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うちの納屋には貴族が住んでいる  作者: 山田太郎
一期一会
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4寓話

「旅人がとある街を歩いているとレンガ職人が働いていたんだ。

そこで旅人は聞いた。「何をしているのですか?」


1人目のレンガ職人は答える。「見ればわかるだろレンガを積んでいるんだよ。もう暑くてへとへとさ」


2人目は答える。「壁を作るためにレンガを積んでいるのさ。生活するには金が要るからな」


3人目は答える。「後世に残るような大聖堂を作っているのさ。この仕事につけてとても光栄だよ」


なあエルドお前が家建てるなら誰に頼みたい?」


エルドは即答する。


「三太さん、それはもちろん3人目なんだろう」


「エルドは家の商売しているよな。だから周りを幸せにしてそれでいて自分も楽しく働かないといけないんだ。だってエルドは一生これで食っていくんだからな。


一人目の人は苦役だな。親方にやらされているって感じだろう。二人目は生活や金のため。嫁や息子のために頑張っているってとこか。三人目は使命とか夢とかな。自分の仕事にプライドがあるよな。


三人とも今はまったく同じ仕事をしているんだぜ、それでも三人の話を聞くと彼らの将来が見えるだろ?まったく変わってくるということが。」


エルドは思考する。そして目を輝かせて聞いてくる。

「どういうこと?将来どうなるっていうの?」


エルドは答えを待っている。三太はすこし焦らして言う。

「一人目の人はそうだなあ、数人、人を雇える立場になるかもしれないが将来も同じ仕事をやってる。二人目の人はもっと多くの賃金をもらおうと、危険な崖で橋作ったり、高い塔で仕事しているな。三人目の人は大きな施工を任されたり、もっと有名な聖堂の仕事に関わってるだろうよ。


いいかエルド、人ひとりの出来ることなんてそんなに変わらない。でもなとてつもなく高い場所を目指そうとすると、神様がいい感じに折り合いをつけてくれるってもんよ」


おれはいい話をしている高揚感から江戸っ子になっていた。それでもエルドは大きく頷いた。

「なるほどなあ、いつになくためになる話だったよ。やっぱ三太さんは賢いんだなあ」




エルドと商売を始めて3か月、エルドとおれの関係性もだんだんと親密になった。エルドは好奇心旺盛でおれのくだらない話にも付き合ってくれる。


(三太は15歳の剣戟にビビらされたことを卑屈に思っていた。失った信頼というか尊厳を取り戻そうとしていたのだ。一方のエルドは圧倒的な商品力だけで、十分尊敬できる人だと認識しているのだが、三太にはわからなかった。)




「それで三太さんはなぜ今の仕事をやってるの?」


おれは返事に困った。すこし躊躇い言う。

「こ、婚活かな・・・。」


エルドはキョトンとして尋ねる。

「コンカツ?それは一体何なの?」


「あーわかんないか。結婚相手を探してるってことだ!」


呆けたエルドにおれは言う。


「おれはこう見えて33歳なんだぜ。奥さんの一人も欲しくなるだろ」

二人いあ三人いてもいいなあ。

(三太は小声でそんな欲望を垂れ流したがエルドには届かなかった。ちなみに一夫多妻はドルイドさんに勧められたのだった。)


エルドとおれの間に冷たい風が流れていた。そんな気がした。


(三太は正直であった。そういうところが威厳をキープ出来ない理由でもある。三太は緩くていい人なのであった。三太の思いは一歩進んで二歩下がった。)




---




しかし、正直おれはビビっていた。思った以上に稼いでいるのである。在庫や掛け売り分を含めなくても1000万円ほど通帳の額が増えている。最初の月は50万円、翌月は200万円、3カ月目は750万円。と通帳の額は増えていくのである。


エルド曰く、砂糖の壺が飛ぶように売れるらしい。貴族の奥様方は茶会を開く。一人の奥様が、真白く輝くグラニュー糖を使い始めると、私も私もと競うように売れたのだという。


なるほどこれが世に聞く、奥様方の見栄戦争ってやつか、とわくわくした。


砂糖の仕入れは1キロ350円である。それを販売すると金貨2枚になる。この金貨を買取所に持ち込むと相場にもよるが104000円になったのだ。


ただおれは、エルドとドルイドの困窮を見るに堪えなくて、手を差し伸べただけだった。それだけだったのだ。


ちなみに砂糖は金貨2枚で10万円、胡椒は金貨1枚で5万円、塩は銀貨1枚で0円というのがおれの脳内換算だ。銀貨は純度が低いため買取を拒まれたのだった。


(売れない銀貨は、海浜倉庫の隅に置かれた大きな壺に投げ入れられていた。まるでゴミでも投げ入れるかのような三太のその振る舞いは、エルドとドルイドを一層驚かせていた。)


ここは海浜倉庫だ。ランス商会の曳船業に伴って貸倉庫を営んでいる。まあ海の横で塩の売れ行きは芳しくないよなとおれは思っていた。


おれにとって、3カ月で1000万円は稼ぎ過ぎである。やったことと言えば通販で砂糖を買って、壺に詰めてエルドに渡す。ただそれだけ・・・。


砂糖の1キロが100袋。金貨になると200枚。金貨が1枚約6グラムなので、200枚でも1.2キロなのである。この作業でそんなお金になると思えない。よね?


おれは思う、必要なときは無くて、何とかなるかなって思っていると増えるのがお金なんだなと。




(一方、エルド側では話は変わってくる。番頭のドルイドは通常の1.5倍でも売れますというのだが、エルドの弱腰もあって1.3倍で売ることにした。通貨は金貨1枚10万ドランである。


よって3か月で三太から購入したのは2000万ドラン、儲けは600万ドランだった。エルドにすると2600万ドランの売り上げは、昨年の売り上げの4分の1であるためなかなか頑張っているという程度の評価であった。


しかし番頭ドルイドの目から見ると、純利益600万ドランの功績は昨年の利益に匹敵するものであり、過去の利益最高額700万ドランをあっさり抜くものである。しかも今年はまだ半分も経っていない。


ドルイドは歓喜した。

だがもう十分だと思う三太と、もっともっとと乞うエルド、ドルイドのせめぎあいは今が始まりなのであった。)




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