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うちの納屋には貴族が住んでいる  作者: 山田太郎
一期一会
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5高価な作業着

エルドが倉庫に入ってきた。出荷のためである。エルドは照れながらやってくる。


「おお、なかなかいいぞ!似合っている。」


エルドに新調したのはエプロンである。ポケットがたくさんあって丈夫なジーンズ布で出来ている。同じエプロンのエリザも後ろからついて来た。




---




初対面から数日経ったころ、おれはエルドとゆっくり会話を交わした。

「エルドが食料品を買いに行くときに、清潔な店と不潔な店どっちがいい?」


「清潔な店だね。」

「だよな。忙しいと思うが整理整頓や掃除はしたほうがいいよな」


エルドはバツが悪そうに伏し目がちだった。

「親父がいた時はもっと綺麗だったな。」

「まあわかっているならそれはいい。おれが一番にしたいことがあるんだよ」


エルドは驚いておれを見る。

「一番にしたいこと?」

「うむ。・・・実はこれだ。」


そう言っておれは石鹸、シャンプー、リンス、スキンクリームを見せた。そして使い方をエルドに教えた。


「エルド、ランス商会の長はお前だ。他人はエルドを見てランス商会の評価をするんだよ。そして人は会って数秒で相手の印象が決まる。言いたいことはわかるな?」


エルドは少し考え言った。

「わかる、見た目は大事だってことだよね」


「そう。だからエルドは身綺麗にするわけだ。髪も顔も服装もな。」


おれのいた会社では、最初の数秒で第一印象が決まると教えられた。そのうちの視覚情報は70%を超えるとも。エルドにはまだまだ言いたいことはあった。


爪や姿勢や声のトーンに聞く姿勢、まあいろいろあるが、まさか社員研修の内容がこんなところで役に立つとは・・・。


らしくないな。おれはそう思っていた。他人に教えたり指示するのが嫌で一生一社員でいいやと考えていた。それがどうだ・・・なんでおれはエルドにこんなこと言ってるんだろ、それも懇切丁寧に。




---




エリザはとことこっと小走りでおれに抱きついてくる。エリザは10歳のアルバイトである。10歳で稼いでいるのかと驚いたが、世界が変われば常識も変わると、何度も思い知らされている。


おれは体当たりの痛みに涙目になりながらも、意地で凌いだ。エリザもリンスとシャンプー効果で髪の艶もいい。ビタミン入りの飴やフルーツジュースのおかげか手や顔の肌も綺麗になった気がする。


エリザの頭を撫でながら、日本の商品力の素晴らしさに最敬礼した。

「三太さんこれ、なんか変じゃないですか?」

エルドは言ってくるが、清潔感が出てとてもいい。


「いいじゃんいいじゃん、色もいい。服も汚れないし、丈夫だし、動きにくくはないんだろ?エリザも3割増しで、仕事できそうに見えるぞ。あはは」


エリザはおれに指差して、口を尖らせる。

「あー三太が笑うー」


言いつつ、エリザはポカポカ叩いてじゃれているのだが、ちょっと痛い。


「変だから笑ったんじゃないぞ。エルドもエリザも見違えるほど良くなってるから驚いてるんだ。


あと、ドルイドとアニタが良ければ二人の分も注文するから、聞いておいてくれるか?」


「でも三太さんいいんですか?服は新品だと結構するんですよ?」


えっ?(三太は知らなかった。この世界の服飾は非常に高価なことを。ドレスだと金貨で20枚以上が当たり前なのである、つまり100万円以上だ。


このエプロンもポケットはたくさんあり、細やかに型紙を取って多くの縫製が必要である。もしも工房で作るなら100万円の価値になると、のちにドルイドは言った。


それに平民で新品を着ているものは極わずかである、中古でも10万円はするのだった。月に5万円で家族4人が生活する中で服は貴重品なのだ。しかも中古のそれを繕い、自分で仕立て直し、平民は何年も着るのである。


羊毛にしろ綿花にしろすべて手作業である。採取して洗って、紡いで、織って、縫製する。何度も何度も職人の手が入るのだ。高価で民に行き渡らないからこそ、領主の工房で作らせ半ば赤字で売っているのだ。)


