緊張と弁当の味
どうにか午前中の授業を命からがら切り抜けられた。
満身創痍で体中が痛い。
どうしてクラスメイトの女の子と関わりがあるだけで死にかけなければならないのか。
絶対に奴らの幸せも邪魔してやる!
新たな決意はともかく。
今はもう昼休みだ。
これから火光さんにお弁当を渡すことになる。
ひょっとすると、彼女と一緒にお昼ご飯も食べられるかもしれない。
期待に胸を膨らませて校舎裏へと向かおうとすると――呼び止められる。
「よう、黒白。どこに行くんだ? よかったら一緒に飯でも食べないか?」
「ああ……風山君」
そこには僕と同じく、くたびれた様子の風山君が辛そうに立っている。
彼の周囲の木や土の精霊たちが心配するかのように彼へと寄り添っている。
精霊たちの回復効果は素晴らしい。
僕たちは彼らにもっと感謝して学校生活を送らなければならないのかもしれない。
「いや、ちょっとした用事だよ」
「用事? 何――」
「ちょっとしたやつだから気にしなくていいよ!」
会話を打ち切って走り去る。
こんな会話で他の連中に勘繰られるわけにはいかない!
校舎裏には既に火光さんが待っていた。
声をかけようとして、何故か隠れてしまう。
段差に座る彼女は、どこか憂鬱そうな表情をしている気がする。
ひょっとすると、僕の手作り弁当の味を心配しているのかもしれない。
「こんな所で何してるの?」
「あ、つむじ……」
後ろからつむじもやって来た。
どうやら彼女は、購買に寄ってきたようだ。
その証拠に彼女の手には、購入したパンが握られている。
「火光さんを見てるんだよ」
「……変態なの?」
「違う! 断じて違う!」
敵を攻略するには、まず観察しないと!
「きょうえい。ひょっとして……緊張してる?」
「なな何で⁉」
さすがは幼馴染。僕の気持ちなんて掌の上のようだ。
弁当を渡すだけ。
それなのに――こんなにドキドキするとは思わなかった。
「ほら! 火光さんが可哀そうだから行くよ!」
「お、押さないでよ⁉」
幼馴染によって背中が力強く押され、物陰から追い出される。
もう腹をくくるしかない。
「か、火光さん!」
彼女は僕を見つけると、ほんの少しだけ表情が和らいだように見える。
「これ、僕が作った弁当です! どうぞ食べてください」
彼女にお弁当を差し出す。
くそっ! 鳴り止め、僕の鼓動!
彼女に動きはない。
やはり食べられるか怪しんでいるのだろうか。
不安に襲われる。
「大丈夫だよ、火光さん。 これ美味しいよ!」
そんな僕らの沈黙を断ったのは、やはりつむじだ。
そんな彼女の手には――
「どうして僕の分の弁当をつむじが持ってるの⁉」
さっき持ってたパンは⁉
つむじは既に火光さんの隣に移動して、僕の弁当を食べようとしている。
埋め合わせは後日するつもりだったのに!
「ほらほら! 食べなよ!」
「……はい」
僕に構わず弁当を火光さんへと渡すつむじ。
美少女二人の仲睦まじい姿は、目の保養になる光景だけど――僕の栄養はどうしよう……。
「仕方ないなあ。これ、あげるよ」
しくしくと悲しんでいるとつむじがパンを渡してくる。
一瞬つむじが女神に見えたけど、よく考えたらこいつのせいでお弁当を失ったのだから感謝の必要はない。
「食べてもいい?」
「もちろんだよ! これは火光さんのために作ってきたからね!」
「……ありがとう」
火光さんはつむじよりも良識があったみたいで、ちゃんと僕に食べていいか確認してくる。
幼馴染には彼女の爪の垢を煎じて飲んで欲しい。
火光さんが綺麗な箸使いで弁当を食べるのを、ドキドキしながら見守る。
「美味しい……」
「でしょでしょ!」
「良かった……」
二人(一人余計だけど)が美味しそうに食べる姿を見ていると、作った甲斐があった。
「裏切り者がいたぞ!」
幸せな時間を台無しにする鋭い声。
声色からして男子だ。
僕が女の子二人とお昼ご飯を一緒にするのを、どこかで聞きつけたのだろう。
さては……体育の時間に僕の息の根を止められなかったリベンジか⁉
「やれやれ……モテる男は辛いね……」
「え……?」
「黒白君はモテモテ?」
やめて⁉ 本気で引かないで!
つむじの驚愕の表情は本当に傷つくし、火光さんの純粋な疑問は悲しくなるよ⁉
そして僕がこうなってる責任は、君たちにもあるということを学んで欲しい。
この幸せな時間を続けたかったけど仕方ない。
明日もこの時間が過ごせるように。
僕は僕にできることをしよう。
「つむじ、火光さん、僕殺ってくるよ!」
今日で奴らを滅ぼして、理想の学校生活を始めてみせる!
「はあ……まあ、いいけど。ここは任せておいて」
「えっと頑張って?」
二人の応援を背に僕は歩みだす。
これからの僕の真っ当な生活のために。
……見てなよ、モテない男子ども! 今日が君たちの最期だ!
「それじゃあ、また放課後ね!」
そう言う黒白君が去って、校舎裏には私と海風さんの二人きり。
「どう? 美味しいでしょ?」
「うん……とっても」
彼女は我が事の様にお弁当を自慢していて可愛らしい。
誰かの手作り弁当を食べるのは久しぶりだ。
温かい家庭の味とでもいうのだろうか。
落ち着く。
「海風さんは、黒白君と仲がいい」
「そう言ってもらえると嬉しいね」
私の言葉に海風さんは微笑む。
「まあ――私はきょうえいのファンみたいなものかな!」
「ファン?」
彼女は嬉しそうに続ける。
「きょうえいが小さいころから応援してるからね。私はきょうえいの1番のファンなんだよ」
「……どうして?」
彼女は私の問いには答えず聞き返す。
「きょうえいの夢は知ってる?」
「……王様になること」
「そうなんだけどね――」
黒白君の事を話す彼女の横顔は――
「王様になってやってみたいことをきょうえいに聞いてみて欲しい。
そうしたら私が応援したくなる気持ちがわかるかもね」
とても綺麗だ。
――昼食抜きは辛いですよね。
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