零章一話 「 俺、旅立つわ。 」
何も感じない…もしかして、否、俺は多分
死んだんだ。幸せだ。嗚呼、漸く楽になれる。
さて、俺は死後何をしようか。何故か全く
痛みは感じなかった。死後なんてそんな物なのか?
そして俺はこれからどうなるのだ?まぁ、そんな事
どうでもいい。後は何も無い場所でナメクジにでも
転生すればいい。俺は人じゃないなら何でもいい。
〈・種族名が人間族と設定されました。〉
ん?待て、何か聞こえた様な…。日本語なのか?
今自分の空想の世界に入ってて聞こえなかった。
〈・種族名【人間族】は自動翻訳を獲得しました。〉
〈 ・スキル【 暗殺Lv1 】【 思考加速Lv1 】を獲得。〉
待て、日本語だし何か獲得してる?それに人間族?
もしかして……ゲームやアニメで聞く、異世界転生。
それなら最強の能力やスキルを獲得出来るはず!
〈 ・種族名【人間族】は始まりの草原にリスポーンします。以上。〉
さぁ、俺に最強の力を……!クズ共を見返せる能力を!
最強じゃなくてもいい!生前のような何も無い人間には
なりたくないだけなん ………
気が付くと俺は草原に居た。何故?どうして?
困惑が俺を襲い、そして怖いはずなのに何も感じない。
更に俺は麻布の布を着ていた。はぁ、流石神だ。
俺は生前と同じ様に無様に生きろと……服装も適当
人なだけマシだが……と捉えるべきかそれとも
この格好で羞恥心を煽る為か……。
まぁ、良いだろう。人も居ないし別に俺は困らない。
適当に俺は色んなワードを言ってみた。神はロクに
俺にそういう事を教えなかったからな。
「 …… 解析鑑定。………検索。………ステータス表示。」
〈 ・人間族、Lv.1 持ち物 錆びたナイフ 〉
成程。解析鑑定はステータス表示と言うのか。
流石ユーストの世界そっくりなだけあるなと俺は
この世界の制度に感心した。まさかこんなに
ゲームそっくりとは。なら、後は簡単。
「 ....... マップ表示。」
〈 始まりの草原の何処か。〉
………成程。Lv.1は適当なクズな説明しかないのか。
レベル上げ … しないとな。そう思っていると
ぷよぷよとした動く生物……スライムが現れた。
透明な体に核が一つ有る。核は規則的に動き
この液体の体に生を与えているのだろうか。
ふと、無意識にこのスライムに手を伸ばしていた。
マズイ……攻撃される…… と手を引っ込め目を瞑り
覚悟を決めるが…痛みも来ない。それにスライムは
俺に気がついていないのか、それとも目が無いのか…
試しに今度こそスライムに触れてみる……冷たい。
それに意外にヌメヌメしていない。これを
枕にしたらきっと楽そうだ。なんて考えてたら
スライムがやっと抵抗してきた。抵抗と言っても
逃げようとするだけだが……。成程。コイツは俺と同じ
弱者なのか。俺の方が強いから攻撃しない。
成程。なら簡単。お前を見逃す。俺は弱者を
痛め付けるのは好きでは無い。俺を弄ぶ神のように
残酷な事を平気でしてのける子どもの様に
なりたくなんてないからだ。
ぷよぷよしたコイツから手を離し解放すると
コイツもあの猫と同じように前に進み出した。
頑張れよ。スライム。俺はソイツを見送ると
ソイツの体液が俺の頬にべチャリと変な音を立てて
掛かった。………え?何故だ?俺は見逃した。再び見ると
馬鹿馬鹿しい程飾りが着いた剣と鎧を持ったイケメンが
ソイツの核を踏み潰した。そんな光景が目に映る。
「 漸く一匹!勇者として当たり前だな!次々!
どんどん殺しまくって経験値を稼ぐぞ! 」
何も躊躇いもなくソイツは草むらを斬って環境を破壊し
逃げたスライムを踏み潰す踏み潰す踏み潰す。
「………おい、お前。何をしてる?」
俺は怒りと煮えたぎる憎しみを込め
ソイツに声を掛けた。ソイツはお、と一言言うと
「最初のチュートリアルの人かな…」と呟く。
そうか。お前は俺らプレイヤー側なんだな。
「見ての通り、スライムを狩りまくって
経験値を集めてるのさ!説明は要らないぜ。
チュートリアルスキップ!おらおら!死ねぇ!」
ソイツは俺に向かってそう言った。俺はNPCじゃない。
勿論その言葉は意味が無い。俺に構わずソイツは
スライムをいたぶり続ける。小さいスライムも
蟻を潰すように一匹残らず潰して「漸く3レベ!」と
意味のわからない言葉を発する。嗚呼、俺よ。
先程スライムで経験値を稼ごうとした俺よ。
もっと効率のいい方法があるぞ…。俺は夢中になった
アホの後ろに黙って立ち、そしてソイツの首を
後ろから一刺しした。レベルアップ。最高だ。
スライムが赤い液体に染まり前の世界の様に
濁り始める。勇者を名乗るクズが呻き、倒れて
ゲームのモンスターの様に消滅する。コイツを倒した
ドロップアイテムは無いのか。残念だ。
〈 ・レベルが1から5に上がりました。〉
〈 ・レベルアップボーナスにより
スキル【 居眠りLv1 】を獲得しました。〉
〈 ・条件を満たしました。条件を満たした事により
称号【 殺人鬼 】【 狂気 】【 禁忌 】を取得しました。〉
〈 ・付属スキル【 隠密Lv1 】【 身体強化Lv1 】
【 希望ヲ滅ス者 】【 闇魔法 Lv1 】を獲得しました。〉
スライムよ。これで幸せに暮らせるな。俺は
クズの血でヌメヌメとした感触になったスライムを
一撫ですると、何処かに向かって歩き出す。
此処は異世界。殺人を犯しても裁かれず、そして
俺を止めるものは居ない。凡人があの
クズのような恵まれたヤツに
勝つ方法は今のように不意打ちしかなかった。
なら、それでいい。俺は正しい事をした。
そう思いながら俺は血だらけのナイフの鉄屑を
持ちながら無駄に上げたレベルと共に何処かに
歩み出した。