N.G397年 ラフィン戦争⑲
ザクス達がグランディアスに到着して二週間が経った頃、ついに事態が動き出した。セントラルボーデン軍がグランディアス攻略に向けて動き出したのだ。その軍勢はおよそ三万。対して迎え撃つザクス達ラフィン共和国軍はおよそ一万五千。
ザクス達は倍ほどいるセントラルボーデン軍を迎え撃たなければならなかった。
「ついに来たか。結局こっちのグランディアスが当たりかよ。まぁ倍ほどいるとはいえ、全てが一気に来る訳でもないだろう。それに後方のケセラン・ハルトからも増援が望めるだろうし、それ程絶望的な状況でもないかもな」
偵察部隊から届けられた情報を見ながらザクスは周りに語り掛けるように状況を分析していた。ザクスの見立ては若干楽観的にも思えたが、それは仲間達を悪戯に不安にさせたりしない為でもあり、また仲間達もそれを理解していた。
「こちらには地の利もあります。それに我々もいます。三万の軍勢でもそう簡単にここは抜けさせませんよ」
ヴェルザードが自信を持ってザクスに追随する。
「よし、では我々は第二波を任されている。命令があるまで全員戦闘態勢で待機だ。いいか、もし撃ち漏らしても俺達の後ろにも他の部隊が控えてる。各自己の目の前の敵に集中するんだ」
ラフィン共和国軍はグランディアス防衛を完全に立てこもるのではなく、ある程度のラインまでセントラルボーデン軍を呼び込み攻撃力のある部隊で波状攻撃を仕掛ける作戦に出た。
「まぁ防衛戦はあまり得意じゃないから指揮はヴェルザードに任せる。リオも鷹の目を使って的確に情報を伝えてくれ」
「まぁ任せて。皆を上手く導くから」
「お任せ下さい。どうかご武運を」
後方に待機する事になるヴェルザードとリオに護衛部隊を残してザクス達は配置に着いた。
程なくして防衛戦が始まる。
まずは第一陣の部隊が迎撃に向けて出撃して行くと暫くしてザクス達にも出撃命令が下される。
「行くぞ!! クリス、ライデル行けるか?ついて来いよ」
「当然!」
「お任せを」
ザクス達は出撃するとセントラルボーデン軍に向けて一気にトップスピードまで加速する。
敵陣の先端まで辿り着くと先に出撃していた第一陣の仲間達がセントラルボーデン軍と激しい戦闘を繰り広げていた。その光景を尻目にザクスは更に奥へと突っ込んで行く。
そうしてやや進んだ所でザクス達は敵に取り囲まれた。
「あれは間違いない。黒い死神ザクスだ! 奴を殺れば特別報奨金がでるぞ!! 皆一気に――」
敵の部隊長と思われる者が指示を出そうと周りに呼び掛けたが次の瞬間彼は地に伏せていた。
「指示を出す前に敵から目を切るなよ」
倒れて最早聞こえはずもない彼の傍らに立ちザクスが呟く。
ザクスの動きに敵部隊が警戒し一瞬場が膠着する。その僅かな好機を見逃す事なく、次はライデル率いるR.R隊が敵部隊に襲いかかった。
「貴方達、いつもこんな無茶してる訳?」
素早くザクスの背後に立ったクリスが少し呆れるように問い掛けた。
「今回は特別さ。今回ばかりは先手必勝で流れを取らなきゃまずい。クリス、十秒頼む」
ザクスはそう言って笑いかけた後、詠唱を唱え始めた。
「敵陣の真っ只中でよくやる! 簡単に言わないでよね!!」
文句を言いながらもクリスは必死でザクスを死守する。襲い来る銃弾や敵ソルジャーの凶刃等を弾きながらR.R隊の奮闘もありなんとか持ちこたえていた。普段より遥かに長く感じる十秒が経った頃、ザクスの眼前に光が集束していた。
「『……彼の者達を焼き払え……』待たせた。伏せてくれ」
ザクスの合図でクリスもR.R隊の隊員達も一斉にしゃがみ込む。
『殲滅光焔矢』
ザクスの眼前より放たれた三つの光弾は数十メートル先の敵陣に着弾すると火球が立ち上がり凄まじい熱量の爆風が吹き荒れた。
ザクス達の視線の先にいた敵部隊は壊滅的な打撃を受け、またその光景を目の当たりした敵兵達は恐れおののき退避して行く。
「ちょっとザクス! 今の魔法、近距離で使っていい魔法じゃないでしょ!?」
殲滅光焔矢の威力を目の当たりにしクリスがザクスに対して詰め寄っていた。
「いや、すまない。敵陣に突っ込んでからの方が効果的かと思ったんだが思いの外威力が強すぎた。一応巻き込まれないように少しは加減したんだが……次は更に奥地に打ち込む。また少しの間頼んだ」
ザクスは再び詠唱に集中し始めるとクリスも変わらずザクスの周りに気を配る。R.R隊が退避行動に移った敵部隊を追撃してくれてるおかげでザクスの周りはぽっかりと敵がいない状態が作り上げられていた。
『……彼の者達を焼き払え殲滅光焔矢』
再び殲滅光焔矢の光弾がセントラルボーデン軍に向けて放たれると数十メートル先にあった敵陣営を焼き尽くす。
「よし、このまま左右に展開している敵部隊にも攻撃を仕掛ける。リオ効率的なポイントを教えてくれ」
「了解! 大佐達から見て右の部隊が押し込まれてる。そのまま右に移動して敵部隊を横から叩く事が出来たら逆に先行した敵部隊を孤立させる事が出来るかも」
「よし、上出来だ!!」
リオから的確な指示を受け移動を開始しようとしたその時、ヴェルザードから通信が入る。
「大佐、至急お戻り下さい。事態が急転しました。第十四独立機動隊全員帰還せよ!」
「な!? ヴェルザード何があった?」
全体的に見ても防衛戦は上手くいっており、ザクス達に至ってはセントラルボーデン軍を押し戻す勢いだっただけにザクスは困惑した。
「大佐がお戻りになってから説明します。ひとまずお戻り下さい」
普段通り冷静に話すヴェルザードの言葉から僅かに焦りのような物を感じたザクスはヴェルザードに従い速やかに身をひるがえし全員を引き連れながら後方で待機するヴェルザード達の元へと帰還して行く。