「でもエルド、綿のズボン履いてたよな?」


「これは亜麻ですよ」

たしかに触るとちくちくした麻の感じがあった。


しかも綿はこの都市では貴重品である。今はすべて輸入品。亜麻が一般的で、絹が高級品、海を渡ってくる綿は貴重品なのだ。


し、しかし2000円の通販エプロンが、この世界だと100万円相当とか言われるとプレゼントしずらいな。と三太は悩む。


「そ、そうか。ダメならドルイドさんが止めるだろ」


三太は考えることも無く、他人任せにした。




---




おれはとんでもないものを発見した。何度も何度も繰り返して芋のような根菜を観た。そしてスーパーで確認もしたがゆり根に近いのか?それがおれの限界だった。


この倉庫には変なものばかりある。革は犬っぽいもの、日本の10倍ほどある猪、豚、ワニ、鳥、黒と赤の混ざった木材や角や牙もでかい。ごわごわした布に、黒い石なんて敷石か宝石かもわからない。


そんなとき表示されたのが『ミスリルの勾玉』これはどういうことだろう。確かにおれは今、勾玉を持っている。日本にミスリルってあるわけないだろ。あれは物語だ。


しかもそれが文字表示されている。『ミスリルの勾玉 神事に使用される。銀をも凌ぐ輝きを放ち、鋼よりも頑強なミスリルは強い意志を表す。』そういうテロップが出ています。はい。


そうこれが鑑定スキルとの出会いだった。


「えっ、これって鑑定スキル?」

おれが口に出したのも仕方ないだろう。幼少の頃にやったゲームにあったやつだ。そう思い。「ステータスオープン」と口ずさむのは、33歳の日本人なら常識の範疇であろう。


「ステータスオープン」


種族 人間

レベル 1

HP 34

MP 11

STR 7

DEX 7

VIT 7

AGI 6

INT 7

MND 8

LUC 9


戦闘スキル

魔法スキル 回復6 歌唱5

その他スキル 算術10 鑑定10 運搬10  




もうびっくりであった。視界の下方にこんなの表示されると、言葉も出ない。なんとこの世界はゲームの世界だった。


おれは驚きのあまり、砂糖壺を取り落とした。後退りし、手に当たった砂糖壺も落ちた。恐る恐るエルドに尋ねたがステータスとスキルのことは分からないようだった。


ただレベルに関しては”位階”と称して、あるらしかった。どっちの世界にも隠し事が増えそうだと、おれは胃のあたりに手をやった。


今までの自分の行動を思い起こし、思ったのはこの世界に無駄はない。ということだった。おれがこの世界でやったことといえば、鼻歌交じり(歌唱スキル)に砂糖や塩を運び(運搬スキル)、壺に詰めなおす。


お金の計算(算術スキル)をし、興味のあったポーションを飲んで(回復スキル)みる。あとはひたすら倉庫内の荷物見分(鑑定スキル)である。



そう、すべて行った行為がスキルとなって反映されている。胸が高鳴った、おれは興奮した、GIVE ME MORE SKILLS、もっともっとおれにスキルをー!

そう言っておれはプラトーンのポーズでベッドに倒れ込む。どうやらかなりハイになっているおれであった。


 


この世界で出会った4人のレベルやスキルはこんな感じだ。


エルド レベル12 スキルは片手剣 盾 回避 受け流し 生活 錬金術  


ドルイド レベル19 スキル 片手剣 短剣 盾 生活 錬金術 調理 木工 彫金 馬術 御者


アニタ レベル10 スキル 片手剣 槍 短剣 盾 生活 錬金術 調理


エリザ レベル5 スキル 短剣 弓 生活


ちなみにアニタはエルドの姉19歳らしい。エリザは10歳のアルバイト。




こうみるとすべてがスキルに通じるわけでもないらしかった。

例えばエルドである。エルドは馬術も上手だし、御者も出来るがスキルには反映されていない。エリザはアニタより料理が上手だし、エリザの入れる茶は誰より美味しい。


こんなことからもスキルに反映されない、洩れというか決まりごとがあるのだろうと予想できた。今後はいろいろやってみて行動範囲を徐々に広げ、魔法スキルや戦闘スキルまでも増やしていこうと考えた。




外に向かってすこし歩くと魔物がいるのだという。興味本位で魔物退治に行こうとする自分と、怖れから体が強張る自分もいる。体を動かすのに慣れていないおれの場合、最初はこの海浜倉庫内で出来ることをやろう。


剣や槍もまずは素振りだ。それでもレベル上げに興味があれば、外に出よう。魔物に会うのもいいかもしれない。




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