N.G397年 ラフィン戦争⑳
「ヴェルザード、どうした? 何があったんだ!?」
戻ったザクスは急いでヴェルザードの元へと駆け付けるとヴェルザードは力強い敬礼で迎えていた。
「大佐、局面が変わりました……奴らの本命はこっちじゃなかったんです」
「な、何を言っている? 何が起こった?」
困惑するザクスとは裏腹に冷静な対応でヴェルザードが語り出す。
「大佐、奴らの狙いはグランディアスではなく、サダハラの方だったんです。こちらに三万の軍勢が現れたので我々はこちらが本命と思い込みましたが、現在サダハラは十五万の世界連合軍に攻め込まれているようです」
「じゅ、十五万? サダハラに集結していたラフィン軍は確か二万だったはず。数が違い過ぎるだろ」
「本部から既にサダハラ及びグランディアスは諦めケセラン・ハルトでの決戦に備えよとの命令が下されています。いくらグランディアスを守っても最終防衛ラインであるケセラン・ハルトを突破されたら元も子もありません。ひとまず速やかにケセラン・ハルトまで撤退しましょう」
「十五万の軍勢が集結し攻め込まれるまでこっちは気付きもしなかったのかよ?」
「あっちは森林地帯も多く上手くカモフラージュされたのかもしれませんが、こちらの偵察部隊や情報網も思っている以上に寸断されているのかもしれません」
ザクスは仕方なく撤退命令を受け入れ、隊全体にケセラン・ハルトまで撤退する事を伝える。
しかしグランディアスを放棄しケセラン・ハルトまで撤退する事になったとはいえ、全員が一気に撤退する訳にもいかず残って敵を足止めする者が必要になる。残った者達を待ち受ける運命が過酷である事は誰の目から見ても明らかだった。
ザクスは撤収する前にグランディアスの司令室を訪れる。
「指令、我々はここを発ちケセラン・ハルトへ向かいます。あまりお力になれず申し訳ありません」
「大佐か。仕方ない。寧ろ今までよくやってくれた。おかげで君達が出発するまでは十分もちそうだ」
ザクスが深刻な眼差しを向けるとグランディアスの司令官は柔和な表情を向けてきた。ザクスは敬礼をすると司令室を出ようと踵を返す。
「……ザクス大佐、我々の分も頼んだ」
部屋を後にしようとしたザクスに後ろから司令官が声を掛ける。慌てて振り返ると司令室の皆が笑顔で敬礼をしてザクスを見送っていた。ザクスは無言で頷くと再び敬礼をし一礼した後歩み出す。
その後グランディアスに二千程の兵士を残しザクス達を含めた残りの者達はケセラン・ハルトに向けて出発して行く。
丸一日車両に揺られてザクス達はケセラン・ハルトへと無事辿り着いた。そして休む間もなくザクスは司令室へと向かう。
「第十四独立機動隊ザクス・グルーバー大佐只今ケセラン・ハルトに到着しました」
「ご苦労大佐。早速ですまないが君達の部隊も防衛ラインに加わってもらう。君達は本来独立機動隊として単独行動も多かったと思うが今回はサダハラから帰還したイアン・コール将軍と合流してE-4ブロックの防衛戦にあたってもらいたい」
イアン・コール将軍とは、第八遊撃隊、別名ジャッカル隊を率いて次々とセントラルボーデン軍を各地で壊滅させていった人物であり、その獰猛な戦術は敵味方なく恐れられていた。
「了解しました」
短い言葉を残し部屋を出ようとしたザクスに司令官が後ろから声を掛ける。
「ああそれと、先程グランディアスが陥落したらしい」
「……そうですか。残念です」
一度足を止めたザクスはそう言い残し部屋を後にした。
ザクスは命令通り部隊を連れてE-4ブロックに辿り着くとある人物が腕組みをして待ち構えていた。本来ラフィン共和国軍の軍服は緑を基調にした物であるにも関わらず異色を放つグレーの軍服に身を包み、その佇まいからして横暴な印象を受ける。その人物がイアン・コール将軍である事はおおよそ想像がついた。
「イアン・コール将軍ですね? 自分はザクス・グルーバー大佐です。将軍の部隊と合流してこのE-4ブロックの防衛にあたるよう指示を受けました」
「ふっ、ザクス大佐か。黒い死神の異名を持つもんだからもっと早くに駆け付けてくるかと思っていたが案外遅かったな。部隊の戦力はどうなっている?」
ザクスが急いで駆け寄り敬礼をしながら挨拶をするがイアン将軍は冷ややかな笑みを見せただけで尋ねてきた。
「はい。我が隊はソルジャー十~十四名にウィザード一名を加えた小隊が五つ。更に途中合流したR.R隊に自分含めフリーの隊長格のソルジャーが四名にウィザードが三名。後は戦術士官やオペレーター等――」
「ああ後方に待機する非戦闘員はどうでもいい。今回の作戦は軍本体が指揮を執るんだからな。今回は司令部からでた指示をちゃんと伝えられるなら誰でもいいのだ。それよりも大事なのは実働部隊だ。それだけの戦力があれば奴らセントラルボーデンに一泡吹かせてやれるわ」
イアン将軍はそう言うと自らの顎に包帯を幾重にも巻かれた右手を添えて狡猾な笑みを見せる。
「……将軍の部隊はどうですか?合同作戦となると互いの連携も大切になってきます。せめて兵達との顔合わせぐらいはさせておきたいのですが」
「私の部隊?……ははは、私の部隊か。そうか、そうだな……私の部隊は私だけだ。何か不満はあるかね?」
笑って平然と答えるイアン将軍を前にしザクスは困惑の表情を浮かべていた。ジャッカル隊と言われ敵味方から恐れられたイアン将軍の部隊が将軍だけ……
「将軍、まさかそれは……」
「我が隊は私を残して全滅した。共に戦ってきた仲間や部下達はあの化け物みたいな奴らの前に……私を生き残らせた事を奴らに後悔させてやるわ!!」
憤怒の表情を見せるイアン将軍の目は狂気の炎が燃えているようにザクスは思えた。




