学年総代決定戦1日目⑦~一応意味はあった~
「さて、『い組』への挨拶の話はこのくらいにしておいて」
「そんな簡単に置いとける問題じゃないんだが」
「このくらいにしておいて!」
「一本木君! 黒白君の話が進まないから!」
「お、おう……すまん」
兼平君の空気を読む能力は流石だ。
一本木君も「ほ組」委員長として見習ってほしい。
「今後『い組』は『は組』か『ほ組』に攻め込んでくるだろうから――」
「……」
一本木君が何かを我慢しているのが伝わってくる。
安心して欲しい。
ちゃんと僕だって考えているのだ。
「山を利用してやり過ごしてね!」
「それだけか⁉」
「え? できないの?」
「まあ……できないことはない……か?」
共同戦線を張る前から一本木君の木の精霊の適性の高さは知っていた。
でも一緒に訓練するようになって、彼を見くびっていたことに気付いたのだ。
彼ならおそらく山というフィールドかつ攻めることさえしなければ、「い組」が相手でも数日間はもつだろう。
懸念点としては――
「朽縄さんが出てきたら自信はないぞ?」
それだ。
らんちゃんが出てきてしまうと話は変わる。
彼女はしんかや玉桜君、つむじと同格と考えていい。
彼女単体で1クラス丸ごと相手取っても勝ってしまう実力を持っている。
でも――
「少なくとも今日は出てこないと思うよ!」
「どうしてそう言い切れる」
「色々と理由はあるけど――」
らんちゃんは盲目だ。
代わりに聴覚や嗅覚、触覚によって補うことで学院では普通に生活が送れている。
だが今回の様に初めての環境下では行動しにくい。
もしらんちゃんが攻め込むとすれば、拠点と決めた場所を中心に少しずつらんちゃん自身の行動範囲を広げていく形になるだろう。
そうなると今日中に「ほ組」の拠点である山に自身で攻め込む可能性はほぼない。
どれだけ早くとも明日の昼くらいまでは大丈夫なはずだ。
「なるほどな」
「それに僕たちの挨拶で水の精霊を結構使っただろうしね」
湖の水も減らしておいたし、らんちゃんの力をある程度削いでおいたから、今日はひょっとすると回復に充てるかもしれない。
「まあそれでもらんちゃんが出てこないってだけで、『い組』は個人個人が強いからね!」
「朽縄さんが出てこないだけましってだけか……」
そう。
らんちゃんが出てこなくても手強いことに変わりない。
「うん……だから『い組』とは山を利用して正面から戦わないで欲しいんだ」
木属性の精霊によって存在している植物に働きかけ、可能な限り彼らを分断する。
別に「い組」生を撃破しなくてもいいのだ。
「ほ組」の戦力を温存する。
その上で「い組」を削ることができれば上出来だと言える。
「そういうの苦手なんだけどな……」
「勝つためだからそこは我慢して欲しい」
一本木君の気質的には正面から戦いたいはずだ。
けれどこれは一回こっきりの総代決定戦。
負けるわけにはいかない戦いだ。
個人の感情は抜きにしてもらいたい。
「一本木君は割と繊細だし、きっとできるよ!」
「そ、そうか……」
兼平君におだてられて満更でもないようだ。
ちょろい男である。
「それで僕たちが挨拶している間に、『ろ組』の生徒は見つけられた?」
「いや……山にはいなかったな」
「平地の方もいなかったよ!」
玉桜君どころか『ろ組』の生徒すらいなかったとなると――
「潜伏中?」
しんかが言うように、潜伏している可能性は高い。
「問題はどこにいるかだよね」
1クラス25人という条件は同じ。
その人数が隠れるとなると結構な空間が必要なはずだけど……。
「湖の中はいなかった」
「いなかったねえ」
「あの嫌がらせって『ろ組』の拠点確認の意味もあったんだ……」
「俺への嫌がらせだけじゃなかったのか……」
二人とも僕らのことをただのカッコイイ仮面ヒーローコンビとしか思っていなかったらしい。
見くびって貰っては困る。
木属性の一本木君が山。
四属性に適性がある兼平君が平地。
僕らが湖。
これで見つからないとなると、「ろ組」の面々がどこにいるかちょっと見当がつかない。
「とりあえず今日はそのまま『ろ組』の捜索を続けるってことでいいかな?」
「「「了解」」」
こうして僕らの捜索は続く。
「こちら黒白! 異常なし。そのまま捜索続けるよー」
「さくさく」
「了解! 『に組』もそのまま続けるね!」
「おい! 滅茶苦茶『い組』が攻めて来てるんだが⁉」
「え⁉ 一本木君、大丈夫⁉」
「おお……兼平さんありがとう。俺は大丈――」
「「がんばー」」
「このバカ仮面コンビがあぁぁぁぁぁ!」
結局初日「い組」は「ほ組」に攻め込み、一本木君はそれをどうにか躱し続け――「ろ組」は見つからなかった。
―― 一本木君の健闘を祈りたいです。
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