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うちの納屋には貴族が住んでいる  作者: 山田太郎
奇想天外
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8見えない敵

「はあ、譲渡所得ですか」

「昨年の年収を計算して今年の住民税がかかりますからね。高山さんの場合、その予想する農業収入に不釣り合いな住民税を納める必要がありますよ」


「なるほど」

「あと金の売却額はきちんと控えておいて下さいね。正しく申告しないといけません、購入した店舗からすぐにわかります。住所、氏名にマイナンバーとか記載しましたでしょう?」


「確かに・・・。」

「そして高山さんの場合は農業所得が、赤字になる可能性があります。青色申告をしておけば30万円より少なければ、損金扱いですから、耕運機や管理機を設備投資してもいいでしょうね。」


「はあ・・・。」

「まあこれは節税面からのアドバイスですよ、金で利益を出しても農業で損をすれば通算した利益に対して税金がかかりますからね。


キャッシュフローの点を考えると100万円の設備投資、お金が出て行く場合。節税できるのは税率33%分すなわち33万円のみになります。言い直せば67万円の支出で100万円分の設備投資が出来た。と言うことになります。


これを損と考えるか、得だと思うかは高山さん次第ですね。よく考えて結論を出すべきでしょう。」

「むう、いろいろと大変なんですね」


「ですね・・・。あと先日の相続税のことですが、あのあたりの土地は全て調整区域でしたね。これは市街化が進まないように制限された場所ですから、一般の人が家を建てたいと言っても無理なんですよ。


そういうことで一般に流通しない土地は評価額が下がります。結果、保険金、預貯金、不動産を合わせても先日話した基礎控除額は超えませんでしたので申告書は提出しません。


ただ調査にかかった費用については後日請求させていただきますので、調査書を添付しておきます。」

「わかりました」


税理士事務所を出た三太は、すこし体調が悪くなった気がした。




そしてハローワークに行くと、40代のおばさんが怒っていた。


「あーたが高田さんね、先月何故来なかったの?勝手な事されると困るでしょ!こっちとしては先月予定してたの!あーたも社会人ならそれくらいわかるでしょ!?」


カチンと来てしまったおれは静かに言う。

「まずおれはね。高山という苗字です、高田ではない。それとね、名前のわからないおばさん、留守電にメッセージ残すなら名前を名乗らないとダメでしょ!


ハロワの名無しのおばさん宛に先月は前職の関連で東京に行っているので無理だと言付けしてますよ。あと・・・おばさんも社会人ならわかるでしょ?自分の名前名乗らないといけないことくらい。


それとね人としてダメな点は、相手の気分を害するところだね。こんなことだから公務員はダメだって言われるんだと思うよ。お勧めはねどこかのコールセンターでクレーム対応でもすればいいと思う。


おばさんの今後の人生もよりよくなるんじゃないかな?あとあなたの上司呼んでくれる?担当を変えるのと今日のすべてを報告しときたいから!」


失業保険も受け取る気が無いし、次の仕事も決まっている。何故呼ばれたのか不明だった。ただ言えることは、毎月雇用保険料というのが天引きされていた。毎月5000円前後だった気がするが、覚えてはいない。


ハローワークの一人のお客様から言えば、あのおばさんは直ちに首にしてもらいたい。あれは害悪にしかならない!3カ月に一度1000円ほど支払うだけの客に対して、マクドのお姉さんはあんなに愛想がいいのに・・・。




おれは税理士事務所とハローワークで気力を使い果たした。しかし次の目的先には10分ほどで着く。大分川を渡れば見えてきた。心はどんよりなのだが春の日差しは眩しかった。


日本年金機構であった。目的は年金受給者死亡届の提出である。なんだよそれ、同じ役所なんだから情報の共有化くらいしろよ。とも思ったが、あれだ年金は大きな粗相を犯し今や民間へ委託していた。


だがそれも間違っていた。この日本年金機構、カッコ書きで(民営ではない)と書いてある。非公務員型の特殊法人が正解らしいが、おれの頭の中では、これはグレーゾーンだと認識した。


結局、役所ではないとレッテルは貼っているが、入札談合事件(いまだにやってるんかい!もう21世紀だぞ)、10億円未払い隠匿事件、過払い、個人情報漏洩、中国にデータ流し、いろいろやってる。


うん、中身変わってないだろ?年金記録問題で国をひっくり返してのすったもんだがあり、「おれの年金どうなっているんだ!」とテレビで叫んでいた禿げたおじさんが脳裏に浮かんだ。


「反省だけなら猿でも出来る」というCMがあったが人というのは、猿よりも業の深い生き物のようだ。


日本年金機構よ!おれはおまえが必ず次の事件を起こすことを知っている!それでも国をあげて年金料を払えと言うのだ、おれは無実だ!幇助罪という言葉も知っている、だが無罪なのだ。およよー!


「高山君」

そんな一人芝居を続けていると、呼ばれてドキッとした。「またおばさんかよ!」そんなことを思ったが口にはしない。しかし、見覚えがあった。中学校あたりの同級生だったろうか・・・。


そうか彼女がおばさんに見えるってことは、おれも十分おじさんだと言うことだ。鏡を水平に置く、それを上から覗き見る。どうだ、怖いだろう。そこには10年後の自分があった。キャー!


「こっち」

そんな妄想の中、おばさんはダメなおじさんの手を引いて、面談室に入っていった。探りつつの世間話があり、仕事の愚痴。提出するべき書類の説明があり、仕事の愚痴。書類の記入をしつつ、仕事の愚痴。


聞き役っていうのも意外と削られるな。そしておれは生前の親父の手を思う。土仕事をしていた男の手だった。30年以上支払って受取は10年も無いのか・・・親父、収賄ってのは罪深いんだぜ。払い損は天国の門の関税だぞ、たぶん、きっとそう。


そんな妄想に耽りながら、親父譲りの軽トラを、傾きかけた太陽へ向かって走らせた。

人生とは、やりたいことだけやって生きるにあらず。そういうことだ。



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