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うちの納屋には貴族が住んでいる  作者: 山田太郎
奇想天外
9/32

9毎月防衛線

「あれ、エリザは?」

その日、おれは海浜倉庫の机で商品チェックをしていた。茶を入れてくれたのがエルドの姉のアニタだったので尋ねたのだ。


しばらく言いにくそうにしつつアニタは口を開く。

「一昨日のモンパニ?で巻き込まれたらしくて・・・。」


もんぱにってなんだろう。怪我でもしたのかな・・・。一昨日はこっちに来なかった日だ。気になったおれは話を聞かせてもらった。


アニタによると東の森に魔素溜の洞窟があるという。冒険者はモンスターの監獄という意味でダンジョンと呼んでいる。そのダンジョンがオーバーフローし、モンスターが地上を徘徊し、街を見つけ攻めてくるのだという。


当初それをスタンピードと呼んでいたが、それは野生動物だ。ということでモンスターパレード、それは祭りだろ、モンスターパニックになったという。省略してモンパニである。


東から責められるため、東にある家々はとても危険なのだ。そしてその場所には貧民街、所謂スラムがあった。穿った見方をすればスラムを攻めさせている間に防衛準備ということか・・・。


そしてエリザの家族はスラムに家があった。丸1日経った今もエリザの家族は見つかっていない。そしてスラムと外の境界には壁はない。壁の中にいるのは貴族様達だけだ、おれはむかついた。


むかついてしまった。そしておれは尋ねた。




「アニタ一つ聞かせて欲しい。エリザの家族が生きている可能性は、どのくらいあるんだ?」


アニタは何も答えなかった。ぽろぽろと涙を流しはじめ、しばらくすると海浜倉庫から走り去った。




途方に暮れた。何するでもなく海浜倉庫から出ていく、腹いせに貴族のとこの城壁でも破壊してやるか。そんなことを思いつき西に歩みを進めた。ランス商会の店の前にエルドが立っていた。


エルドは声をかけるでもなく、おれに歩み寄り布を渡した。それを見るなり、おれは込み上げるものが耐えれそうになかった。踵を返し東に向かって走っていた。


スラムの壊された家々を見なかったことにして、草原まで駆けた。大切そうに畳まれた布を、エリザのエプロンを胸に押し付けて、おれは声を出して泣いていた。


一頻泣き、ダメだ、これはエリザのものだ。握りしめると皺になるじゃないか、戻った時、無くしてたら怒られる。エリザにポカポカされると痛いんだよな。大切にしまっておかないと。


そんなことを考えた時だった。時空収納の扉が開いたのは・・・。「な、なんじゃこりゃ!」大声が出て周りを見やった。なんどもエリザのエプロンを出し入れした。


ゲームの世界だこんなこともあるだろう。


そしておれは駆けた。草原から森へ向かって駆けた。何も考えてなかった、考えられなかった。そんな中、蠢くものがあった。ちっモンスターかよ。モンスターはすべてコロス。


おれは右手に槍を持ち、左手に片手剣を持っている。出会う敵はすべて斬る、突く。死んでいようが生きていようがどうでもいい。一太刀浴びせる、目には目をだろ、なあエリザ。


ホーンラビット、オークソルジャー、スパイダー、キラービー、あっちか、エリザ!クソ洞窟があんだろ。返り血も気にならない。槍で突き、剣で斬る。


突いて、突いて、突きまくる。


斬って、斬って、斬りまくる。


何度も、何度も、何度も繰り返した。


その場所には石の鳥居に似たものが数十あった。まるで誘いである。先にあるかまくらの形をしたものに入れば、地下への階段があるようだった。


階段を降りてみようか、だがやめた。そろそろ日暮れだ、今日のリベンジは終わりにしといてやる。




時空収納は闇魔法の一つかな、特にスキルは見つからなかった。槍も放り込むが・・・。


「あれ、今、無詠唱だったぞ」

驚きのあまり独り言が声に出ていた。わからないまま、おれは帰路についた。


死屍累々のモンスターの山が血と夕焼けで真っ赤に燃えている。動かない躯を一望し、返り血で赤黒い両手に目を落とす。おれの昂っていた感情は、ゆっくりと冷めていった。




ありがとう、エリザ。おかげで時空収納が手に入ったぞ。三太はまた泣いていた。エリザの顔が、何度も、何度も思い浮かぶんだ、仕方ないだろ。


ぼんやり見えるデスロードは、躓いて歩きにくく長かった。




そして「ステータスオープン」


種族 人間

レベル 50

HP 770

MP 95

STR 45

DEX 44

VIT 45

AGI 39

INT 45

MND 48

LUC 52


戦闘スキル 格闘1 短剣13 片手剣18 槍10 投擲10 ガード10 回避10 盾10 受け流し10

魔法スキル 火5 水6 土4 風8 光2 闇10 回復10 歌唱10 生活10 

その他スキル 毒耐性10 水耐性10 風耐性10 算術10 鑑定10 運搬10 錬金術10  



ちょうど50レベルか。


---




翌朝未明、貴族街と平民街を隔てる東門、そこには大人でも抱えきれない、大きくぶっとい石柱が突き刺さっていた。領兵の調査により、その石柱は東のダンジョン前に立つストーンゲイトだと判明する。


人は皆怖れた。神官によって祈祷も行った。石工は領兵に見守られ、修復した。


夜、目を瞑るとエリザの笑顔が、浮かぶんだ。仕方ないだろう、眠れなかったんだ。




その日より、先ずは東から防衛壁を築くのが吉であると囁かれ始めた。そうして、すべての街を囲うように防壁が出来た時、ダンジョンに潜む闇の王は怒りを鎮める。


人の口に戸は立てられない、その流言は、何度も何度も繰り返され領内を流布していった。


唄うならあげると言って吟遊詩人に歌詞カードとオルゴールを配りまくったよ。仕方ないだろう、無料で吟遊詩人が唄ってくれるんだ。




領主も重い腰を上げた。領内会議は貴族当主と主だったギルドの長が集って行われた。侃々諤々の議論がなされ、早朝から始まった会議は日が落ちても終わらず、結論は次回に持ち越された。


会議の翌日、反対派の貴族の邸宅におおきくぶっとい石柱が投げ込まれると、会議を待つこともなく、基礎工事が始まることとなった。


石柱にはこう書いて置いたんだ、『12本のうちの1本目』とね。仕方ないだろう、むかついたんだ。しかも今月のモンパニが来る前に、東の防衛壁の下地でもあれば、守れる命があるかもしれないじゃあないか。

(人生何が起きるかわからない。身近な不幸、それは法というボーダーをいとも簡単に超えるのかもしれない。)



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