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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

零の夢

作者: ときのん

初めて私がソレに会ったのは金庫のように何重にもロックのかかった軟禁室だった。大きな音を立てて開く扉に見向きもせず、ただ一心不乱に壁に付いたモニターを眺めながら手を動かすソレに少しの嫉妬を覚えた。


「アレがお前に担当………おい!勝手に動くな!」

「五月蝿い。少し静かにしてくれないと……ね?」


扉を開けた男を横目に私はそっと肩に触れる。ピクっと反応したソレは困惑したようなつぶらな瞳でこちらを見上げた。私はソレにニコリと愛想良く笑いかける。


「初めましてお嬢さん。新しく護衛の任に着いたノーリと言います。よろしくお願いします」

「……よろしくなんだよ。早速だけど仕事中だからここから出ていって欲しいんだよ」

「護衛が仕事なのでそうは行きません。邪魔しないので私のことはお気になさらず」


少女は顔を(しか)めて頭をガリガリ引っ掻く。あー綺麗な髪がグシャグシャになってる……勿体ない。


「う〜…………分かった。居ていいから離れてなるべく。あと邪魔はしないでなんだよ」

「かしこまりました。お嬢さん」


私が部屋の端の方に移動すると少女はモニターの方に向き直り、作業を再開したようだった。男が私の方に近づきそっと耳打ちする。


「アレは化け物だ。あまり関わることはオススメしない」

「分かってますよそんなこと。分かってないまま仕事を受けるわけないでしょ」

「……どうだかな。まぁいい、昼になったら食事を運ばせる。それまでゆっくり仕事しててくれ」

「はいはい。ゆっくりしてますよ……壁でも見て」


男が退出して静まり返る。たまに聞こえてくるキーボードの音が反響して響く。壁は真っ白で中央付近に置いてある机も白、少女が座る椅子も白、果ては置いてあるベッドも真っ白で無機質なゲームの中の光景の様だ。少女の作業している壁にはモニターが埋め込まれており、色とりどりの映像や無機質な数字とアルファベットの羅列が流れている。


3時間程経った。扉が重々しい音を立てて開き、メイド姿の女性が数名入ってきて料理を並べる。扉が閉まり、女性達は直立不動で壁に並ぶように立つ。


「おーいおじょーご飯だってさー」

「ん………誰だっけあんた。まぁいいやご飯ねご飯……」


少女は椅子から降りず、クルっと椅子を回して移動する。椅子から降りないのに疑問を感じたが、よく見ると足が包帯でグルグルと巻かれており、とてもじゃないが自力で歩けそうにもない。


「あ〜〜ん……ご馳走様。あとは片付けといていいよ」


少女は1口だけ目の前にあった肉を頬張ると残りはいらないと言い、机の方に向き直した。


「はい、お嬢サマ。ご飯はちゃんと食べましょうね〜」

「ちょ、なにするの!」


私は少女を持ち上げ、机の近くに有った椅子に座らせてご飯を口に運ぶ。


「もういらな……」

「ん〜?ご飯食べないの〜?」


ニコニコと圧をかけながら言うと、嫌々言っていた少女は段々と大人しくなり、渋々口に運んだご飯を食べ始めた。


「うぇ〜……なんだよ。美味しくないんだよ……」

「全部食べろと言ってるわけじゃないんだからバランス良くある程度食べなさい」


なんかお母さんみたいだなと思いつつ、嫌なことを思い出して吐きそうになる胃を押さえつけながら言う。結局少女は3割くらい食べたところで涙目になりながらもう要らないと訴えてきた。仕方ないからこの辺で良しとしよう。


私は少女を持ち上げるとモニターの前に座らせた。少女は口を押えながら作業を再開する。吐きそうなのかなあれ。


余った料理は私がまるっと食べ尽くし、メイド達は残った皿を持って退出して行った。久しぶりにお腹いっぱい食べた。最近はあまり稼ぎが無かったから有難い。


何時間か経ってなんだかトイレに行きたくなってきた。とは言え此処にはトイレのような場所は無い。


「えーと……お嬢サマー質問なんですけどお花摘みとかどうしてます?」

「ん?お花摘み??あー……前の人達は1回外に出ていた気がするんだよ。ボクはボクで大丈夫だから気にしたことも無かったんだよ」


なるほど。トイレに行きたければ誰かを呼べと言うことか。正直面倒臭いが……仕方ない。私はあの男に電話をし、ササッと済ませて少女のいる部屋へ戻る。


「どうだ?アレは」

「う〜ん……どうだと言われましても……今のとこは変な女の子って感じですかね」

「そうか……まぁいい。仕事さえしてくれればなんでもいい」


なんでもいいなら話しかけるなよ……と思いつつ仕事はちゃんとしますよっと返事して部屋に入る。最初と同じく少女は作業に集中して無反応。私は部屋の隅に移動してさっきと同じように待機した。


そして夜のご飯の時間。昼と同じく1口で食べるのをやめようとした少女を捕まえ、しっかりと料理を食わせる。とは言え、また全体の2、3割と言った量しか食べてないがまぁいいとしよう。


