7眉目秀麗なるうん〇
西日を背に受けつつ中に入ると、数秒注目を浴びる。静かな時間は瞬で霧散する。すぐに猥雑な音がもどってきた。ガヤガヤと話声、バンッと判子を押す音、バタバタ早歩きの音。
「登録と更新いいですか?」
とドルイドさんの声がする。
現在、ランス商会の番頭ドルイドさんと二人で冒険者ギルドに来ている。目に入るのは清潔とはほど遠い荒くれものがたくさん。小奇麗な職員と、それ以外を隔ている、見たことも無いような厚さの木製カウンター。
初めて見る景色を眺めていた。見るものすべてが目新しい。目に入るものすべてに興味がわく。飛び込んでくる情報にパンクしそうだ。想像を超えた夢世界であった。
その中にいたんだ。人生33年、過去に見たことも無いような一笑千金の美女、傾国傾城なる美人。しかも3人も!3人、3人といえばパフューム、いあキャンディーズ。いあいあいあいあ、ビギン、・・・あっこれ落ちだ。
「あれが噂のギルティーズですよ」
さっきまでカウンターにいたはずのドルイドさんの声が、耳元でやけにはっきり聞こえた。
「お気に入りのご様子で。僥倖僥倖。」
おれは頷くことしかできなかった。そして唾をのむ。しかしぶったまげた、あんな美人見たことがない。皮膚1枚だけの美とは違う、メスで切ってトンカチで叩いたメイドインコリアとは違うのだ。
なんだろう心の美しさが滲み出るような、そんなものがあるのだろうか。生気のある白さが一人、粋のいい小麦色が一人、清楚な薄化粧が一人・・・。
「右からリオ、マオ、ミオ。」そしてドルイドさんの説明によるとギルティーズという元Bランクパーティだということ。リオは斥候アタッカーで、鑑定持ちであること。マオは堅固な盾でイージスと言う無敵固有アビを使うこと。ミオはマジックアラカルト、多種多様な魔法を使うのだという。
ドルイドさんの情報はまだまだあった。何とかという場所で、かんとかを倒して名を上げ、どうにかの国でも、こうにかに表彰され、ジャポニカがハモニカでアンニョンハシムです。
まあドルイドさんの話しはどうでもよかった。それよりもおれは「誰でもいいよ」という不謹慎なことを考えていた。
そんな中なんとか書き終え、
「新規登録届、書けましたのでここに置いておきますね」
おれは言って、踵を返す。声をかけられた。よしっ!おれは見えないガッツポーズと聞こえない喝を入れた。
「簡単な面談があります。3番相談室へドルイド様とご一緒にお願いします。」
中央にいるマオはそう言って左右のリオ、ミオに目配せをした。
なんということでしょう。これはより堅固により強硬にお近づきになるチャンスではないでしょうか。緊張もありトイレに行った。鏡が無い。自前の姿見を出した。
髪の毛は整ってるか、鼻毛はどうだ、口は臭くないか、笑顔はこうか、そんなことを、おれはしばらくやって、早歩きで、ノックして、部屋に入った。
「あの自称イケメン金髪ハリネズミなんてさ、C検落ちちゃって涙目ドンマーイってかんじ」
「ウッソ!ナルシーだけにチョベリバーだねー。キャハハ」
そしておれが視線を向けると
「キタキタキタ、あー遅いからでっかいのこもってんジェネ。ってことで、これ素焼きーオレっちの非常食ー。」
おれがキョトンとしていると
「素焼きよ、素焼き。だってカウンターじゃ飲食禁止ジャン。」
「あれはミオが悪いわー、書類に砂糖水溢してー。バッシャー」
「でもでもでもー急に飛び出す、筋肉オネエがさ・・・。」
「ダーカーラーミオのせいだってー、キャハハハハ」
彼女たちは自由だった。
急転直下だった。高低差あり過ぎて、耳キーンである。そしておれは自分に腹が立った。人を見る目が無さすぎではないだろうか。幻滅である。自分が勝手に彼女たちを持ち上げて落としたのだ。虚構だ。砂の城だ。既に冷めていた。何が心の中の美しさだ、ミジンコもねえわ!喋り出すと100年の恋も冷めていく。そんな感じだった。ただひとつ言えるのは彼女たちは何も悪くない。ということだった。
おれにいくつか質問があり、身元保証人となったドルイドさんにもいくつかの質問を終えた。
そろそろ終わりかなと思って興味本位で3人に鑑定をしてみようと思ったときだった。目視出来ない動きだった。
気が付くと正面にいたリオが、おれの背後にいる。そして静かに言う。
「三太のレベルやスキルは解ってる。今鑑定を使おうとしたことも、でもね鑑定は目に魔力が集まるんだよね。覚えておきな、見る人が見れば判るってことをね。」
そう言うとリオは元の席につき、おれにもう一度鑑定を使うように促した。ここでおれは二つのことを教わった。
ひとつは、目に集まる魔力が見える人がいるということ。これは魔力を使う場合、視界を遮って使うほうが良いと言う事だろう。鑑定も下を見ていればいいかも?
もうひとつは鑑定をブロックできるということ。今回は認識疎外という魔道具らしかった。結局、おれは3人を鑑定できなかった。
それでも登録は無事終えた。常時討伐報酬も受け取った。そして、海浜倉庫への帰路。
「対人で鑑定を使う意味は、敵対するということなんですよ!興味本位とはいえ常識が無さすぎです。三太さん解ってます?いあ私がきちんと言ってなかったのが悪いのでしょう。でも、でもですよ、使うときに・・・。」
ドルイドさんの小言は続いている。おれは反省しているという体で視線を落とし、ずっとドルイドさんを鑑定している。レベル21になったドルイドさんはD級冒険者だ。
一方、レベル35のおれはC級だった。ドルイドさんはあっさり抜かれたことが悔しいようだ。それよりも、受付で鑑定持ちのリオが言ったことに、おれは引っかかっていた。
「タイマンだといい勝負するかもだけど、こっちは3人いるんだよ。」
おれといい勝負ということは彼女たちもC級なのか?でもドルイドさんはBランクパーティだと言っていた。
C級冒険者が3人集まってBランクパーティなのだ。きっとそうだろう。
おれはすこし喜んだ。レベル50とかまで上げるとB級を超えてA級まで行くのではないか。
ここの冒険者ギルドには、彼女たちより強い冒険者は見当たらなかった。ということは、ということは、そうだろう、いやきっとそうだ。「にへへへ」思わずニヘラ顔で笑ってしまったおれを、いまもまだ小言を続けていたドルイドさんは睨んでいた。
しかし三太の気分は上々だった。わかってしまったのだ、数日レベル上げをすれば最強になれると言うことを・・・。
「おれさま最強!遂におれさまの時代がきたどー!」納屋に戻った三太は思わず叫んでいた。
(いつまでたっても男とは、子供なのだった)