。
話し合いなんてできるわけもないし、する気もない。
というか軽い女と言われて、どうしてここから話し合いに持っていけると思うのか。
さすがらんちゃん。
きょうえいの従妹なだけある。
正気を疑う。
「大丈夫だよらんちゃん!」
「良かった、まだ理性はありましたのね⁉」
「殴りながらでも話し合いはできるよ!」
「やっぱりこの人もお兄様の幼馴染ですわ!」
「それはらんちゃんもでしょうが!」
私の怒りに呼応するように、風の精霊は荒れ狂う。
精霊達が集まれば集まる程、私に力を与えてくれるのだ。
「私を軽んじたことを後悔してね!」
「私よりは軽いですわ!」
「絶対許さないからね!」
私たちの罵り合いは続く。
――つむじさんは軽やかな人です。
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