ご飯を食べて数時間後、体感夜11時を回った頃に男が扉を開け、私に外に出るように促した。どうやら一日の仕事はこれで終わりのようだ。部屋に案内され、中に入りベッドに座る。男が中に入ってきて床に座る。


「女がベッドにいる時に近づいてくるんだ……やらし〜ね〜」

「冗談も程々にしてくれ……お前さんみたいなやつはこっちから願い下げだ…と、まぁ前置きはいいとしてどうだ?アレは」

「トイレの時も言ったけど女の子って感じですよ。仕事も簡単そうです……いつ実行するのかは別として私には勿体ないくらいですねあの子」

「ニコニコしながら言うことじゃないぞ」

「あれま、私とした事がつい口角が……」


アレはいい。バケモノはバケモノでもか弱いバケモノだし、何より女の子だ。私は女の方が男より圧倒的に好きなのだ。今から楽しみでならない。


「……まぁいい。俺達としては仕事をちゃんとしてくれればいいんだ」

「だからちゃんとしますって」

「分かった。おやすみ」

「はーい、おやすみなさーい」


扉が閉まると同時にパタンとベッドに倒れ込み、ノーリは眠りについた。


1ヶ月経った。少女はよく食べるようになった。はじめと比べると有り得ないほど大食いになったと思う。まぁ……私の方が食べるのだが……


3ヶ月経った。少女は仕事の話をするようになった。今日はどんな作業をしたとか、誰が作業の邪魔をしたとか、愚痴ややった事をどんどん話していた。


5ヶ月経った。少女は自分の仕事を説明してくれくれた。大抵は理解できない事で疑問だらけになりながら話を聞く日々だった。


7ヶ月経った。彼女は呼び方を変えた。私のことを姉と呼び、自分の事を名前で呼ばせるようになった。敬語を使うのを禁止にされた。


9ヶ月経った。彼女は自ら外に出るようになった。外に出たいと言い出した時には、あの男達が死ぬほど喚き散らしたが、脅したら何とかなってしまった。


11ヶ月経った。お仕事の話が私に来た。ひと月後。最後の仕事の時間だ。


「今日で1年だってさ、お姉ちゃん」

「そーだね。意外と短かったなぁ」


私と彼女は屋上への階段を上がっていた。彼女を運ぶのは手の長いクマのようなぬいぐるみ……というかアンドロイド?兵器?まぁそれが彼女を担いで登っている。


「まさかボクが外に出てこんなとこを歩いてるとはね〜」

「1年前のあの愛想の悪い感じが嘘みたいだな」


そこに触れないでよ!っと、彼女は頬を膨らませる。私はそれを見て微笑みながら前を歩く足を止める。


「どうしたのお姉ちゃん。あとちょっとで……」

「なぁ音夢。私が今からすること。許さなくていいからさ」

「?何言ってるの?怒ったことも無いし怒ることしないじゃんお姉ちゃん」

「違うんだ。そうじゃないんだよ」


私は彼女に手を伸ばす。縋るように。肩に手をかけ、軽く持ち上げクマの上から後ろへ落とす。足の使えない彼女はそれで死ぬ。階段から転げ落ちて、抗いようもなく。


「ごめんな音夢。すぐ私も行くから待ってて」


私は屋上まで上がる。数名の武装した男達がたってこちらを見ていた。あの男がこちらに笑顔で近づいてくる。


「あのバケモノは?」

「死んだよ。彼女は死んだ。これで契約は完了。仕事は終わりだ」

「あぁご苦労だなレイよ。あぁノーリだったか?……まぁどちらでもいいか。報酬は」

「金は要らない」


背から暗記を取り出し、1番近くの男に振り下ろす。そいつは真っ二つにちぎれて絶命したが、レイは死んだかの確認もせず、突然の事で惚けている男達と一息で間合いを詰め無造作に鎌を振り回す。男達が周りで弾け飛ぶ肉塊を見て正気に戻り、銃を乱射する。


下手くそなそれは味方を撃ち抜き数を減らしていく……が、流石に分が悪い。人が減ると手足を貫く弾が増え、やがて動けなくなってきた。


「あと……ちょっとぉぉぉお!!」

「殺れ」


ボンッと頭の左側で何かが破裂するような音がした。意識が飛び、自分の姿を見下ろす様な感覚を覚える。無数の鉛玉が身体に叩き込まれるのが見える。


「……お前だけは…」


微かに残る意識を手繰り寄せて、右腕で掴んだそれを思いっきり投げつけた。回転して飛ぶそれは目の前の指揮官に当たり、その首を跳ね飛ばしたが、レイはその現場を見ることが出来ずにその場に崩れ落ちた。







「……ここは?」


目を覚ますとベッドに寝ていた。ここは……あぁそうだ。ほしのこめとろとか言う場所だ。うわ、涙が出てる。なんでだ?変な夢でも見たか?思い出そうとしても靄がかかったかのように思い出すことが出来ない。まぁ……いっか。きっとたいしたことじゃないだろう。


レイはいつもの服に着替え、仮面を付ける。さぁ愛しの妹は誰と遊んでるのかな〜

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