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記念式典

 八月某日。

『ここルカニード王国では現在メインストリートでルカニード軍を先頭に世界連合混合軍やラフィン共和国の軍まで一緒に合同軍事パレードを行っております。正に世界的祭典と呼ぶに相応しい光景となっており……』


 テレビから流れる中継をフェリクスは軍本部の一室で眺めていた。記念式典への出席は求めらたが軍事パレードへの出席は「技術士官が現場の兵を差し置いてパレードに出席するのはおかしいでしょ」と言って拒否していたのだ。

 実際パレードは各国の精鋭達が参加しており、どの国々も一糸乱れぬ素晴らしい行進を見せていた。


「セシルもこのパレードの何処かにいるんでしょうか?」


 傍らに立つリオが画面を見つめたままそれとなしに尋ねてくる。


「さぁ、どうだろうな。警護がメインとは言っていたが」


 フェリクスがそう答えた時、画面が急に切り替わった。


『今セントラルボーデン軍のルーシェル・ハイトマン元帥が姿を見せました。にこやかな表情をされています。その佇まいからは洗礼された物を感じます』


 テレビが映し出すルーシェル元帥の映像を見てフェリクスとリオは固まった。元帥の横には軍服に身を包み凛とした表情で立つセシルも映し出されていたからだ。


「警護って言ってましたけど本当に身辺の警護じゃないですか」


 驚くリオの言葉に反応する事なくフェリクスは食い入る様にテレビを見つめている。フェリクスもリオも実力があるとはいえ、まだ新兵に近いセシルが元帥にそこまで近い所で警護を任されるとは思っていなかったのだ。


「おいリオ。これディナーパーティーにルーシェル元帥が出席するならセシルも出席するんじゃないのか?」


「この警備体制ならその可能性はありますね。ちょっと調べてみましょうか」


 そう言ってリオがパソコンを操作する。各国の要人達が参加するパーティーの為、出席する者は予め登録する事になっていたのだ。


「大尉、出てきました。古い映画などでよく使われるセリフを借りますと良い報告と悪い報告がありますがどちらから聞きますか?」


「確かにそんなシーン見た事あるな……じゃあ良い報告を教えてくれ」


 リオが笑みを浮かべながら問い掛けてくるのでフェリクスもそれに倣って答えていた。


「良い報告はルーシェル元帥は多忙の為、式典で演説した後すぐに帰国するようです」


「おお、なるほど。それで悪い報告は?」


「ですがセシル・ローリエはディナーパーティーに参加するようです」


「なんでだよ!?」


 小気味の良いリズムで会話を重ねる二人。しかしフェリクスは頭を抱えていた。


「どうやら元帥は帰国の途に就くようですがディナーパーティーにセントラルボーデンとして誰も出席しないのは問題があるとして軍関係者数名がパーティーに参加するようです」


「問題ないから皆帰れよ」


 頭を抱えながら珍しくフェリクスが悪態をついていた。


「そんな帰ったら……明日デートの予定してるんじゃないんですか? それより何も聞いてなかったんですか?」


「いや、あんな近くでの警備もパーティー出席の事も聞いてない」


 リオの問い掛けに信じられないといった表情を浮かべて頭を振っていた。


「……嫌われてるんですか? 何も教えてもらえないなんて」


「な、そんは筈は……二、三日に一回はメッセージのやり取りはしてるし一週間に一回以上は電話でも話してるぞ」


 あえて少し冷たく言ったリオに対してフェリクスはちょっとだけ感情的にその言葉を否定していた。


「……高校生ですか?」


「う、別にそんな深い関係じゃないんだから仕方ないだろ。それにお互い仕事の事はあまり話さない事にしてるんだ」


 リオがからかう様に言った言葉に思わず反論した後、少し俯くフェリクスだったが、その様子からしてそう言われても仕方ないだろう。


「それで何か会わずに済む方法はあると思うか?」

 

「恐らくないでしょう。ちょっとだけ出席してすぐに退席するぐらいじゃないですか? 最も会いたくない場面ではありますね」


 当惑し戸惑うフェリクスを見て、リオも苦笑いで返すしかなかった。


 その後暫くは二人で思案していたが妙案は浮かばず、結局そのまま日は沈みディナーパーティーの時間となる。


 各国の代表や有力者。そこに著名人等も加わり数百人規模のパーティーが開かれていた。

 純粋にパーティーを楽しむ者もいれば自らの権力をひけらかす者もいる。そしてそんな者達とのパイプを作ろうとする者まで、様々な思惑が渦巻いている。


 そんな中フェリクスは一人静かにグラスを傾けていた。


「お久し振りです、シーガー特務大尉。こんな所におられましたか」


 そう言って恰幅のいい紳士が歩み寄って来る。フェリクスに対してにこやかに握手を求めてくるので、フェリクスはそれに応じていた。するとその紳士が手招きすると奥から二十代半ばと思われる女性が優雅に歩いて来る。


「いやぁ実はこの子、ウチの娘なんですがこのような場に慣れてなくて浮いてしまってまして、もし宜しければ話し相手にでもなってやってくれませんか?」


 そう言って紹介された女性は綺麗に着飾られたドレスを纏いにこやかな笑顔を見せた後、丁寧に一礼する。その所作や先程の振る舞い等を見てもとても慣れてないとは思えなかった。


「いやぁ、自分のような者がこんなに綺麗なお嬢さんの相手など務まるとは……」


「あら、シーガー特務大尉お久し振りです。私の事、覚えてらっしゃいますよね?」


 フェリクスが謙遜しながらなんとか角が立たないように断ろうとしていると、横から更に別の女性から声を掛けられる。女性はすぐにフェリクスに自らの胸を押し当てるように腕を組んできた。女性はルカニード国内でも有数の大企業の社長令嬢であり、以前からフェリクスとの距離を詰めようと事ある毎に自分の存在をアピールして来ていたのだ。


 フェリクスは軍の中でも少し特別な存在であり、国王とも懇意にしているのは耳の早い者達には周知されている。その為フェリクスとの良縁を得る為に謀を巡らせる者も少なくはなかった。


「あら、先程は別の方と楽しそうにしておられたのによろしいんですか?」

「私は以前から特務大尉とは約束がありまして……」


 女性同士の静かな激しい戦いに挟まれるフェリクスは困惑しながら視線を周りにやる。

 すると目を見開き、表情を強ばらせてじっとこちらを見つめている女性と目が合った。


 美しいブロンドの髪は綺麗にアップされ、落ち着いた紺色のドレスを身に纏い大人らしさを感じさせる。

 そう、見事なまでにドレスアップされたセシルである。

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